150.同じ轍(てつ)を踏む
旦那の賛同も得られて肌着の着衣を披露しているけれど……
部屋着、いや普段着も欲しいのですよ。学校訪問が明日に控え、そちらも見繕いたい。
屋敷に居ると、もうず~っと着回ししててもいいんだけど。
私学なら制服・私服どちらも可能性があるだろうけど、サキちゃんは公立に行かせたいんだろう。
「マキナ、ちょっと……」
マキナを呼んで通う可能性のある学校が制服なのか訊く。
「公立なら淡津高校、彦寝高校、竜王高校……かな~」
「何それ、竜王? カッコいい」
「……単に土地の名を冠しただけだが。竜王は遠いな、まあ通うなら淡津が近い」
「そうなんだ……公立なら制服だよね?」
「ああ」
よし、決まった。普段着は、好きな服を選べばいい。
「そろそろ普段着とか選びたいんだけど……」
肌着の補充は満たしたので普段着に変えたいとサガラに聞く。
「そうですか。仕方ありませんね~。上着を着て付いてきてください」
「は? 付いていく?」
ワケ分からないまま、ワンピースを着る。サガラたちに付いていくと、ファッションフロアを横切ってバックヤードに入っていく。
「いったい、どこに行くの?」
「特設ステージです」
「……は?」
何を言ってるんだ?
業務用エレベーターで一階に下りバックヤードの出入口ドアの前で止まる。
「少しお待ちください。呼んだら来てくださいね?」
「はあ?」
そう言い残してドアの向こうにサガラが消える。
ドアの覗き窓からは、仕切りがされてよく分からない。
「……皆さん、お待たせしました~。我らのアイドル、少年Kことキョウくんの生着替えショーを──」
何だって~!? 実名曝された~! しかも生着替えって何?
「──では、ご登場いただきましょう! キョウくん、どうぞ!」
それに皆さんって何? 観衆がいるの?
「──キョウく~ん? キョウく~ん?」
「キョウちゃん、呼んでるよ?」
「分かってるけど、人がいっぱいいるのに出ていけないよ」
「女なんかジャガイモだと思えばいいよ」
「ついにキョウちゃんもアイドルデビューか~」
「…………」
タマちゃんたちをにらむ。他人事だと思って~。
重い足を引きずってドアを押してフロアに出る。
フロアでは少ないながらも「キョー、キョー」って掛け声が上がっている。
仕切りでできた通路を少し進むと数段の階段があり、その先がステージになっているようだ。
「ようこそ、キョウくん。みんな拍手~」
「「「うおおおおっ」」」
階段を上がりステージに顔を出すや、雌叫びと共に拍手が湧き起こる。
その音量に体がビクッとなるけど、サガラが示すとなりの位置までぎこちなく歩む。
ステージが設置された場所は、催事に使うスペースかな? いったい、いつの間に。
それに、よく人が集まったものだ。数十人、吹抜けの二階からも人が見ているから五十人はいる。
「キョウくん、いらっしゃい」
「は、はい」
「今、穿いてるパンツの色は?」
「は? グレーです……」
あ、思わず答えてしまった……
「聞きましたか~? どんなのかは夕方のニュース・バラエティーで確認してくださいね~?」
「「「うおおおっ」」」
このぉ~。サガラの後ろに回って横っ腹を突く。
「おっと、キョウくんに突かれてしまいました。見た目と違って狂暴なので気をつけてください」
「「「アハハハハ」」」
「私も突いて~」
「私も私も~」
会場がドッと沸き、サガラの言葉尻に乗っかるやつがいる。
くっ……ダメだ。何かするとネタにされる。腐っても司会者、ボクなんかに太刀打ちできない。
「では、キョウくんに何を着て欲しいかな~?」
「えっ?」
観衆に向かってサガラが訊く。ボクが好きなものを着ていいんじゃないの?
「はい、そちらの紺のスーツの方」
手を挙げた人の一人をサガラが指す。
「3番のヒマワリ柄? のやつ」
3番って何? 答えた彼女の指さす自分の後方を見ると、ハンガーラックに番号が振られた衣装が吊るされている。
よく見たらステージの隅にカーテンに囲われた場所がある。もしかしなくても、そこで着替えるのか。
「では、キョウくん。3番のワンピースを、あの着替えコーナーで着替えてくださ~い」
そう言い隅のカーテンのところをサガラが示す。やっぱり、そこで着替えるのね?
はあ~、やるしかないのか……。