131.護衛待機部屋へ*
レニ様がタマちゃんに会いたいってこう言うことだったのかと今さら気づく。
「みんな、いる~?」
いるのは分かってるけど、どうか、だらけてませんように……。
護衛たちの待機部屋のドアをノック、ゆっくり開けて部屋に入る。
「どうされました?」
一番に笹さんが出迎えてくれる。まあ、この人は心配してない。他は?……
「おはようございます。これは一体?」
タマちゃん水無ちゃんのみならずレニ様まで引き連れて部屋に入って行くと、気更来さんが焦って出迎える。彼女も黒服に着替えてて、まずまず合格。
その後ろの者たちも着替えてはいるか。でも……羽衣さんがゆるゆるだ。
着崩したみたいジャケットがずれてるし、ネクタイを緩めてシャツも何か変。ボタンをかけ違ってるのか?
「ちょっと、昨夜のことで──」
「そなたら、義兄上とゲームとやらをしたそうだな」
機先を制してレニ様が直球で斬り込んでいく。ちょっとボクに説明させて?
「キョウちゃん、身体じゅうが傷だらけなんだけど?」
「ゲームの詳細」
「そう、キョウに変な事しなかったでしょうね?」
「キスマーク?」
「うん、まーく?」
みんなが一斉に質問する。
「──みんな、そんな一度に聞いても分からないよ。ちょっと笹さん」
「なんでしょう」
「ちょっとそこ、口裏を合わせようとしてないでしょうね?」
笹さんを隅に連れて行こうとしたら水無ちゃんにブロックされた。まずい……。
「それで、何をお聴きしたいので? ゲームですか?」
「そう。ゲームでキョウちゃんに傷つけたでしょう?」
「どうすれば義兄上に傷などつける?」
みんなに見えないようボクは、笹さんに向けて小さくシャドウボクシングしてみせた。
「はあ~? ただのシューティングですが?──」
ガックリ……ボクのサインは笹さんには通じなかった。小首をかしげて訝しげだったしね。盛大にため息ついたら困惑される。
「──動き回りますので接触して傷はつくと思われます。傷つけていましたらキョウ様には申し訳なく思います」
「シューティング? 格闘ゲームじゃ?」
「──あ~、シューティング、そうシューティングだったかな~?」
取り繕って笹さんに同意する。
「なんで夜のこと覚えてないのさ? 怪しい」
「それは、ほら、一晩寝たら記憶ちがいってあるでしょ?」
「ん~、それはあるかも……」
「だまされない。現物確認」
「お~、そうだ。現物、見せてもらおうか?」
「いや、それは──」
物を見せちゃったら弁解できない。笹さん気づいて。
「いいですよ。こちらです」
終わった~。笹さん、正直すぎ。ゴーグルが置かれたテーブルにみんなを案内する。
「ふう~ん、普通っぽいね?」
「これは今できる?」
「できますよ。どうぞ」
「ありがとう。はい、タマちゃん」
「え″っ? や、私はゲームしたことないし、水無ちゃんがやればいい」
「私もしたこと、あまりないよ?」
「これは誰でもできますよ。ほら着けてあげます」
そう言い、笹さんは水無ちゃんをソファーに座らせるとゴーグルを着ける。
「あわわわ……」
「大丈夫ですよ?──」
慌てるボクのそばに来た笹さんが囁く。
「──一般人には特殊効果は発揮されません」
「えっ? アレってボク専用?」
「まあ、そのようなものですね。普通の人はただのゾンビ討伐ゲームです」
な~んだ、心配して損した。
「うわっ、きんも~。タマちゃん、やってみなよ」
水無ちゃんは銃型のコントローラーを振り回してゲームの最中のよう。
「キモいのは勘弁。でも、となりにいると腕とかコントローラーが当たる可能性はある」
「なんじゃ? やはり義兄上の言うとおりで我らの勘違いなのか?」
「うっわ~、ほんとキンモ~」
タンポポちゃんまでゴーグルを装着してゲームを始める。マナちゃんアリサちゃんまで興味津々。
「で、では、なぜお風呂に入ったのですか?」
「えっ?」
レニ様が唐突に話をふってくる。
「ぬ? む~んお風呂……」
「そ、そりゃ汗かいたから」
「キョウちゃん、お風呂のこと聞いてない」
「そうだね。情報はしっかり開示してもらわないと」
ゲームやってりゃいいのに水無ちゃんが参加してくる。
「それにご自分の足では帰ってこられなかった」
「えっ? それってどう言う?」
「誰か分からぬが、おそらくそこな者が抱えて連れてきている」と言って笹さんを指さす。
なんでそこまで覚えてるんだ。格ゲーとシューティングを間違えてるボクがおかしいみたいじゃないか。
「確かに自分がお連れしました。眠ってしまわれましたので」
「眠った? お風呂で? ゲーム中?」
「そ、それは──」
笹さんがボクを窺うので、うなずく。
「──お風呂、です」
「義兄上……警護とはいえ二人きりで風呂に入るなど……」
「ほら、それは……溺れちゃいけないでしょ?」
「で、では、襦袢を汚してしまったのは? あれはなんですか?」
「汚す? それも聞いてない」
「うんうん」
どうしてそこまで覚えてるんだ。怖いよ、レニ様。