156.待ちの苦悶
『連絡は着けた。臨検は裁可待ちじゃ。貴様たちは空港警備と連携を取り、いつでも立ち会えるようにしておけ』
「承知しました。──話が通り、許可待ちです。それまでにガードと連絡を取って臨検に備えましょう」
「よし、ターミナルに急ごう」
「歩鳥、斎木は留守を頼む。行くぞ!」
「「「おう!」」」
居残りを申し渡した二人は浮かない表情をしている。できれば全員で臨む方が良いに決まっている。数は正義だ。
しかし、彼女たちは私の雇われ。もし揉み合いになり怪我をしても詰まらないだろう。
しかも今回は護衛の任務から逸脱している。喜多村のものだけで行うのが望ましい。
「待ってください。我らも行きます。連れて行ってください」
「いや。……何かあっても責任が持てない。おとなしくキョウが戻るのを待っていてくれ」
「では、今すぐ解雇してください。本家に送り届けてからは、もう必要ないにも関わらず我々は解雇もされず無駄飯を食みました」
「いつまでもキョウ様の近くに居続けられるのではないかと妄想していました。いずれ解雇されると分かっていても、そう思わずにはいられませんでした。覚悟していたのです、こんな時が来ることを」
「罷めさせられたなら、好きにできます。どうぞ救出に加えてください」
「「お願いします!」」
「お前たち……。非常に危険だ。おそらく頑強に抗われ、命の危険がある──」
「覚悟しています」
「どうぞ、お仲間に」
「──任務を男性警護から要人奪還に変更する。行くぞ」
「それって……」
「……は、はい! ありがとうございます!」
オレも甘いな……。
略取犯が向かったであろう貨物ターミナルを進む。カウンターの受付嬢に問合わせる。
「確かに荷物をロータリア側に渡しています」
「そうか。臨検の手続きがされているはずだ。我々も加わる。通してもらうぞ」
「いや、ちょっと待ってください。確認して人を呼びますので──」
「待っていられない。通るぞ」
「──待って! 今日は何て日なの? もしもし~?」
受付の制止を無視して押し通る。慌ててインターホンで連絡するのを横目に奥のドアを抜け通路に出る。
「駐機場に向かわれるのですか?」
「そうだ。キョウを受け取ったからは、すぐにでも離陸するだろう。エプロンにいるうちしか手出しできない」
「確かに」
後ろからバタバタと駆けてくる音。振り返ると数名の空港警備が慌てて追いかけてくる。
「空けてやってくれ」
回りの警護たちに通路を空けさせガードを受け入れる姿勢をみせる。
「勝手をされては困ります」
「すまない。一刻を争うのでな。喜多村家から男性略取の疑義で臨検の申請がされているはずだ」
「確かに承っています。今、ガードで止め置いていますが。正式に参加の申告をいただかないと困ります」
「あとでやる。逃れられると取り返しがつかない」
「たしかに、曰く付きの国ですが手続きは正規に取っていただかないと……」
ガードとは中々相容れなかったが、理解を示している。問答しつつも移動し駐機場へ続くドアで外へ出る。
「あっ!」
付いてきたガードたちが声を上げる。
目の前で隣国人と思われる二人とガードたちの揉み合いが目に入る。
◇
『退け!』
『しばらく、待ってください!』
『うるさい! 邪魔だ!』
もう、何なの? 揉み合ってる? 揺らされて気持ち悪い。仲間割れでもなさそうだし。どうなってんの?
『止める権利はない!』
『空港警備上の措置です』
『乗り込むのはお持ちください!』
『おい、ヤるか?』
『いや、待て。ここではまずい』
うえ~……気持ち悪い、吐きそう。吐けなさそうだけど。
◆
早足から駆け出して、そちらに向かう。
「何をやってる?」
「どうしても聞き入れてもらえず」
「乗り込むと申されて。あなたたちは?」
「臨検に立ち会う喜多村のものだ」
『リンケン?!』
『キタムラ!!』
臨検と喜多村と聞くや、隣国人が態度を変える。ガードを押し退け航空機に向かおうとする。
機体横に据えられたタラップから黒服が続々と駆け降りてくる姿も見える。
正念場か!
◇
「笹・打木、二人とキャリーを押さえろ。他は機体からの黒服の対処を!」
「「了解!」」
「「「承知!」」」
んん?! マキナの声?
聞き間違い? でも……来てくれたなら嬉しい♪