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118.露天風呂


「急ぎ用意させましょう。日没(にちぼつ)後は農婦たちも風呂に入りません。入っていても少数です」

「えっ、いいの?」

 あいにく、夜空しか見えませんが、とサザレさんは申し訳なさそう。でも、それで充分ですよ。


「お(まか)せください」

 急遽(きゅうきょ)、農場の露天風呂に入るのが決定する。


 初露天風呂、楽しみだ~!



「そなた、そんなに興奮(こうふん)して大丈夫か?」

「そ、そんなに興奮してる?」

 自分ではそうでも無いつもりだけど……興奮しているのは間違いない。


「外で風呂に入るのが、それほどのことですか?」

 レニ様は懐疑(かいぎ)的。


「まあ、入ってみれば分かります」

「外っていいわね~」

「うん……」

「でも農場……」

 幼女ーズももれなく付いてくる。


「露天風呂に入りたいとは……」

「さすが、キョウ様」

「まさか、出かけてまで入りに行くとは」

「期待を裏切らない」


「あの風呂では、いかがして敵を防ぐ……」

「お護りするには、あと四人は欲しいな……」

 護衛・警護たちまで付いてくる。だから壁内ではめったな(こと)起こらないって。


 ボクたちは、二台のワゴンに乗り込んで入出門へ少し戻り、横路から山を登って行く。


 林の中を通って丘陵を()めるように奥に進むと牛舎(ぎゅうしゃ)などの並ぶところに着く。


 その横を通り抜けて宿舎(しゅくしゃ)のとなり、屋根だけの四阿(あずまや)みたいな前に停まる。


「ここ?」

「はい。その衝立(ついたて)のような壁の中で着替えます」

「暗いね。月でも出てればいいのに……」

「そうですね……。もうしばらくすると欠けた月が出ますが。こちらには裸電球くらいしか照明がありません」

「ふ~ん」



「一人で先に行かない!」

「そうそう」

「おしおき……」

「ああ、ゴメンゴメン」

 子供たち、ほったらかしだった。


「キョウよ、()くでない」

義兄上(あにうえ)、お待ちを」

 ミヤビ様たちも(あせ)って付いてくる。


 ボク、かなり舞い上がってるみたい。


「それで、その(カゴ)に服を()れるの?」

「はい、こちらの分だけでは足りませんので」

 いっぱい荷物を持ったサザレさんが不思議(ふしぎ)だったけど、そう言うことね。


 ボクたちは、着替えや湯上がり用のローブをもらったカゴに容れていく。


「こちらを着けて、お入りください」

湯浴(ゆあ)()?」

「外は冷えるので湯冷(ゆざ)めせぬように」

「なるほど」


「あの~、これは何事です?」

「連絡していたはずですが」

 かなりラフな恰好(かっこう)(ひと)が現れて()いてくる。オーバーオール姿で農場の管理者かな?


 レニ様が恐る恐る()いでいた服を(あわ)てて(つくろ)う。


「あなたも聞いているでしょう? 滞在(たいざい)しておられるキョウ様が露天風呂を所望(しょもう)されて、こちらに(おもむ)いたのです」

「キョ、キョウさま?」

「分かったならお下がりなさい」

「は、はい。マキナ様のあのキョウ様が……。あ、あの、一言ご挨拶(あいさつ)を……」

「無礼ですよ──」

「なに?」

「──キョウ様?」

「あ~、この農場を(あず)かります。安倉(あくら)と申します。あ~、このような所にお越しくださり、ありがとうございます」

「ごめんなさい、(さわ)がせて。露天風呂があるって聞いてお邪魔(じゃま)しました」

「い、いいえ。ようこそいらっしゃいました。存分、お(くつろ)ぎください……。可憐(かれん)でお可愛らしい……」

「は?」

「い、いえ。それでは私はこれで……」

「ありがとう」

 ふらふらしながら安倉さんは帰っていった。大丈夫かな?


義兄上(あにうえ)()は心臓が口から飛び出る心持ちでしたぞ」

「大げさな~。こちらがお邪魔してるんですから、これくらいのハプニングは許容(きょよう)しなきゃ」

「ふ~む……なるほど。さすが義兄上(あにうえ)

 いや、感心されるほどでもないけど。露天風呂は不特定の人との出会いなんだから。



「うわ~、結構(けっこう)大きい。十数人入れるね」

「あ、義兄上(あにうえ)(かべ)がありませぬ」

「そうだね」

「そうだね?……」

「露天風呂だから。屋根も無いところがあるよ」

「そのようなところでは、丸見えではありませぬか!」

「大丈夫。相手も丸見えだから」

「…………」

 あら。ぱっくり口を開けて、いかにも呆気(あっけ)に取られてレニ様が固まる。


「そなた、冷えるぞ。早く入らねばな」

「かけ流しのようですけど上がり湯で入ってください」

「う、うむ」

 ミヤビ様、上がり湯しないつもりだったな。なにげにミヤビ様とは初混浴だな。


「まずは、マナちゃんかな~?」

「うん」

 こちらは、イスがないので(ひざまず)いて洗うしかないね。おまけにスポンジとかも無い。仕方ない。


義兄上(あにうえ)、それがぬるぬるでしょうか?」

「そうですよ~」

「……違う」

「そこな子は違うと(もう)してますが?」

「だ、第一段のぬるぬるかな~?」

「そう、なのですか……」

「そうそう」

 レニ様、誤魔化(ごまか)されてちょうだいよ。



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