表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/184

15.部活動の日*


 ほとんどの男子は残る内、待機室から死力を振り絞るように五時限に向かう男子たちがいくらかいる。


 それを見ながら、先生に姉妹婚についての不安を告白してみた。まだ他の二人とは会えていないけど。


「お相手は姉妹ですか……。一人ひとりと向き合えば大丈夫」


 そう無碍むげにされないと思いますよ、と応援してもらった。


 姉妹婚は、ごく普通に行われており、他人たちで婚姻を共有するよりは安定して維持されると言う。


 生垣きがき先生は、遠い目をしてボクを見ていた。これが好々爺(こうこうや)と言う風貌ふうぼうだろうか。


 ボクもクラスの男子とホームルームに戻る。女子たちも体育が終わって教室で着替えていた。


 着替え終わったのを確認して教室に入り席に着こうとして……。


「うっ……」


 席に向かうはずだったんだけど、教室のえも言えぬにおいをいでたじろいだ。


 運動あとで女の匂いが教室中に充満していて立ち止まる。


 前をはだけノートなどであおぐ胸元からは下着──スポブラとかキヤミとかがのぞいている。


 あろうことかスカートをまくって中を扇ぐもいる。ズボンのはずり下げていたり、穿いてなかったり……。


 二の足をんだけど意を決して歩を進める。


「ちょっと、換気かんきしなさいよ! そこ、ズボン穿け!」


「そうそう」


 ミナちゃんとタマちゃんはあからさまに不快な顔をして文句を付けている。


 換気とか言っても既に窓は開け放たれてるんだけど、風がないと上手く空気は入れわらない。


 見た感じ、匂いの発生は継続しているし。最近、ぎ慣れている匂いに頭がクラクラしそう。


 〝春〟の季節だししょうがない。今は生垣きがき先生の話にもあった時期(﹅﹅)だから。


 まあ、〝夏〟や〝秋〟の時期もあるワケだけど。


 四限について「何を教わってたの?」と汗をぬぐいながら不躾ぶしつけいてくる女子もいる。


「婦夫生活の心構え、みたいな?」と返しておく。


 何なに? とそれ以上訊いてくるのには無視だ。女子も教わるよ、と誤魔化ごまかす。


 机の下で薬指の指環ゆびわでて思いをめぐらす。ボクについては、何もかも他の二人と会ってみないことには始まらないよな。


 なんとか五時限を終えた。女子のフェロモンをいっぱい吸って心臓の鼓動が早くなり授業に集中できなかったけど。


 ホームルームも済ませると、部活と帰宅する者に分かれる。


 月水金はクラブ活動の日になっている。男子は基本、運動部を禁止され参加しても文化部どまり。


 ミナちゃんは調理部で頑張って、タマちゃんは帰宅部だ。本当は、ミナちゃんと同じく調理部をやりたかったんだけど。


 ボクは特別に許可されて陸上部のマネージャーしてる。部のリーダー格の先輩に入園してすぐわれて仕方なく。


 マネージャーといっても真似ごとでしかなくおかざりみたいな感じだ。マスコット? 部員集めの客寄せみたいにされている。


 ジャージに着替え、おくれて陸上部の部活にでる。


 ここは元女子校から共学になったので更衣室がない。優遇されている男子だけど、更衣室を新設するほど予算がないのか、空き教室を改装して男子更衣室にてられている。


 部室棟に行けば着替えられる女子と、その更衣室の行きがあるボクとではそれだけタイムロスがある。


 グランドの周りを走ってアップ、整理運動。ストップウォッチ、白線引きなどを準備して待機。


 グラウンド縁の階段で飲み物とタオルの番をしながら、タイム計測を言い付けられると、それに当たる。


 特にすることなく黄昏たそがれてると赤井ケイト先輩が水分補給にやってきた。


 このケイト先輩がボクを陸上部に引き込んだ張本人で三年生、七月には卒( ※)が控えている。


 ケイト先輩は、なにか家政婦の赤井さんと似てるんだよね。


 そう思いつつ先輩を見ながらタオルと飲み物を渡す。


「なんか今日は、感じが違うな。何かあった?」


「それが──」


 ボクの微妙な変化を見つけたのか先輩が訊いてくるので、まず直近の教室での匂い騒ぎを話した。


 大元は一昨日からのお見合いからなんだけど、それを話してもどうしようもないしね。


「ごめん。匂わない?……」


 聞いた先輩が、風下に回るようにボクから離れた。


