12.週始めの搾精*
一昨夜のように睦みあい、朝はすっきり目が覚めた。
目の前には同じく目を開けたマキナがいた。もしかして寝顔を観られてたの? 恥ずかしいんだけど?
昨夜は、法律上も結婚しているし名前呼びにしようと提案される。
「もうマキナさんと呼んでるじゃないですか?」
既にボクはもう、そう呼んでるし、マキナさんもキョウくんと呼んでくれているんだから、今さらだと思うんだ。
理解できないでいると呼び捨てだと言う。かなり年が離れているので、それは気まずい。
呼び捨てする、しないでひと悶着しつつも、呼び捨てで呼び合うことに。
マキナ……って呼んだら悶絶して寝落ちしてしまった。
大丈夫かな? 顔が紅くなっているのも気に留めず心配しちゃったよ。
「そろそろ、起きましょう」
しばし身体を温め合ったし次の行動を提案した。早く眠ってしまって、昨日の荷物を片付けないといけない。
赤井さんが来るまでに。
もう少し、と言うマキナを振りほどいて下着を着けるとダイニングに降りる。
荷物を回収して部屋に戻ると、中からマキナが選んだ下着から替えを選び部屋着を着てお風呂へ。
シャワーをさっと浴びると顔を洗って部屋に戻った。
「もう! 起きないと赤井さんが来てしまいますよ?」
まだベッドでごろごろするマキナにそう言うと、やっと身を起こしてくる。
ボクはクローゼットから取った制服に着替えると、買い物に紛れ込ませていたエプロンを着けた。
ごろごろはやめたが、ベッドに座ってボクがあっちへこっちへ動いて着替えるのを眺めていたマキナは、ボクがカバンを持って部屋を出るようになって、やっと腰を上げた。
自室に戻って行くのと合わせて、ボクは通学カバンを持って下に降りる。
朝ご飯を作りに来た赤井さんを迎えて、一緒に朝食を作る。メニューは、豚汁と焼き魚だ。
大根を銀杏切り、人参を短冊切り、ごぼうの笹がきを水に晒しておく。
鍋に駒切りした豚肉、ゴマ油を少し入れて炒めて、色が変わったら、切った野菜も加えて炒める。
お湯を注いで出汁調味料を加え、その都度、灰汁を取りながら煮る。時間があったら出汁を取ればいいけど朝なので時短です。
人参がしんなりしたら火を止めてお味噌を解き混ぜ、ひと煮立ちしたら完成だ。
鮭の切り身をグリルで焼いて、大根おろしを添える。
「「頂きます」」
マキナを呼んで食卓に着くと食べ始める。
楽だからボクはパンを食べてたけど、朝からご飯もいいね。
登校は、マキナの出勤のついでに車で送ってもらう。
新しい家からだと最寄り駅が少し遠くなっているし、今までと違った通学経路になるので、送ってくれると言うマキナはありがたかった。
ちゃんと調べて明日からは自分で行けるようにしなくちゃね。
今日のところは校門前で降ろしてもらう。本当は少し離れた人目に付かないところが良かったけど。
別れ際「行ってらっしゃい」のキスをせがんで頬を向けてくる。
人はまばらだとは言え校門前ですよ。それはちょっとハードルが高いでしょう。
「会社に遅れる。早く」
まるで駄々っ子の言い分にやれやれと応じて頬に唇を寄せる。
触れあうかの瞬間、顔の向きを変えて唇同士になってしまった。謀ったな!
