153.絶賛、拉致られ中?
「ン?……ンン?……」
あれ?……真っ暗だ……ど~なってんの?
体の自由も利かない……縛られてる?
この! この! 回りを蹴ったり頭を振って周囲にぶつけて探ってみたり……。
痛くないけど頑丈で破れそうにない。何かの容れ物の中だな~。
『おい、もう目を覚ましたぞ』
『量を間違ったんじゃないか?』
『成人女性が半日は眠ってる量にしたはずだ』
『チッ……追加で射っとくか?』
『そうだな……いや、待て。裁可を仰ごう。過剰摂取で廃人にしてしまっては俺たちの首が飛ぶ』
『そ、それもそうだな……』
う~ん? 話し声は隣国の言葉か? イヤなこと、思い出した……。また、アイツらが暗躍してんの?
てことは……アンナさん、まだ諦めてないの?……。国外追放とかされてないのかよ~。
車で移動してるようだけど、眠ってる間にどれだけモールから離れたろう……。
どうすればいい? 縛られてちゃ逃げられない……。
拘束を解かれるまでは、おとなしくしてるしかないか……
くそ~、ボクを捕まえて何が楽しいんだ?
『ダメだ。必要以上に薬は使うな、だとよ』
『こっちの気も知らずに。人前でキャリーバッグがゴトゴトいったら怪しまれるってのに』
『まあ、コンコースを通りすぎる間くらいなら誤魔化せるだろう』
『やっと空港が見えてきたな。ひと息つける』
『おいおい、渋滞してる……それほど入場に並ぶのか?』
『……さあ、分からん。様子を見るしかあるまい』
『遅れると大目玉を食らうぞ』
動きが緩くなった……渋滞? チャンスかも……。
この! この! 壁を、げしげし蹴る。
『野郎、また蹴り始めた。静かにしろ!』
『……そのうち疲れるさ』
『そう言うがな~。やかましくて仕方ないぞ』
『狭いところで動き回れば酸欠になって静かになる』
『それって……死んだり、しないよな?』
『そこまでは、私たちも感知できんさ』
『…………』
『気にするな。運べと命令されただけだ』
はあはあ、くっそー。近くに誰か、人はいないのか。
機密性の高い車か? 何にしても動きすぎて息苦しい。
……酸欠で死なない、よね? いや、どれくらい閉じ込められてるか分からないんだけど……人を閉じ込めるんだから呼吸できるだけのすき間はあるんだろう。
みんな、心配してるだろうな~。愛の巣を壊され、思い出の品を奪われ、遠い地に避難して、転校する羽目に遭って、おまけに拉致されるなんて。
何で、こんな目に……。
アンナ、赦すまじ!
『やっと、静かになったな……』
『そうだな……』
『『…………』』
『おいおいおい! 前で検問、やってないか?』
『えっ?! ちょ、ちょっと見てくる』
車のドアが開きバフッと閉まる音と振動がする。
目的地に着いたのか? しかし、しばらくしてドアの開閉を音と振動で感じる。
『まずい。車内検査してるぞ』
『何! う~~、上の指示を仰いでくれ』
『分かった』
『ああ、それから薬を使うとも。検査時に物音を立てられたんじゃ敵わない』
『そうだな』
ん~? 着いたんじゃないのか? 降りる素振りもないようだし……。もしかして、トラブル? チャンスかも。
また、壁を蹴る、蹴る、蹴る。縁起でもないけど最後の力を振り絞り。
『ま~た、始めやがって……』
『許可が下りた。きつ~いの射ってやるわw』
『おいおい、ほどほどに、なw?』
んん? 足音が近づいてくる……。開けてみろ。渾身の一撃をくれてやる!
『ひゃっひゃっひゃあ~。お注射の時間だよ~w』
『くっくっくっ……。笑わせるなよ』
カチャっといってフタ? が開いたらしい。女の声が明瞭に聴こえる。でも、どちらに居るか分からない……クソ!
仕方ない。暴れるだけ暴れてやる!
『おいおい、おとなしくしろ』
この! この! 肩を掴まれた。体はどこにある? この! この!
『痛~。蹴られた~! このぉ!』
うぐっ! 横っ腹を殴られた? ヤツは上か~? 脚を引きつけて~~のっ!
『おごっ! こいつ、頭きたっ!』
あ~、またチクッとした……注射されちゃった……。せっかく、蹴りがクリーンヒットした……のに……。
……あれ?
あれ? あれ? 眠くならない……。いや、ぼお~っとはしてるんだけど意識はある。
あ~、でも体は動かないな~。ん~~何でだ??
『大丈夫か?』
『なんともない。一日寝てるように倍量、射ってやったぜ』
『おいおい、大丈夫か?』
『さあ、知らん。ともかく、検問をやり過ごせば終わりだ』
『ああ……』
「すみません。検問です。車内、見せてもらっていいですか~?」
『何て言った?』
『さあ、よく分からんが「はい、はい」「どうぞ」って言ってりゃ大丈夫だ』
「外人さんか~。分かります? 車、見せて?」
「ハイ、ドウゾ」
何だよ~、検問の渋滞だったのか~! 検査の時まで、おとなしくしてりゃ良かった~、くそっ!