14.婦夫の秘めごとなんて話せません……※
【ご注意】
本話の後半、◇マーク以降に【性描写】(口頭陳述)があります。ご注意ください。
教室中が騒然となったので、今のうちにとお弁当をかき込んだ。
「ひ、否定しない、ってことは肯定ってことだね?」
「キョウちゃんはサクセスした……」
覚悟して受け入れはしたけど、傍から見たら襲われたってことになるか。
「女と男の機微って微妙でしょ? 旦那様の名誉に関わるので──」
「旦那!」
「グフッ」
二人が吐血しそうな勢いで噴いた。
「だ、大丈夫? 二人とも」
「は、話して……死んでも死にきれない」
「ふぅ~、ふぅ~」
死んだらダメでしょ。てか、死なないでよ?
昨夜のことなら婚姻後だから問題ないか……。
「二人、対面でご飯を食べたの。お手伝いさんは帰っていないから二人っきり」
「そこから? でも、ご飯は大事」
「ふんふん」
「ご飯を食べ終えて休んでいるとお風呂が入ったってチャイムが鳴って……」
「ふ、お風呂」
「まさか……」
「どちらが先に入るか譲り合ってたら、だん──主人が……」
「ウグッ! しゅ、主人」
「まだ……お風呂に入るまでは保って、私の心臓」
「もう、止めようか? 想像通り一緒に入ったのよ?」
「一緒に、お風呂……」
「まだ、まだ心臓は動いて、いる……うぐっ」
男子二人のお弁当が紅く染まる……。君たち、興味を優先する前に耐性をつけた方がいいよ。
見回したら周りの女子も死屍累々の態をなしている。
「男子のワイ談はエグいってネットで言ってたけど……
「一緒に風呂……未知の領域」
「……私は、もうダメだわ」
「風呂くらいで……ゴホッ、ゴホッ」
お風呂を一緒に入るってだけこれ程とは……。でも全然、話してないんだけどね?
この先、オブラートに包んで話しても婦夫の秘めごとまで言うのはダメだろうな。
ネットに溢れているのは、想像の域を出ていないから仕方ないのかもね。所詮は虚構だと捉えているのかも。
まあ、現実も紛れているんだろうけど判断材料も少ないので検証もできないだろうし、何より当事者の男子から言うことで生々しさがアップされて感じるのかも。
ボクはご飯も食べ終わったし、時間を確認するとそろそろお昼休みの時間も終わりだ。
「きょ今日はこれくらいにしとこう、か?」
「一日、生き延びた」
「同意」
ガタっという教室のドアの方の音に振り返るとアンナさんのブラウンブロンドが見えた。ドアの向こうで倒れている。
また覗いていたのか? ちゃんとご飯食べたんだろうか。
午後からの四時限は、保体倫理。正式には保健体育・生殖倫理だ。
女子は体育でサッカーをやってるらしい。
男子は、おじさん先生、生垣先生が生殖倫理の座学授業にあたる。五十代と聞くその見た目はもっと年上でくたびれて見える。
全校の男子が搾精室横の待機室に集まり授業を受ける。
運の悪いことに、今日の内容は婦夫生活の送り方で、ボクたちにはタイムリー過ぎた。
「先生! 蒼屋キョウくんが結婚しています」
授業が始まるやいなや、ミナちゃんが曝露した。
「ほう……。婚約はありますが、高校に通っている人は卒業間近や卒業してから婚姻するのが通例ですから早いですね」
では、と言って男子の婚姻による有為性について語っていく。
「──ですから、多くの女性と婚姻し、たくさん子供を儲けることで社会が安定し、人が種族として安定するのです」
話は婚姻の話から原初に戻り、絶滅した男を復活させるため女から生み出されたこと。遺った男の遺伝子を基礎に調整したため、旧男性の弱点をカバーできているはず。
だけれども、まだ途上で男性の母数を増やすため子を作り、調整を続けなければいけない、と告げた。
「女性に男の遺伝子の大分を受け持ってもらっています。我々は女性から生まれたので女性の部分もあるのです。女も男も互いに助け合っているのです──」
だから、多少のことは、許してあげましょう、と締めくくった。
「先生、蒼屋くんに新婚生活の様子を聞かせてほしいです」
ミナちゃん。あんた、それほど聞きたいのか?
