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126.レニの捜査*


「ちょっと、子供たちを見てきますね?」

「……分かりました」


 レニは、にがにがしくもキョウを見送る。何を()いてもはぐらかすキョウに(さび)しさを覚えつつも助ける(すべ)はないものかと頭をひねる。


「殿下、義兄上(あにうえ)に何かが起こっております」

「何とはなんだ?」

 レニは率直にハノリに訊いてみる。ハノリは唐突な問いに首をかしげる。


「おそらく昨晩、暴行されております」

「穏やかではないな。ならば、なぜキョウは訴えてこぬ」

「それは……弱みを握られ助けを求められぬ苦境にあるからです」

「弱みと()うてものう……。キョウを(おど)すほどのものがあるかのう?」

 レニの言い分にハノリは懐疑(かいぎ)的で取り合わない。


「それは……そこまでは分かりませぬが。きっと我らには話せぬ弱みです」

「ふむ……しばらく、様子を見てはどうか?」

「そんな悠長(ゆうちょう)な。ますます深みにはまるやも知れませぬ」

「わらわからは、それほどの苦難を背負ったようには見えなんだ。しばらく待ってみよ」

「……分かりました」

 そう返事はしたものの、レニは納得いかない。


 レニがキョウを追って部屋を出ようとしたところ、ちょうど護衛たちの部屋から出てきた場に出会(でくわ)した。


 ドアの陰から(うかが)うと彼は奥へと進んでいく。その先は(やかた)(あるじ)の部屋。そのドアの向こうに体が吸いこまれると、部屋を出て待機部屋に顔を出す。


「そなたら、昨夜のキョウ義兄上(あにうえ)の様子に異変はなかったか?」


 部屋を(のぞ)くと乱れた寝間着の姿で(ほう)けるものばかり。黒衣に身を包むまともな二人に訊いてみる。


「特に変わった様子はありません」

「……そうか。先ほどはこちらに何をしに来たのか?」

「それは……」

「──我らの様子を見にこられただけです」

 言い(よど)んだ者を補い、もう一人が答える。その様にレニは違和感を覚える。


「そうか……。そちらのものはダラけ過ぎではないか?」

 ソファーの寝間着姿の警護たちに目を向け聴く。


「も、申し訳ありませぬ。きつく(しか)っておきます」

「そうするがよい。見苦しい……。して、義兄上(あにうえ)はどちらに向かわれた?」

「さ、さあ、そこまでは存じ上げません」

「子供たちを見に行かれたのでは?」

「そうか……。邪魔をした」

「いえ……」

 レニは、平静を保って待機部屋をあとにする。


「あやつらは何か隠している……」


(護衛が義兄上(あにうえ)の行方を知らぬのも不自然じゃ……。言葉の端々に含むところを感じる……)


 疑念を深め奥の──館の主の部屋へ足を向ける。部屋の前、ドアの向こうのかすかな話し声に耳を傾ける。


「扉越しでは分からぬ……」


 右耳をドアに当てて中の話に集中する。


『……なんとかならない?……ゾンビは気持ち悪い』

『そう()うても、ゾンビ討伐(とうばつ)は怖さと爽快(そうかい)感をかね備えておるのじゃ』

『それは、女の気持ちでしょ? もっと男が楽しいのにしてよ』

『シューティングはダメか? あと野球とかサッカーとか考えておったのじゃが?』


『野球はルールが難しすぎるよ。サッカーもパス回しとか難しそう』

『うぬぬ……。では、やはりシューティングじゃな。単純明快じゃ。モールからの脱出ゲームならばどうじゃ?』

『相手は女にして』

『女が(おそ)うて来ては、子作りを忌避(きひ)せぬか?』


『イヤになるだろうね、当然』

『では、ダメじゃ。何かないものかの~』

『旅行ゲームは? 列車や飛行機で旅して、観光して、食事して、お風呂に入って、旅館に泊まるの』

『それのどこにゲーム要素を盛り込むのじゃ?』


『さあ?……いっぱい観光スポットを回ったり旅館に泊まるとポイントが付く、とか?』

『ペナルティや減点要素は? 女に好意を持つか?』

『さあ? あっ……』

『なんじゃ?』


『困った時に助けてくれる』

『ほぉう……旅先でアバンチュールを(たの)しむのじゃな?』

『なんかそれもイヤ。困った時に助けてくれるだけでいい』

『そなた、女は下心で男に近づくものぞ』


『うわ~、聴きたくなかった』

『寝所を共にするごと、旅の手助けが厚くなる、とか』

『自分を切売りしてるみたいでイヤ』

贅沢(ぜいたく)な……水心あれば魚心、と言うじゃろう?』


『下心の間違いじゃあ?』

『まあ、そうなるか、の~。しかし、旅か……。男の求めるものは、そのような自由かも知れぬ、な……』

『あと、子育てゲーム、とか?』

『なんじゃ、それは』


『お世話して赤ちゃんを育てていくの』

『ふむ……育成ゲームか……。赤子を作るのをゲームにしたいのじゃが……』

『痛くされなきゃいいんだけどね~』

『相手がはじめてでは寛容(かんよう)に受け入れねば、な?』


『え~? マキナはやさしかったよ?』

『ほぉう?……。それでマキナは、どうじゃった?』

『っ!……じゃ、じゃあ、ゾンビはやめてね』

『考えておく』


 話が終わったとみるやレニは(あわ)ててキョウの自室まで引き返し部屋に隠れる。


(いったい、なんの話じゃ? ゲーム? 義兄上(あにうえ)は旅に出られるおつもりか?)


 レニは密談の内容がよく分からなく首をかしげる。



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