132.みんなの糾弾
「別に汚してはないはず、だよ? 汗かいたし、お風呂に入ったから着替えただけ」
冷や汗がにじんでくる。あ~汚れ物はどうしたっけ?
「メイドが愛しみ抱えて持ち去っておりました」
「えっ?──」
急いで笹さんを見ると……控えめに頭をふる。まあ、知るわけないよね。
「──さ、さあ? 回収ボックスに放りこんだから、そのあとは分かりません」
持ち去ったメイドに心当たりはある、けど……。どんだけアンテナ高いんだよ、あの人。
「不審な素振りでしたので検分したところ、寝具に包まれた中から襦袢が見つかりました。それが……その、あの……睦みあったあとのような……──」
あ~、そこまで見られたのか~!
「──それにキツい匂いを伴って……余は臭いでくらくらしてしまいましたぞ」
「キョウちゃん!」
「なるほど~、キョウちゃんはやっぱり凌辱されてた」
「いや、それは、その……おもらし、しちゃってた、かも?」
「正直に言った方がいいよ? 身内を庇うのは分かるけど」
「誰? 誰にヤられたの? そこの笹さん? それとも……」
タマちゃん……変な勘ぐりは身を滅ぼすよ? 向けた視線は警護・護衛たち、特に羽衣さんに注がれている。
「ごくり──だいたいボクのものとは限らないでしょう? 他に襦袢を着てる人、いっぱい居るよ、たぶん」
「それは……」っとレニ様の語威が弱まる。
「むむっ……騙されちゃだめ。キョウちゃん、論点を逸らしてる」
くう~っ、タマちゃんは一々するどい。
「もはやこれまで……──」
「笹さん?」
膝を折った笹さんが、その場で胡座を組むとジャケットを脱ぎ捨てる。
「──あの時、あまりにお可愛いらしいキョウ様に劣情を催し蹂躙してしまい……」
シャツを肌けると腹を露わにする。
「笹さん、ちょっと?」何言ってるの?
「打木、介錯を……」
「承った」
笹さんが腰から短刀を出すと刃を腹に当てる。打木さんも刀を取り出すと刃に目をやり透かして見る。
「この身を以てお詫びいたします」
「──ちょっとちょっと。何やってんの?」
「笹、お前だけに被せはしない」
「わ、私も……」
気更来さんも、その場に座りこむと前を肌ける。続いて、歩鳥さんも倣うと斎木さんまで追従する。
「ちょっと、みんなやめて?」
「いいんだ、みんな。その責めは私にある……」
奥から羽衣さんが最前に出て座りこみ、同じように前を開けると抜いた短刀の刃を腹に当てる。
「レニ様、もういいでしょう?」
「か、かようなこと、はったりに決まっておる。義兄上、そもそも御身を護る護衛が牙を剥いたのです。厳正に処罰してしかるべし、ですぞ?」
これはもう……言わなきゃ……。
「いいんです。これはボクが望んだから……。みんなは悪くない。だから……」
「なるほど……そうでしたか。ならば、仕方ありません」
「えっ?」
黙したレニ様が、口を開くと肯定する言葉を吐く。
「いつかはヤると思ってた。キョウちゃん、ゆるゆるだし~」
ええっ?
「見誤った……ゆるゆるどころか、がばがばだった……」
えええ~っ!?
「タマちゃん、ひどい。みんなのためにボクは……」
「「みんなのため?」」
「──いや、なんでもない」
「そうよね~。キョウは私たちのわがまま拒否しないし、来るもの拒まず、すべて受け入れる〝総受け〟だもの」
「タンポポちゃん〝総受け〟はひどくない?」
ゲームを止め論戦に加わりタンポポちゃんが言う。わがままって分かってたんだ。分かってたら、わがまましないでよ。
「キョウは、そうけ」
またマナちゃんが要らない言葉を覚えてしまった。アリサちゃんは……タンポポちゃんに代わってゲームしてるか。
「余はてっきり無理やり……。義兄上、濫行は程ほどになさいませ」
「は、はあ~? 自重します?……」
レニ様がダメな子を諭すように言う。ボクがする分には問題にならないっておかしくない? ボクならやりかねないって思われてるのも納得いかない。
「笹さん、自刃なんてボクは絶対許さないからね」
笹さんを立たせ、他のみんなにもキツく言いつける。
「皆のもの騒がせた。時間も頃合い。昼餉にいたそうぞ」
「そうだね。お腹減ってきた」
「うん、早く小説にまとめねば」
タマちゃん……小説はやめて?
「マナ、部屋に帰ろうか? アリサ、帰るよ?」
「うん……」
「──えっ? もうちょっとでクリアなのに~」
タマ・水無は迎賓館へ。タンポポちゃんたちは二階に下り、レニ様とボクは自室へ、護衛の待機部屋をあとにする。なんか振り回されただけの朝だった。