155.受け渡し(出荷とも言う)
『エ・ロータリア政府専用機に荷物を届けに来た』
『は、はい。エ・ロータリアの方ですか? パスポートを拝見します』
『言葉が通じるようでよかった』
『……ああ』
どこだろう。出国カウンター……じゃないよな。
新しい女性の声が係の人だろうか?
『はい、確認できました。外交官の方ですね。荷物をお預かりします』
『できれば直接、渡したいんだ』
『直接、ですか? 分かりました。係を呼びます』
『専用機に連絡とれないだろうか?』
『少々お待ちください……「──もしもし~?」』
係の人が言葉を変えてしゃべりだす。
「ロータリア機の人に連絡取れない? 荷物を直接渡したいって面倒な客が来てんのよ──」
おお、くぐもって聞こえにくいけど不双語だ。お姉さんは係で間違いない。荷物ってボクだよな。
何とか知らせられないかな……無理だよな……。体が動かないし。
「──知らないわよ。とにかく、連絡取って誰か寄越して? 強面でにらみ続けられる身にもなって、なる早で頼むわ」
『手間取ってるか?』
『不測事態だからまごついてるだけだろう』
なる早はやめて。ゆっくりで良いよ~。そのうち薬が切れ身体が動くようになるかも知れないし。
でも、頭は働く矛盾が理解不能。誰かがボクの恐怖感を煽ってる、とか?
そんなことして何になるんだ。第一、誰かって誰だよ。いや待て、これが明晰夢って可能性もあるな。
ひとりファッションショー(羞恥プレー)で疲弊した精神が悪夢を見せている、とか?
いや、ないな。どれだけ被虐性があるんだ。ボク、Mじゃない、はず。
でも、一番イヤなことを夢で見るとも言うし、最悪に備えて正常性を保つとか?
「お待たせ、マーちゃん」
「マーちゃんはやめて。ありがとう」
『「案内、ありがとう」──受け取りに来た。ブツは無事か?』
『おそらく。追加を射つ前は元気いっぱいで手を焼いた』
『そうか……ここで確認するわけにはいかないしな』
『では、あとは頼む』
『もちろんだ。預かろう』
『確かに渡した。それじゃ』
『それじゃあ』
お姉さんはマーちゃんさんか。もう一人は別の女性を連れてきた?
あ~出荷されちゃう……。あ、動きだした。
『「ありがとう」』
「いえ、どういたしまして。……はあ」
『おい……どこでブツを確認する?』
『まあ、機に戻る途中の物陰だな』
ん? 今度のやつは荒っぽさがマシマシか? なま物は丁寧に扱え。
『ここらで良いか?』
『そうだな』
『開けるぞ』
『ああ……』
相変わらず荒っぽい。どこかに転ばされた? カチッと鍵で開ける音。もう到着? なわけないよな~。
『……脈がない。おい、脈がないぞ?』
『そんな……呼吸もしていないようだ……』
『まずいぞ。どうする?……』
えっ、どー言うこと? ボク生きてるよ? 待って、本当に走馬灯的な夢を見てるんじゃないよね?
『……いや、大丈夫のようだ。浅いが呼吸はしている。ゆっくりだが脈動もしてる』
『そ、そうか……ああ、確かに。驚かすなよ』
『顔は……アイマスクしていると分からん』
『瞳の色も違いない、な』
よかった生きてて……って、まぶしぃ! 無理にまぶたを開けられる。あ~確かに隣国の人だ。ここは……空港施設のどこか?
『気持ち悪。おい、眼球が動いてる』
『まあな、夢でも見てるんだろう』
『いや、麻酔が効いていて夢って見るか?』
『さあ、知らんな。瞳の色が同じで瞳孔反射もある。もう確認は充分だろう』
『あ、ああ。そうなんだが……』
また、アイマスクされちゃう。キャリーのフタも閉められる。
『よし、急ごう』
『そうだな。あの方が癇癪を起こさぬうちに』
身体を起こされ移動し始める。ついに飛行機に乗せられる?
早歩き移動が続くとドアを通る? そこからまた移動。ゴトゴト揺れる。屋内じゃなく外に出たのか。
駐機場なの? もう終わりだ~。
って思ったけど唐突に止まる。
「少しお待ちいただけますか?『ちょっと待ってください』」
『何だ、退け』
何だ、またトラブル? 大歓迎だけど、揺らされると気分悪くなるので止めてくれる? 通じないだろうけど……。