151.一人ファッションショー、ふたたび
サガラの言うとおり3番のワンピースを持ってコーナーに隠れる。
「さあ、次は何を着てもらいましょう?」
外ではもう、サガラが次の着替え候補を募ってる。
「8番のエプロンドレス」
「1番の白いワンピース」
なんか続々と着替えが決まっていってる。どれだけ着せるつもりだよ。
「おや? 着替え終わりましたか? キョウくん、皆さんの前へ、どうぞ!」
カーテンのすき間からステージの方を窺うとサガラが手招きする。まあ、着替えたから出ては行けるんだけど。
「さあさあ、こちらへ。……素晴らしい。ヒマワリ畑に現れた天使のようです」
くっ、歯の浮くせりふを……。悪い気はしない。しないけど、ハデな服は気恥ずかしい。
「くるりと一回転しましょうか?」
「一回転?」
「そうそう」
言われるとおり、くるりと一回転する。でも、緊張で膝が笑っていて上手く回れない。ふらふらと倒れそうな独楽みたいになる。
「「「うおおおおっ!」」」
「ひっ!」
アクションすると一々、大歓声が上がり、ますます下半身が強張る。
「次は、こちら、8番に着替えてください」
8番だと言うエプロンドレスを渡される。
「ちょっと、いくつ着替えさせるのさ?」
どれくらい着せられるんだか知っておきたいんだけど。
「そうですね。四十着くらい用意されてるようですので、半分はやっていただかないと──」
スポンサーが納得しない、なんて言う。
う~ん、モールの社長、レンカ義叔母様も噛んでる、って言うか主体なのか?
先日、損害を与えた負い目もあるし頑張るか……。損害は直接、ボクのせいじゃないんだけど。
「後ろ姿も可愛いですね~♡」
「くっ……」
ドレスで後ろをカバーしてコーナーへ逃げる。
生地が濃い青だけど、ふんだんに白いフリルで飾られた白ゴスのドレスだった。
高校生にはちょっと恥いフォルムだ。
メイドさんが着ている簡素なものなら普段使いにできるのに……。
「やや! どこぞのお坊ちゃん、淑男の登場ですよ~!」
「「「うおおおおっ!」」」
いや~、やめて~。
「素晴らしい! さあ、こちらの日傘をどうぞ?」
ステージ中央に進み出るとサガラが白い日傘を渡してくれる。着替えたのは、オフショルダーの純白のワンピースだからね。確かに、これから日射しが強くなると日傘が欲しくなる。
「こちらはラフな感じが良い!」
「「「う~~ん?」」」
オフショルダーのブラウスにデニムの短パンに着替えてステージに出る。サガラは推すが、オーディエンスに響かなかった。
いつからかマキナ姉妹やタンポポちゃんたち、護衛たちまで観衆に交じってリクエストしていた。
何やかんや、二十着は着替えたと思うんだけど……。着替えの衣装は、少なくなるとどんどん補充されて、いくつ着替えたか分からなくなった。
時間も一時間はゆうに超えてるんじゃないかな? 一人でこなすには無理がある。そろそろ、終わりにして欲しい。
「それでは、最後です。こちらに着替えてください」
ラッピングされた衣装を手渡される。
こんなのリクエストにあったかな? 着替えコーナーに入って包装を解くとスラックスの制服だった。
これって、もしかして通う高校の制服?
「「「えっ?」」」
「皆さんご存じの某|高校の制服です」
「──まさか……」
「──うそ……」
「──おいおい」
カーテンからステージに出ると観衆の困惑とサガラの紹介が交差する。
「我々は独自情報をつかみました。近々、キョウくんは蒼湖の高校に編入されるそうですよ? こちらの高校になるかは分かりませんが」
「「「ウオオオオオオオッ!!」」」
「「「やったー!」」」
ボクが高校に編入すると聞くや、会場中が歓声に包まれる。サガラの後半、どこの高校になるのか分からないと言う説明はかき消される。
歓声に圧倒される中、サガラがファッションショーの終わりを告げ会釈する。もうフロアの人間には聞こえていない。ボクもサガラに合わせてお辞儀し、後ろの出入口から退場する。終わった~!
「こちらへ、どうぞ」
「あ、はい」
見知らぬ黒服に導かれ仕切りの通路を抜けていく。後ろにも黒服のガードが付いてくる。バックヤードに戻るや否や、右肩に何かが刺さったようにチクッと感じる。
何だろうと肩を見ると、後ろの黒服が射薬銃を当てていた。
「何?」と問う間に気を失った。