168.サキちゃんの呼び出し
「こんばんは~。サキちゃん、来たよ~」
「おお、来たか。まあ座れ」
五階の奥、サキちゃんの部屋のドアを潜る。応接室に入ると返事とともに荷物を抱えたサキちゃんが現れる。
「何それ?」
「ミズキのモールから寄越した荷物じゃ。そなたに渡してくれと聞いておる」
些事でワシを遣いおって……と、サキちゃんはため息をつく。
「もしかして服?」
「そのようじゃ」
「やった! 待ってたよ」
大きな紙袋を受け取り、さっそく中身を確認する。
「嬉しそうじゃのぉ」
「もちろん。コレのために恥ずかしい思いをしたんだから」
「そうか──」
そういうと黙って袋を漁るボクを見ている。
「──そなたには、壁内の学校に通ってもらうが、週に数回、壁外の学校を訪問してほしい」
「へ~、そうなったんだ」
「そこでは勉学する必要はないが、できるだけJK? と交遊をもってほしい」
「ふぅ~ん……」
JKって何で疑問形? 女生徒で良いんじゃないの?……もしかして誰かの受け売り?
「……そなた、興味なさそうじゃの~?」
「うん。どうせ行かないって言っても拒否できないんでしょ?」
袋の中の服を広げて見ながら返事する。
「物分かりが良いの~。護衛は付けるし春期も明けよう。早々、拐われることも無かろう」
「あ~、外には、それもあったね」
顔を上げサキちゃんに答える。
「せいぜい外の慰問をしてやってくれ。喜多村のために」
「喜多村のために……。分かった」
喜多村のイメージ戦略にボクは組み込まれちゃってるみたい。
「あの姫君も、しばらく、ちょっかいをかけて来ぬであろう」
「あ~、アンナさんね? どうなったか知ってる?」
「政府から猛抗議しておる。お陰で監視衛星がらみは立ち消えになった……愉快じゃ」
「それで、外の慰問?」
「まあ、それもある……」
意味深に話を打ち切ると終わりとばかり、追い払うように右手を振り、下がれと促す。
ボクは猫じゃないぞ?
「やしゃごか~、愉しみじゃ~」
「ん?」
部屋を退き際、サキちゃんが何か言った。よく分からなかったけど……。
紙袋を抱えて帰りながら「やしゃごか?」と、反芻する。
「ただいま~」
「おかえり。それで?」と、マキナがサキちゃんに呼ばれた理由を訊いてくる。
「服がサキちゃんのところに届いてた」
「そんなことか……」
やや安心してマキナの力が抜ける。
「そんなことって。あと、学校に通うのと外の学校の慰問に行くとか何とか……」
「外、か。学校は通ってほしい。卒業できなくなる」
「別にいいけど。勉強できないのに通ってるだけで卒業できるって間違ってる。お金もかかるし」
「お前な~」
ボクの言い種にマキナが呆れる。
「学校って初等部よね?」
「幼稚園……」
「中等部に決まってる」
ど~して、そうなるの? ツバキちゃんと子供たちが決めつける。それを聞き沈黙するマキナを窺う。
「高等部に決まってるだろう」
面倒くさそうにマキナが口を開く。
「まあ、中等部には、まだ転入してないけど……」
ツバキちゃんは、萎れて呟く。
「編入は、まず誠臨を卒業してから」とマキナは、ツバキちゃんに圧をかける。
「キョウには初等部の先生をしてもらうのよ?」
恐る恐るタンポポちゃんがマキナに反論する。
「いや。キョウの保父さんがいい」
「そうそう……」
アリサ・マナ二人も言い張る。
「ダメだ。キョウが高校を卒業できなくなるぞ?」
「ボクは別に──」
ぎろっとマキナがにらむので黙る。いいじゃん、学校なんて行かなくても……。
「キョウは私が養うから卒業しなくてもいい」
「──できなくてもいい」
「──やしなう」
「…………」
マキナと子供たちがにらみ合う。
「分かった。午前はタンポポちゃんたちのところ、午後は高校。それでいい? そうしよう」
決定! 足りない分は本館で勉強しよう。そうしよう。
「はあああ~、分かった。キョウの好きにしろ。その代わり卒業できないと……」
「できないと?」
「お仕置き、だ」
マキナが、にやりと笑う。こっわ~。
でも、まだお仕置きされたこと、ないけどね~。
「やった~! お仕置き、楽しみ」
「たのしみ……」
「おしおき……」
ちょっと待って? お仕置き、楽しみにされても困惑するんだけど。応援してくれてるんだよね?
一方、マキナは頭を抱えて「どう、許可をもらおう」と呻いている。
「そう言えばさ~? 〝やしゃごか〟って何?」
「……なに?!」ってマキナが声を上げる。
「やしゃごか?」
「……やしゃ?」
「ん?……」
子供たちは未知の言葉に戸惑ってる。
「誰がそんなことを?」
カエデさんが問う。
「サキ──お館様、だけど?」
「「「ああ~~」」」
カエデ姉妹が納得する。マキナは抱えた頭を反らすと顔を手で覆う。
どうしたのさ? タンポポちゃんたちとボクは、ワケ分からず頭に?だよ。