136.披露宴?
気更来・羽衣両名の先導で食堂を兼ねるホールへ移動する。っても数十歩だけど。
「煌家羽徳殿下、ご入来!」
ホールに響き渡るマイクでアナウンスされ、ビクッとする。
ざわめいていたホールの話し声が静まるやガタガタとイスを引く音とザザッとひれ伏す音が交じる。
その音でまた体が震える。
ホールには三列の長テーブルが上座から下座に向かって並ぶ。そのテーブルの横に喜多村の人々が跪いている。
上座には、その三列とは直角に一列の長テーブルが据えられ、サキちゃんとユキ様がひれ伏している。
テーブルの所々には四つ足、おそらく豚の丸焼きが置かれている。
「わらわは、仰々しいのは好かん。皆のもの、楽にせよ」
ホールに入るやミヤビ様が宣う。その鶴声がホールじゅうに轟く。
有無を言わせぬ威勢に跪いていた皆がしずしずと立ち上がっていく。
さすが、ミヤビ様は場慣れしてらっしゃる。部屋に入ると護衛たちは壁際へ逃れる。そこにはメイドたちも待機している。
「こちらへ」
サキちゃんが席までミヤビ様を導くとレニ様と並んで座る。
「そなたは、あちらじゃ」
どこに座ればいいのか、まごついているとサキちゃんが上座テーブルの奥を示す。
ボク、上座に座るの? サキちゃんと義曽祖父ユキ様は、ミヤビ様たちのとなりに座る。
仕方なく奥に進んで空席二つのうち、一つに座る。一つはマキナの席だろう。まだ、着いてないのかな? 会場じゅうからの視線が痛い。
見回すけれど上座には年上の人ばかり。見知った人は、マキナの勤める会社々長・義母ミズキさん、義父ヒロ様、たぶん誠臨学園理事長・喜多村アオイ先生、ショッピングモールの社長・喜多村レンカさん。
義祖父ショウ様と知らない女性たち。たぶんショウ様のとなりに座る女性が義祖母様かな~?
「本日は、煌家ハノリ殿下、山級レイニ様の臨席をたまわり、新しく喜多村家に加わった男子を紹介・披露する──」
朗々とサキちゃんが述べる。
「──直系継嗣マキナの婿となった蒼屋キョウじゃ。あいにく、マキナの到着が遅れておるが、紹介する」
サキちゃんに示されてボクは立ち上がる。注目する視線がいっそう強くなる。
ず~っと奥にタンポポちゃんたちがいるね。そこに今すぐ行きたいよ。
「キョウよ、ひと言述べよ」
え~っ? 無茶ぶりしますね~、サキちゃん。ダメダメって隠して手を振るけど聞き入れられず。
メイドさんの差し出すマイクを受け取る。
「え~……ご紹介いただきました蒼屋キョウです。──」
こんな時、何言えばいいんだ?……
「──縁あって喜多村マキナ様の伴侶となりました。末永くマキナ様姉妹を支えていきたいと思います。本日は、ご参席くださり、ありがとうございます」
「「「お″~~~っ!」」」
話し終わり一礼すると拍手と唸る歓声がホール内に轟く。結構、のりのいい人が多いね? 喜多村家。
「まだ、座るでない──」
拍手がまばらになって来たころ、頭をあげて座ろうとするとサキちゃんに止められる。まだ、何かある? マキナが来た、とか?
「──ここに御座すハノリ殿下は、まだお子がおられぬ」
あ~~、その話か~!
「そこで子種を、こなたのキョウが捧げることとなった……」
サキちゃんがボクを示して告げる。それを聞き場内が一斉に騒がしくなる。まあ、みんなハノリ殿下が臨席される意味が分からなかっただろうし。
「静まれ! よいか、このことは極秘じゃ。一切、口外はまかりならん。お子はレイニ様、ここには居られぬ金堂ヒセン様の胤として育てられる」
そこで一旦、言葉を切り会場を見回す。
「このことは喜多村始まって以来の快挙である。ゆめゆめ漏らすことのないように、な? でなければ喜多村への風当たりがますます、劇しくなるであろう。殿下……ひと言ございますか?」
「うむ……皆の者、往くは喜多村の未来を継ぐマキナ殿の伴侶に横恋慕してあい済まぬ──」
ハノリ殿下が頭を下げる。一同は、それをどよめきで応える。
「──わらわは、それでもキョウが欲しかったのだ。ここなレイニも許してくれた。子ができればレイニに共にわらわも煌家継嫡として面目を果たすことができる。喜多村の皆よ、少しの間、目を瞑っていて欲しい」
言い終わるとちらほらと拍手が起こり、やがてホールが沸き上がる。
その拍手の波を受けてハノリ殿下は何度も頷いた。