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16.閑話:キョウを手に入れる*(喜多村マキナ)


「……来た!」


 私は小躍こおどりした。


 蒼屋あおや家から婚姻こんいん申請しんせい──キョウ君のマッチング表明が出されていたのをキャッチした。


 あのポヤポヤした母親ならばキョウが十六になって婚姻可能になれば、おそからずマッチングに現れると思っていた。


 キョウの身売りをしない限り負債ふさいを無くすことはできないのだから。


 かの家の資産状況からして負債を解消できる余裕ある金額を提示した。


 高校卒業間近なら競争相手も増えるかも知れないが、婚姻年齢に達してすぐならばほぼノーマークのはず。


 資産──というか負債額をほぼ把握しているのも、こちらには好都合に働く。


 婚期を延ばしのばし、適当に理由を付け続けるのもキョウ君を獲得すればしなくて良くなる。


 待ち遠くて、新居──愛の巣を建てたフライングは笑い話だ。


 親族の追及ついきゅうかわすのに役に立ったからオールライトだ。


 蒼屋家からの返答は三ヶ月をようしたが、ことの外、早かった。私は半年を想定していたからな。


 うちの提示額をその時点で越える強敵ライバルは現れるとは思えなかった。


 三ヶ月は辛抱して更なる高額提示を待ったのだろうから、めてあげたいよ。



 早速、お見合いを取り付けると、いさんでのぞんだ。妹たちをびはしたが、忙しいと言って臨席りんせきしないとの返事だ。


 まあ、婚姻の了解は取り付けているので、ようとまいと関係ないが。



「初めまして、喜多村マキナです」


 蒼屋家から型通りの挨拶あいさつを受け、こちらも返す。


 そこは系列のホテルの喫茶、奥の席に移ってお見合いに臨む。


 落ち着いて話ができるのは勿論、他のやからにキョウを見せたくもないし、なにより私が観たい。


 立派な好青年になったなあ~。相変わらず小柄ではあるが。


 改めてごとは言っても、マッチングに提示していたままのことをり返すだけ。


 負債の肩代わりに、婚姻すれば新居で同居、だ。


 同居は忌避きひされるのが普通の男子だがキョウならば許容きょようするだろう。


 母親は前のめりで聴いているから問題ない。キョウは──少し所在なさげだが、たぶん大丈夫。


 万事をくして、伝えることは伝えた。あとは吉報きっぽうを待つのみ。


 キョウたちと別れ、午後の業務に備え帰社していると言うのに電話で了承を伝えてきた。


 小躍りしそうではずむ心臓をおさえつつ車の運転に集中する。


 返事が早すぎだろう。一晩は議論して返答しないか?


 平静をよそおい、ついすぐにでも迎えたいと伝えてしまった。


 それからは、あまり記憶が定かでない。


 家に来ると了承してくれたので舞い上がって幸せホルモンが臨界りんかいを超えて出てしまったからだろう。


 ああ、早く家に連れて帰りたい。


 気がつくとさらうように駐車場の車まで連れて来ていた。


 しかし、まだ仕事が残っている。くうぅ~、早引けするか? 