「いえ、外ではこもらないから大丈夫です。先輩はいい匂いです」


「そ、そうか?」


 まあ、過去遠征(えんせい)の帰り同じ車中でいだ匂いは今日の教室ほどじゃなかったし。


 季節がらの時期(﹅﹅)の匂いが多分にあったのと、最近浴びているマキナと似た匂いに条件反射したみたいなものだと思う。


「…………」


「どうかしました?」


 押しだまった先輩がボクの下半身、いや下ろした手を凝視ぎょうししている。あやや、バレちゃったか。


「そ、それ……その指環は?」


「ああ、これ、ね? 先日、婚約したので……」


 とっさに隠しても遅いだろう。右手とかで隠すように心掛けてるけど失敗。


「そんな……婚約……」


 まるでこの世の終わりみたいな顔をしないでください。卒業までに、男は売れていくのですよ。



 一昨日からのあらましを話すと、お見合いですぐ婚約したのに驚き、すぐ新居に迎えられたことにショックを受けて、そこからの話を聞いていない様子だった。


「キョウには……卒業まで……待って」


「えっ、なんです?」


 先輩が何かつぶやいたので聞き返すが答えはない。


「ああ……卒業したあとが心配でね。就職とか……」


 誤魔化すような先輩の告白は、卒業の先が気になって試験勉強や陸上部の練習に身が入らない、というものだった。


 確かに陸上部の成績がかんばしくないようだけど。


 陸上の方はともかく、勉強会でもしましょうか、と提案してみる。集まってやればなんとかなる、みたいな。


「まあ、大丈夫だいじょうぶ。俺、頑張るから!」


「は、はあ……頑張ってください?」


 なにかから元気のような威勢いせいで練習に戻っていく。やはり練習の様子はから回りっぽかった。


 少し先輩とはみ合わない感じが続いたが、部活を終えた。


 家政婦の赤井さんとケイト先輩との関係について訊こうと思っていたけど、また今度にしよう。



 さて、帰りは新しい経路を使って帰るんだ。更衣室に着くとネットで調べてみた。


 路線を確認していると、実家の向こうにマキナの会社、新居は別路線で学園からは実家より近い。しかし、駅から徒歩の距離がかなりあった。


「電車通学はかなりつらいかな?」


 自動車免許がほしい。車もほしい。


 そのうち実家にもらないといけない。身近なものは揃えてしまったので不自由はないけどね。


 なんとなく実家の先、マキナの会社に行ってみようかな、と発想がいた。


 ぜんは急げで、ジャージのまま学園を出た。丘陵きゅうりょうを下り最寄もより駅から電車に乗った。


 車内は人がまばら。ジャージ姿もそれほど奇異きいには見られていない。


 会社の最寄駅で電車を降りる。地図アプリで確認するとすぐ会社だ。


 歩き出すと前を見慣れた人が歩いてる。


「あれ? ケイト先輩?」


 ほぼケイト先輩に違いないと思うけど確認まではできない。こんなところに家があるとは思えない。


 マキナの会社までの道を先輩らしき人を追いかける形になった。


 会社まで、前を歩く人とれることがなかった道程みちのりも会社に着くと先輩(仮)は裏の方に向かう。


 会社の正面に回って確認すると花壇かだんのあるエントランスで間違いなくマキナの会社だ。


 でも正面から入って会わせてもらえるかな? いや、会えるだろうけど、サプライズできない。


 うん、どちらかと言うとサプライズしたいために会社に来たみたいなものだ。


「先輩似の人みたいに裏に回ったら……」


 もしかしたら、裏口から入れないかな?


 急いで裏にまわってみたけど先輩(仮)の姿はなかった。まあ当たり前だろうけど。


 うろちょろすると駐車場側に人が通る裏口を見つけた。


 そこへ行ってみるけどドアにチェックボックスがあって部外者は入れなくしてある。当然か。


 ダメ元で携帯端末をかざすと解錠かいじょうできてチェックをパスできた、ラッキー。


 お邪魔じゃましますと、会社内に入りおそる恐る歩いて行くと、作業着の人に見つかり、「遅い」とおこられる。


「す、すみません」


 怒こる勢いに押されて、ついあやまったら、ロッカーに連れていかれた。



※注)卒業:7月に卒業のシーズンがあり、8月はバカンスで、9月は入学・進級シーズンです。(諸般の事情によりw)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