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164.妊娠検査薬


「キョウちゃん、無事だったんだね?」

「ああ、危ないところだったが奪還(だっかん)できた……」

「それで何か問題が?……」


 重苦しい雰囲気(ふんいき)を分かってツバキが言葉少なに()いてくる。

 昏睡(こんすい)状態で連れ帰り、壁内病院で目覚めたものの居もしない赤子(あかご)の幻想に(とら)われていることを説明する。


「──アヤメ姉さん次第なんだね……うちもキョウちゃんのところに居るよ……」


 そう言い、ツバキは子供たちを追って寝室に向かう。



「ただいま~……って、どーしたの?」


 能天気なアヤメがリビングに顔をだす。


「アヤメ(ねえ)、空気読んでよ」


 さすがにカエデもアヤメに文句を言う。


「キョウが赤子が居ないと言って、ふさぎこんでいる。お前が要らないことを言ったせいで……」

「何か言ったっけ?」

「マキナ姉が妊娠(にんしん)してるって姉貴(あねき)が言うから」

「妊娠してるんじゃないの?」

「まだ、してない」

 また言いがかりをつけてくるアヤメに反論する。


「検査はした?」

「妊娠してないのに、するわけなかろう」

「これだから素人は……」


 さも専門家だと言うようにアヤメが処置なしとばかりに(かぶり)を振る。


「ここに妊娠の玄人(くろうと)はいないよ? 姉貴だって妊娠どころか(しょ)体験も──」

「だ、誰が童貞(どうてい)じゃ! (しょ)体験のひとつやふたつ、私だって」

「はあああ……」

 自分と同じ反応で、不本意ながら妹だと確認できた。(しょ)体験に二回はないぞ。


「と、とにかく、検査してダメだったら次は秋だね?」

 そろそろ、春期は大詰めだし……と、アヤメが細長い箱を差し出してくる。


「それは……」

「妊娠検査薬。さっさと検査してすっきりしなよ」

「妊娠してないのにムダだろう?」

「ムダでも何でも、やってみれば?」

「何? 怖いの? 手伝おうか?」

「バカにしてるのか? ひとりでできるわ……。しかし、尿意(にょうい)がな~」

「コーヒーでもガブ飲みする?」

「はあああ……。食後のコーヒーでも飲むか……」

 コーヒーブレイクで落ち着くのも良いかと、メイドを呼びコーヒーを用意させる。



「そんな……」

 トイレに立ち検査器に尿を当てる。しばらく待つと(うっす)らマーカーが現れていた……。


「マキナ姉、どうだった?」


 トイレのドアをノックしてカエデが聴いてくる。


「……ちょっと調子が悪い、な」

「調子って……。アヤメ姉、検査薬の調子が悪いって~」

(さっ)してやれ。冷静になったらトイレから出てくるよ」

「……分かった。妊娠してるって決定?」


「まあ、そうだね~。お披露目(ひろめ)の次の日に妊娠発覚って、二重にめでたいって言って良いのやら。複雑だろうね~」

「マキナ姉の妊娠が分かれば、キョウちゃんの気落ちも解消するかな~?」

「少しはね~。産まれるの先だから……」


 トイレの外がうるさい。好き勝手言ってるが……これは間違いだ。


「アヤメ、他に検査薬はないか?」

 聞こえてくる雑言(ぞうごん)苛立(いらだ)ってトイレから出て()く。


「どれ、見せて?」

「いや、これは違うんだ」

「はいよっと!」

「おい!」

 詰め寄るアヤメから検査器を(かく)すと、回り込んだカエデに(うば)われる。


「これで妊娠してるの?」

「ほうほう……ほんの初期の、着床(ちゃくしょう)したばかりだろうね~」


 二人して検査器のマーカー表示窓を確認している。


「違う。間違いだ──」

「まあまあ、落ち着いて。何なら血液検査してみる?」


 アヤメが押し戻してソファーに座らせる。


「おめでとうございます、マキナ様」

「「おめでとうございます!」」

「私は、御館(おやかた)様に(しら)せてきます」

「あっ、おい! 待て」

 護衛たちが祝いを述べ、先走って打木がリビングから駆け出す。


「まあまあ、心を落ち着けて。妊娠初期は気をつけてね。月並みだけど……」

「そうだ。夕食は何か御祝いにした方が良いね?」

「ねえねえ、妊娠とか御祝いって?」


 寝室からツバキが戻ってくる。


「マキナ姉に子供ができたんだよ」

「えええっ、子供ってそんなに()ぐできるものなの? もっと苦労するんじゃないの?」

「まあ、そうだよ、ね……そこんところアヤメ姉、どうなの?」

「ふふふぅ~ん、キョウちゃんは特別、だからね~」


 わがことのようにアヤメが胸を張る。何を浮かれてるんだ。そう簡単に妊娠などするものか。それが、ぬか喜びにならないと良いがな。



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