「いい仕事ができそう。行ってくる」とトロける笑顔で車を走らせていく。
事故らなきゃいいけど……。
少なからず人目があるのに、その瞬間を見られていたらと不安になって見回した。
どうやら目撃は免れたようだ……たぶん。
まあ、車の陰だからナニをしていたなんかは分からないだろう。
会社に向かうマキナの車を見送ると、校門を抜けて校舎に入り、搾精室に向かう。
週始めは、搾精が待っているのです。だけど今日は別の意味で憂鬱だ。
搾精室に続く待機室にカバンを置くと、前もって搾精師の先生に、それとなく不安を伝えた方がいいかと思い当たる。
搾精室を覗くと、搾精の先生が小部屋から出て来たので訊いてみた。
「それは……検品しないと分からないわね」と言う。
その答えは、ある程度は予想していたのでダメージは少ないけれど。場合によっては、再提供を求められるかもと言われてしまった。
そう、昨夜に別のところで搾精されてしまったので、規定の量や質が保てているかは検査しないと分からないだろう。
自分のお腹の感じは、大丈夫っぽいんだけどね。
三つ並んでいる小部屋の空いたところに入って搾精台に抱きつく。
あとは、搾精の先生にお任せする。お尻に麻酔の薬射銃を当てられると、あっという間に意識がなくなって……。
搾精を終えて待機室向かう時、搾精の先生がキョドっていた。マスク越しでも分かるくらい真っ赤になってるし。
ありがとうございますと、お礼を行ってホームルームに向かう。
待機室にはかなりの男子が残っている。ホームルームに向かわず、そこで自習して過ごす男子はかなりいる。
男子に優しいというここ誠臨学園でも女子との同室同席を相容れない人はいるんだ。
ホームルームの席に着くと突っ伏した。
「キョウちゃん、何かあった?」
ボクの様子を見て搾精を終わらせた男子が集まってくる。何かあったのかと事情説明をせがんでくる。
「おはよ~。実は……」
とある事情で搾精の品質が悪いかも知れない、だから気が重いと説明する。
「なんでそんな事に」
か細くて折れてしまいそうな美人、真城タマキ♂、タマちゃんが訊いてくる。
線は細いけどボクよりは背が高くて、きっとモテると思っている子だ。
「とある事情って病気とか?」
水無ちゃんが聴いてくる。ちなみに水無月ユウナ♂の名前からミナちゃん。
まあ病気でもないし、話してもいいかと一昨日のお見合いからの話を聞かせよう。
「一昨日、お見合いがあってね~」
教室が揺れるように突如ガタガタと音を立てた。ナニ?
思わず頭を上げて周囲を見回す。登校してきた女子が増えてきたくらいで特に変わっていないので、また机に伏せた。
「早くない? まだ卒業まで二年あるのに。それで?……」
「母さんが気に入っちゃって──」
「まさか婚約?!」
水無ちゃんが声を上げる。
「うぐっ!」とか「ぐはっ!」とか、感嘆があちらこちらで聴こえるがすぐに静まり返る。
また顔を上げて見回す。明らかに女子のものだ。
「うん、まあ。結果から言うと結婚した」
「「「はあ~?!」」」
教室中から懐疑の声が上がる。皆、聴いてるのか。
「婚約でしょ? 結婚? って冗談」
細美人のタマちゃんが言う。
「婚約期間をすっ飛ばして結婚っておかしくない?」
疑問を素直にミナちゃんが訊いてくる。
「それが冗談じゃないんだよ、ボクの場合。他の人もあるかも知れないけど身売り婚ってやつ。婚約イコールほぼ結婚なの」
「そんな……酷い」
「それが、公然の常識だよ。補助でお金かけて男の子を妊娠でもしたら一発逆転できるんだから。うちもその口なんだよ」
「悪いんだけど……それがどうして搾精の質の問題になるわけ?」
「同居してるんだ、相手の人と、一昨日から……」
「「「ふぉああ?!」」」
静まり返る教室、ややあって部屋中から声が上がった。
みんなよく揃うね。声をひそめていても聞き取るってどうなのよ。
「どどど、同居って……まさか……その別な所に……搾精された? みたいな」
皆がゴクリと唾を飲む音がしたような、しなかったような。男子を見回し溜めてから頷いた。
「だから、そうゆう事」
黄昏てる女子たちも「蒼屋くんが中古に」とか聴こえるのも無視だ。
俄然、男子たちが鼻息荒くなった。
「そ、そ、それで初夜、いや初体験はどんなだったの」
フンフン、鼻息の音を立てて、詰めよってくる男子たち。主にミナちゃんだけど。
あなたたち、保健倫理で習ったでしょうに。
会社に寄って新居に行ってと、話したら「そこからかよ!」って突っ込まれた。
ほら順々に話すのは大事でしょう。理不尽だ。