「ふむ……。この中で婚約している人は?」
ボクも含めて先生たちが部屋を見回すと五~六名が恥ずかしそうに手を挙げていた。
皆、上級生で三年生が多い。やっぱり一年では早いんだ。
「蒼屋さん、話せる限りで話してかまいませんよ。本来、秘められるべき事柄です。皆さんも聞いたことは口外しないように」
生垣先生に手招きされて、しぶしぶ上座に移動した。話さなきゃダメか……許せる限りと言ってもねえ。
◇
「ええっと……その、お風呂に一緒に入って身体を洗ってくれました……」
クラスでの話を引きずって、お風呂の話から始めたけどちょっと唐突だったか、かなりの人がプルプルしだした。
婦夫の協同作業の一番ハードル低いのってそれだと思うんだ。子供のころは、母親に入れてもらってたんだし。
「続けて」
「その……主人は、恥ずかしい下着がお好みのようで、その……」
「赤い下着ですか?」
先生が、ピンポイントで指摘した。
「はい。それを着けて寝室に来いと言われました」
「皆さん、赤い色は女性を情欲に導きます。赤い照明もそうです。そういう状況では覚悟していてください。下着を脱がせていくのも高めるのに一役かいます。続けて」
解説、ありがとうございます。まだ続けますか……。
「部屋に入るとベッドに導かれ、身体を横たえると、その脱がされていって……」
皆のプルプルが最高潮なんですけど、大丈夫かな~?
「ご主人は、脱がせる人ですね。脱ぐよう言って眺めるのを好きな人もいます。続けて」
「えっと……その身体を愛撫されて、その至るところを」
「女性も高めるのに努めているのです。普段、触れない場所に触れることで、あなたの未知を解き明かして行くと脳が悦ぶのです」
「吐息が荒くなって、その……たぶん体液を飲まされました」
「それは、男性の性欲が女性に握られているからです。女性の準備が整わなければ男は高まらないのです──」
その点については、女性側で教えられているはず。ですので身を委ねていれば良い、と解説する先生。
「──旧男性の悪いところが改善されましたが、反してそれを悪用する女性が現れました。嘆かわしいです」
見知らぬ女性からの飲み物などは飲まないように、と先生は付け加える。
「えっと、そうすると身体が熱くなって目の前の主人が愛おしくなって……夢中で……サクセスしました」
「微笑ましいですね。精液と精子の出し分けはできましたか?」
「はい、たぶん」
初めてはできたと思うんだけど、そのあとは頭がしびれていて自信がなく分からないので黙っておく。
昨晩は、婚姻が成立していて気が緩んでいたし、観覧車や海を見たことで高ぶっていたのか出してました。
「必要でないのに精子は出さないように。搾精の義務もありますし、女性の卵子の準備ができていないとムダになってしまいますからね」
不必要なら精液のみにしておきましょう、と。
四期か二期の排卵期には分かりますから、精子を望まれればその限りではない、と言う。
「それで、睦みあった感想はどうですか?」
「はい。こんな幸せがあったんだと知りました。結婚して良かった、幸せだと感じました」
「そうですね。今は法規や公的援助があり、昔よりは結婚生活を維持しやすくなっています。皆さん、同居しなくても婚姻を検討してみてください。今日はこれまでとしましょう」
「蒼屋くん、ありがとう」と言って先生は、きれいに授業を締めた態ですけど、部屋の男子は顔を真っ赤にする者、物理的に真っ赤になっている者で溢れていますよ。
また、死屍累々です。
※注)精液と精子の出し分け:解説のとおり精液のみと、精子と精液の混ざったものとに意識して出し分けできるように調整されていますが、その訓練は必要。飲酒時や就寝時はその限りではない。
※注)四期か二期の排卵期:この世界の女性に月経は存在せず、月の憂うつから解放されている。年に四期か二期、到来した卵子育成時期に男性の精液によって成育、排卵を誘発します。
来るべき時のため、やはり子作りの予行演習としての性行は必要のようです。