169．やしゃごか？
「その反応は、知ってるの？」
「あ、いや……『困ったな～』かな？……」
「それはおかしい。楽しみって言ってたよ？」
「…………」
沈黙ののち、マキナは聞き間違いだろうと言って爪を噛む。言葉と行動がちぐはぐだよ？
「それで、いつから学校に行く？」
「さあ？ 制服の学校なら制服を、あと通学に必要なものを用意しないと」
何せすべて無くしたから。
「それらや日程をお館と調整しないと、な」
顎に手を当て、マキナは視線を空にさ迷わせる。
さて、今日のお風呂はどうしようかな～？
順番に交代で入ってくれればいいのに、本館の家族風呂だと一度に入ると芋洗い状態だよ。
「ねえ、またお風呂は一緒に入るの？」
取りあえずカエデさんに訊く。
「もちろん」
やはり断言された。
「はあ……そう。ツバキちゃんは──」
「一緒に入る」
左様ですか……。訊くまでもないけどタンポポたちは一緒だと譲らないだろうね～？
「昨夜の失敗を顧みて大浴場にしようと思います」
「失敗では、なかったけど」
「大浴場……迎賓館か……」
「もう来客は帰っているか……」と、思い出すようマキナが呟く。
「やっぱり、あっちね？」
「うん、あっちがいい」
「……洗いっこ」
「いいのか、お前。女ばかりだぞ？」とマキナが注意してくる。
「もう、慣れた……」
いいのいいの。何度も入ってるし。目を伏せて答える。二人っきりになれないなら失敗なんだよ、どこでも一緒だ。
「あ～、今夜は汁だくか、キョウちゃん」
余計なことを言うアヤメさん。どうしてそれを知っている。
「汁だくとは何だ？」
ほら、マキナが興味を示しちゃったよ。
「キョウちゃんの瑞々しい肌を保つには……」
余計なこと言わない。ぎろっとにらんでアヤメさんを黙らせる。
ボクのことはいいんだ。今夜こそは、かさついたマキナの肌を潤わせないと。
「我々もお供します」
お風呂の準備をして迎賓館へ向かおうと部屋を出たところで、護衛たちを代表して羽衣さんが言ってくる。
その後方で笹さん打木さんがすまなそうにしている。
「まあ、いいけど……。家族優先だからね？ 体を洗ったりしないからね？」
「も、もちろんです。我々がキョウ様を洗いますから」
「家族優先って言ったじゃん。ボクはマキナに洗ってもらうから」
「そんな～」
「いいじゃないか。洗ってもらえ──」
え″っ？ 何言ってんの？ マキナを振り向く。
「──お前を連れ戻すとき、みんなで苦労したんだからな」
「う″っ──」
そうかも知れないけどさ～、ボクの入ったカバンを放り投げてたんだよ～？ この人たち。何か理不尽だわ。納得いかない。
「──分かった……。でもさ～、身体を洗うくらい、一人いれば事足りるよね？」
「大丈夫です。この前、四輪──痛！」
「ん！……」
羽衣さんの頭を気更来さんが叩き、お口チャックの仕種をして後ろに引き戻す。
「四輪がどうした？」
マキナが聴く。ボクも知りたいような知りたくないような……。きっとエッちいことだよな～。
「マキナ様が気になさることでは、ありません」
「そ、そうか……」
笹さんが話を断つ。気更来さんが羽衣さんを隅に引っ張っていき小声で説教してる？
気を取り直し一階に下りる。エレベーター前にはタンポポちゃんたちが待ち構えている。
合流して迎賓館へ移動する。マキナに恋人つなぎで歩きたいところ、右腕を絡めるに止まる。着替えとか持たないといけないから。
左手は子供たちの取り合いになり左腕に三人ぶら下がっているのは定期になりつつある。
その様子をカエデさん以下が歯ぎしりして見ながら付いてくる。アヤメさんは我関せずで少し助かる。
「はあ～……」
ため息ひとつし、浴場の門をくぐる。
脱衣場には、そこそこ女がいる。いつも通り。
その一角に陣取って服を脱ぐ。みんな裸になると、そろって浴場へ。
さすがにマキナと腕を絡められないので、空いた手のタオルで前を隠そうとしてるのに、カエデさんたちがそこへ群がる。せめて前を隠す腕を残してほしい……。
「ちょっと、マキナは待っててね？」
「気にするな。子供を洗うのだろ？」
「そ、そうなんだけど……」
「身体くらい自分で洗える」
自分で洗える、確かにそう何だけど～。
くそ～っ、目の前に座るタンポポちゃんの背中に激情をぶつける。
洗って磨いて塗りたくるうううっ！
「ちょっ痛いわよ」
「ゴメン……次、アリサちゃん」
「キョウ、雑になってる～」
「そ、そう？ 次、マナちゃん」
「こわい。今日のキョウは違う……」
「ち、違わない、よ？」
「キョウ、何を焦ってる？」
マキナが諌めてくる。
「焦ってないよ？」
だって……早くしないとボクが洗う場所が無くなるじゃん。
「マナちゃん、シャワーで泡を流してね？ さあ、マキナ。洗うから……」
「ああ、背中を洗ってくれ」
「うん！」
いい返事をしたものの、周りからは冷めた空気が漂ってくる……。
