148.みんなでお買い物
取りあえずサキちゃんにお伺いを立てるため、五階に上がり奥の部屋に急ぐ。
「おはようございま~す」
「……何じゃ、朝っぱらから騒々しい」
奥のリビングからパジャマ姿のサキちゃんが現れ文句を言う。
「今日、買い物に行きたいんだけど準備してもらっていい?」
「藪から棒になんじゃ。休みの日では人出が多くて買い物などできぬぞ?」
「え~~? 何とかならない?」
「何ともならぬ。しかし……そろそろ御披露目をしてもよいか──」
何? 後半がよく聞こえない。
「──分かった。誰と行くのじゃ? ミヤビ様たちは誘うでないぞ」
「えっ、でも言わないとあとが怖いんだけど? あと、子供たちも」
「そちらはワシが断わりを入れておく。子らは……誘わねばなるまい。許そう」
「ありがとう。できれば仰々しいのはやめてね?」
「仰々しいとは何のことじゃ?」
「この前つかったワゴン車がいい」
「車か。分かった。乗っていくのはワゴンにしておく」
「お願い。それじゃ、タンポポちゃんたちに知らせてくる」
「いや、待て。せっかくなので、壁内学園と市井の学校を見学して来よ」
「学校、の見学?」
「ああ、週明けにも見学に行かせる心算じゃったが都合がよい」
「ボク、学校に通うの?」
「通わぬのか? 婿に来たからと言って学校に通わせぬでは喜多村の外聞が悪い。できれば市井の学校に通い、喜多村が男を囲いこんでいるのではないと喧伝して欲しい」
「あんまり、学校好きじゃないんだよね~──」
できれば働いてお金稼ぐ方がいい。
「──でも、喜多村のためになるなら行ってもいいよ」
「何じゃ、恩着せがまし文言じゃの~。勉学は本人の権利なんじゃ。保護者は教育を施す義務があるのじゃぞ? まあよい、子らに知らせてくるがよい」
「うん、分かった。準備、お願い」
「はぁ~」
サキちゃんのため息を聞きながら二階のタンポポちゃんたちのところに急ぐ。
「それじゃ、行ってきます」
「お気をつけて」
ミヤビ様たち、岩居サザレさんたちメイドに見送られワゴン車に乗りこむ。
幼女たちと山吹タバサさん、マキナ姉妹がワゴン車二台に分乗する。
装甲車二台には護衛たちとタマ・水無と羽鳥来さん、五条先生が乗り、ワゴン車の前後を護る。
当初、買い物にタマちゃんたちも付いてきたがったけど五条先生が許さなかった。今日中に新都に帰らないといけないから。
ならばと蒼湖中央駅に見送りに行く予定にして五条先生を説得した。
あくまで予定。駅に向かう途中でショッピングモールに寄り道するのは仕方ない。
新都なんてリニアに乗れば二時間で着くんだから午後からでも充分なんだよ。
「だまされた~。誰だ、こんな絵を描いたヤツは~」
一時間走りモールに着き下車するや五条先生が吼える。
「だましたなんて人聞きの悪い。少し寄り道するだけですよ?」
「お前かぁ~蒼屋ぁ~──キョウくん?」
ボクに詰めよってくる五条先生の前に護衛たちが割って入る。
先走った警護の笹さん打木さんは伸びる警棒を構えてる。それはやり過ぎ。
「お、お土産を買うくらい自由時間があってもいいでしょう?」
ボクは護衛に隠れて抗弁する。
「ぐぬぅ……。まあいいだろう。水無月と真城との今生の別れを惜しむがいい」
「今生の別れって縁起でもない……」
「そーだそーだ」
「うんうん」
「果たしてそうかな? 蒼屋は、蒼湖の学校に転校する。そして喜多村の広告塔となる運命が待ってる。もう蒼湖から出ることはない」
「「「えっ?」」」
タマちゃんたちが驚嘆する。ボクも同調する。
どうしてそれを五条先生まで知ってるの?……
サキちゃん、情報が漏れ漏れですよ? いや、当然母校には報せないといけないから仕方ないか。
「キョウちゃん、本当?」
「うん……。もう新都に戻れないんだって。だから、こちらのどこかの学校に通うことになるって」
「そんな~」
「私、こっちに残る。キョウちゃんと同じ学校に行く」
「それは、親御さんと相談しろ」
五条先生は、タマちゃんたちの頭に手を乗せると握り潰しにかかる。
「イダいイダい。セクハラ~」
「おミソが漏れるぅ~」
「だから、漏れる訳ないだろ!」
「まあまあ、学校が代わっても、また会えるし……」
いつまでも師弟漫才はやめて、お店に入ろうって勧める。
「漫才ちゃうわ」
「せやせや」
「どこ出身よ、君たち。前はべらんめえだったよね?」
「出身なんてどこでもいいんよ」
「せやせや」
二人をなだめて入口に向かう。五条先生・羽鳥来さんも付いてくると思いきや装甲車に残るらしい。
「で、どこに行く?」
「まずは貴金属を扱うところに。気更来さん、お願い」
「二階のファッションフロアですね」
朝が早いからか買い物客は少ない。でも護衛たちに囲まれて店内を移動すると目立つ。
こそこそ、〝あの〟って言葉が聴こえてくる。だけど、以前ほどは騒がれない気がする……。