122.夜のお勤め*
お花詰みを終わらせて部屋に送り、みんなが眠りつくまでベッドの傍らで見守る。
「はあ~、気が重い……」
それはもちろん、ミヤビ様との夜のお勤めが待ってるから。
「ただいま戻りました」
「さあ、義兄上、始めましょうぞ」
二階から五階、自室に戻って寝室に顔を出す。ご機嫌なレニ様が出迎えてくれる。
ため息が出る。いや、まかり間違っても出さないけど。雰囲気的に……。
「では、始めるとするか……」
「少し、お待ちを。主人と連絡したいので」
「おお、そうか。わらわはよい友を持った。よく伝えるのだぞ」
「は、はい……」
その言葉に悪意はないんだろうな。人の気持ちも知らないで。
〔キョウ:こんばんは。少しいいですか?〕
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〔マキナ:どうした?〕
〔キョウ:少し問題が起こりました。喜多村警護の一人が熱病を発症したため、慰めないといけない状態で〕
〔マキナ:それで?〕
〔キョウ:ボクが慰めてもいいかな~、なんて〕
〔マキナ:ああ、仕方ないな〕
〔キョウ:え、いいの?〕
〔マキナ:お前にしかできないんだろ。曾祖母──お館様から諭された〕
〔キョウ:お館ってサキちゃん〕
〔マキナ:あ~……そうだ。サキと名乗ってるんだったな〕
〔キョウ:うん……それで?〕
〔マキナ:ああ。これからも女と仲好くするから目くじらを立てるな、と〕
〔キョウ:それって、どう言う?〕
〔マキナ:どうしてあの日、出会ってしまったんだろう……〕
〔キョウ:なに、なんのこと?〕
〔マキナ:お前に目を奪われたのは仕方ないってことか〕
〔キョウ:ちょっと、マキナ?〕
〔マキナ:オレが、お前を縛りつけたりはしない。だからお前の思うように〕
〔キョウ:おかしいよ。どうしちゃったの? もしかして……酔ってる?〕
〔マキナ:酔ってる。酔わずにいられない〕
〔キョウ:こっちに帰って来たら話し合おう?〕
〔マキナ:そうだな〕
〔キョウ:いつくらい? こっちには〕
〔マキナ:どようよる〕
〔キョウ:土曜の夜ね?〕
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〔キョウ:マキナ?〕
「まだですか? 義兄上?」
「あ、はい。もういいです」
マキナ、寝落ち……か? 気になるじゃないか。しょうがなく携帯端末を待機にする。
「では。まず、余が手本を示しますから──」
それから、フォーメーションだかコンビネーションだか組手だか……さんざん訓練させられた……。
これって意味あるのかな~?
「さすが義兄上、はあはあ、なかなか筋がよろしい」
「はあ~、ありがとうございます?」
「では、互いにハノリ様に精を注いで終わりといたしましょうぞ」
「あ、はい」
軽い運動すると、もう寝落ちしちゃいそうだな。
根性で起きる。頭が眠ってて身体の感覚が鈍い。
寝ている状態がど~してボクが真ん中なのか分からない。普通、中央はミヤビ様でしょう?
またしても、二人の拘束から逃れてベッドを脱ける。
「義兄上?」
「起こしちゃいました?」
「お花摘みですか?」
「そ、そうです」
「お早いお帰りを……」
びっくりした~。次から端に寝かせてもらおう。
「さて、羽衣さんは、もう来てるかな~?」
携帯で時間を確認すると夜中の一時を回ってる。
軽くどころか、がっつり仮眠取っちゃってたな。
「どこへ行かれるのです?」
「ビクゥウッ!──だ、誰?……ああ、気更来さんか」
部屋を出た途端、声をかけられる。不意の声かけは心臓に悪い。
「キョウ様、真夜中にどうされました?」
「ちょ、ちょっと……お花摘みに」
「──お部屋にトイレがあるのに?」
「ぐっ──ちょっとタンポポちゃんたちの顔も見ておきたくて」
「ウソをおっしゃらなくていいんですよ。羽衣は居ませんよ?」
「……えっ?」
「はあ~~バレバレですよ……。羽衣、あいつは腹芸のできないヤツです。あのあと、途端に機嫌がよくなれば、何かあると勘ぐるでしょうに」
いくら鈍感なヤツでも……って、やっぱり決め打ちされてたか~。
「はあ~、ちゃんと言い含めてれば良かったね」
「それはそれでダメです。ですが、サキ様がご存じで即座に対応できました」
「……それって、やっぱり解任、ってヤツ?」
「キョウ様の深い慈愛に免じて即時解任とはなりません。いずれ交代となるでしょうが」
「そうなんだ。懲戒処分じゃなくて良かった」
「はあ~、あなたと言う人は……警護を代表して感謝申し上げます」
気更来さんが深々と腰を折って礼をする。
「──これからは、いえ、これまで以上に誠心誠意、身を粉にしてお仕えいたします。この身を捨て肉の壁となりお護りする所存、私の──我らの忠誠をお受けいただきとう、ございます」
「そんな大げさな~」
「いえ、キョウ様のご英断に感謝申し上げます」
「はあ……」
だから、重いって。気更来さんまで笹・打木レベルにバージョンアップしちゃったよ。