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158.アヤメの奇行


「ふ~ん……なるほど……」


 アヤメは、(ふところ)から黒メガネを取り出し装着する。警護がつけるものとは違うものだ。

 おまけに聴診(ちょうしん)器もかける。それに意味があるのか?

 錠前(じょうまえ)()けの人も奇異の目を向けている。


「なるほどなるほど──」

「おい……」

「──ふむふむ……」


 一とおりキャリーバッグの外観を観察したアヤメが首を(かし)げる。


「おい!」


 マキナは、(こら)えきれなくてアヤメに声をあげる。


「何? 聞こえてるよ」

「何をしている?」

「キョウちゃんの存在を確認してるんだよ」

「そんなことは分かる。分かるが、それで分かるのか?」

「まあまあ、任せてよ。それじゃあ……」

「「…………」」


 ロックスミスとマキナは顔を見合わせる。どう見ても中の様子など分かりそうもない。

 次にアヤメは、転ばせているキャリーを起こす。


「ふむふむ……」


 ぐぬぬぬ……マキナが(うな)る。バッグを起こしたからと言って、やっていることはさっきと変わらない。

 今度は前後のフタの嵌合(かんごう)部分を重点的に(なが)めている、だけにしか見えない。


「なるほど」


 またしても、ひとり納得するとアヤメはバッグに聴診器を当てて聴き始める。

 見当違いにしか見えない検査にマキナは我慢の限界を感じる。


「あ~、薬を過剰(かじょう)に投与したのかな~?」

「薬? それで?」


 マキナが脊髄(せきずい)反射のように問う。


「うん。睡眠導入剤か麻酔(ますい)で、生命活動が(いちじる)しく低下してる──」

「それくらい分かるわ。それで?」


 至極(しごく)真っ当のことを言われキレかけるが今は(にん)の一字に(てっ)する。


「──やっちゃうんだよね~、素人は。キョウちゃんには悪手。(から)に閉じ(こも)っちゃうんだよね~」


 アヤメは、某国連中の方を(さげす)むように振り返る。


「それで?」と待ちきれずマキナが(うなが)す。


「まったく。後処理のことを考えてよね~。このまま連れ帰っても眠り続けるだけで困ったことになったろうね~」

「おい!」


 マキナも振り返り、青くなってる連中を眺める。問題はキョウの処遇だ。


「さすがに直接いじれないと起こせないけどね~。でも、中の人とは通信できる」

「お前……いったい何を?」

「やっぱ、鍵穴が一番通じるな~」なんて(つぶや)きながら、アヤメはメガネ越しにキャリーの鍵穴を(のぞ)いている。


「キョウちゃん……まだ、起きてるよね? 落ち着いて……薬が身体に回らないように防衛機能が働いてる。だから落ち着いて……緊張や興奮するとこっちを受け入れないから……」


 アヤメの言っていることがマキナは理解できない。


「寝~むれ良い子よ~♪……」


 子守り歌を唐突に歌い出す。ますます、理解できない。しかし、まだ我慢だ。


「そうそう……。リンク確保。あ~~……やっぱり麻酔の過剰(かじょう)投与か~。そっちの解毒(げどく)はキャリーから出てからの方がいいね」

 ≪ボク、助かるの。早く出して≫

「あ~、出るのはもうちょっとかかるかな~。慚悔(ざんかい)性をもうちょい下げとこうか。思い出せないかな? 連れ去ったヤツのこと」

 ≪見た見た。あの野郎~、でも黒服黒メガネだから特徴がなくて……≫

「興奮しないで。それで他には?」


 今のアヤメは、キャリーバッグとお話するヤバいやつにしか見えない。


 ≪受け渡されて、ボクが本人か確認したヤツは顔が見えて覚えてる≫

「ほうほう、よ~く思い出して」


 やおらポケットから携帯を取り出し操作し始める。


「ありがとう。はい、キョウちゃんを運んだヤツの顔」

「そんなことは分かってる」


 携帯にはキャリーバッグを運んでいたヤツらの顔が映っている。


「どうしてそいつらの顔が撮影(さつえい)されたんでしょうか?」

「それは……。しかし、証拠(しょうこ)として弱い」


 アヤメが某国(ぼうこく)のヤツにも見せつける。確かにたじろいではいるが。


「どこで()られた? 誰も撮影する機会はなかったよね」

「そうだ。どこかで盗撮(とうさつ)されたに違いない」


 案の定、ヤツらも認めようとしない。


『キャリーの中の人は、本人確認のためアイマスクを取って(ひとみ)の色を確認したってさ。盗撮されたって言うけど、間近で盗撮されたのも分からなかったの?』


 アヤメがロータリア語で話し始める。それほど話せるのに驚く。マキナはある程度分かるもののアヤメほど堪能(たんのう)ではない。


『それは……』

『誘導されるな。はったりだ』


 運び役の二人が狼狽(うろた)えるのを責任者が一喝(いっかつ)する。


『そうかな~。そこの二人で覗きこんでる。携帯に保存された写真でキョウちゃん──中の人を確認してる、としか思えない』


 アヤメが改めて携帯を操作する。静止画をスワイプして動画に変える。


『おい……どこでブツを確認する?』

『まあ、機に戻る途中の物陰だな』


 動画が再生されているが画面は暗くて音声のみ。


『顔は……アイマスクしていると分からん』

(ひとみ)の色も違いない、な』


 アイマスクらしき裏地が外されると(くだん)の二人が映る。


『気持ち悪。おい、眼球が動いてる』

『まあな、夢でも見てるんだろう』

『いや、麻酔(ますい)が効いていて夢って見るか?』

『さあ、知らんな。瞳の色が同じで瞳孔(どうこう)反射もある。もう確認は充分だろう』


 一人が指でまぶたを閉じたり開けたりして、確認している様子が映る。


『どうして、それを……』

『バカな!』


 運び役が焦るのを確認して、アヤメが動画を止める。



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