 さすがにそれは社会人としてダメだろう。忸怩じくじたる思いで仕事をませるのみだ。



 仕事の決済で、かなり待たせキョウを家に連れ帰った。


 帰宅して冷静になると、我ながら浮かれすぎたかと思う。何もかもちぐはぐな対応だ。


 今日は何もしないくらいで丁度いいかも知れないな。


 赤井さんがいるとは言え、不躾ぶしつけにキョウを見てしまいそうだ。


 赤井さんと作ったと言う料理を食べ、キョウのかった風呂に入り……夢のようだった。


 赤井さんが帰ると、辛抱できなくてキョウの部屋へ行ってしまった。


 特に理由もなく部屋を訪れるのは変だろうな。適当な──勿論、お粗末そまつな意味の理由を考えながらドアをノックした。


 返事がないのでドアを開けた。無用心だ。内鍵うちかぎをかけていない。


 中をのぞき見ると、うたたしているキョウがいた。知らなければ風邪かぜを引いていたところだ。


 ベッドに腰かけるキョウのとなりに座って……、座れたことで興奮こうふんは最高潮に達して、そのあと何を話したか覚えがない。


 が、確かなことは私はキョウを手に入れた、ってことだ。早急そうきゅうだったが彼も覚悟かくごしていたのかこばまなかった。


 拒絶きょぜつするならばやめていた。舌をみちぎってもやめていただろうが、受け入れてくれたのだ。


 至福しふくの時を過ごした。


 朝、起きて幸せ過ぎて、それが逆につらく自棄やけになりそうだった。


 私は力に任せて強引に、そう受け入れざるを得ないよう仕向けてしまっていたのではいないか?


 全てが上手く運び過ぎて、魔が差していたのではと自責する。


 しかし、朝のキョウの態度は昨日と変わってはいないで安心する。それが逆に無軌道むきどうに事に及んだ私をさいなむ。


 キョウの顔をまともに見られない。


 ああ、これからは自重しよう。



 朝食のあと、服など買いに出かけた。また、私は自分を押し付けていないだろうか?


 おくせながら婚姻こんいん届を出した。今度こそキョウが私のものになった。


 今夜もそのつぼみ堪能たんのうしよう。いや、ダメだ。自重するんだ。



 ダメだ。ダメだ。自重するはずだったのに。舌の根も乾かぬうちに暴走する私。


 風呂を一緒に入ってしまった……。ずかしい下着を着させて……部屋で待つ、とまで言った。


 言ってしまった。キョウは着てくれるだろうか?


 ああ、ごめんよ、キョウ。明日からは、まともな私に戻るから、今夜だけは……。


 キョウは想像どおりの姿で部屋に現れた。



 朝食を食べ、キョウを学校に送っていく。夜まで離ればなれか……。


 寂寥せきりょうさいなまれながら会社に向かった。


 仕事を処理していると社長──母から連絡が入る。今朝、会議で顔を合わせたばかりじゃないか。


 何だろうと確認すると昼食のおさそいだった。何かやらかしただろうか?


 自問するも答えは出ない。昼になるとダイニングホールの一角にある役付き用のテーブルに社長が着いて食事していた。


 私も対面に着席して食べ始める。


「婚約したその日に相手を連れ込んで、昨日は婚姻届も済ませたそうだな?」


 開口一番、不謹慎ふきんしんな言いぐさが飛び出した。


 まあ、一昨日に婚約の連絡だけはしていたから知っているだろうが。


「よくご存知ですね」


「いつ、家に連れて来てくれるんだい?」


「この週末に本家に行くので、その内にと考えています」


「そうか……。まさか我々を待たせた結果、いきなり婚約の次の日に結婚か。それで、どう(﹅﹅)だった?」


 どこまで知ってるんだ? かまかけなのか。


「ええ、素晴らしい子です。素直で従順でまれにみる男の子ですよ」


誤魔化ごまかすんじゃない。性能だよ、男の」


 これは下世話でいているんじゃない、喜多村の将来に関わる話なんだよ、と母は言いつのる。


「はあ~。大丈夫ですよ。立派な男の子です」


こじらせ処女おとめに分かったかな? 初めてだったろう」


「ど、ど、童貞(どうてい ※)、ちゃうわ! 若い頃は、つまみ食いの一つや二つ……」


 トラウマをえぐられ、つい大声になってしまった。


「……ふむ? 思い過ごしか。下世話な話は声をひそめるように。まったく……」


「母さん──社長が変な話をするからです」


 こっちが全くだ。人の身の下は放っておいてほしい。


「まあ、今夜にでも味見をしておけ。喜多村の大事だからな」


 母は呵呵かかと笑って食事を終えた。私は、そっちに耐性がなくてあたふたしてしまったが何やら誤魔化ごまかせた、のか?


 う~む、身内からすすめられると心底ひかえたくなる。自重しようと思っているのと合致するので本当に控えるか。


 もう放さないし、放す心算つもりもないから、じっくりと交わっていけばいい。


 心も身体も。



※注)童貞は、わらべの貞操なので、男の子、女の子に区別なく使えます(だったはず)。


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