117.義兄愛、分かった?
「それと──」
「ん? それと?」
「──いい加減、手を外してあげないと、レニ様が……」
「も、申し訳ありません!」
タマちゃんの助言で気づく。ちょっと強く口をふさぎすぎた。
「はあ、はあ、はあ……義兄上、は、烈しいですぞ──ポッ」
な、なに言ってんの、この人。頬まで赤らめないで。
「むう~、分かった……」
「えっ、分かった?」
「ん、分かった?」
納得するタマちゃんに、水無ちゃんとボクは聞き返す。
「レニ様、途は険しいけれど……頑張って」
「ん? 分かってくれたか、タマとやら」
「タマじゃない。真城環」
「うむ、タマキ──タマちゃん殿」
レニ様とタマちゃんがうなずき合ってる。
「え~、ど~ゆうこと?」
「そうそう」
「わらわも分からん」
「じゃ、水無ちゃん帰ろ」
「えっ、部屋に戻る?」
「うん」とタマちゃんがうなずく。
「そ、そう。気をつけて。送ってあげられないけど」
ちょっと急展開なんだけど……。
「そ、それじゃ。また、キョウちゃん」
「う、うん」
あっさりタマちゃん水無ちゃんは戻っていく。
「なんだったのだ?」
「なかなか良い友でありました」
なにげにタマちゃんたち、格上げされてる。
「それで、ですね? 夕食を子供たちと取りたいのですが」
「わらわは別に構わぬが」
「子らと取ると言うのなら余も一緒にしますぞ」
「え?」
「なに?……それでは、わらわ一人になる。子らはここへ呼べばよい」
「ええっ? よろしいのですか?」
「いまさらであろう」
まあ、そうですけど。
「じゃ、じゃあお風呂は──」
「こちらでお願いします!」ってレニ様が反論する。だろうね~。
「わらわは、あちらの大浴場に入ってみたいが」
「「えっ?」」
レニ様と同時に感嘆したけど、まったく違う驚きだろうね。
「──良いですよ広くて、広くて……開放的で」
「そなた、広いとしか言っておらぬ」
「はははっ」
「で、では余も──」
「本当ですか?」
「──義兄上とぬるぬるしたいです……はふぅ~」
あ~そっちね。ぬるぬるって、言うほど良くないよ?
「お安い御用です」
「で、では入ってもよろしい、です」
なし崩しに迎賓館のお風呂に入れるようになった。
「あの~サザレさん──」
「畏まりました。リビングに大きいテーブルでございますね?」
「──う、うん」
「それから、子供たちには夕食をこちらにするよう手配しておきます」
「お、お願い」
打てば響く対応で助かります。サザレさんは茶器を片付け戻っていく。
でもね、ミヤビ様たち……居座る気満々ってことだよね~? まあ、お子ができるまでは仕方ないと思うけど。
しかし、聖殿とやらは放ってて良いのだろうか? 痛っ! フ、フラグとか立ってないよな~?
ミヤビ様たちと、と言ってもほぼレニ様と駄弁ってたりして夕食まで過ごす。
リビングにテーブルが運びこまれ、メイドさんたちが配膳に来られた。タンポポちゃんたちを呼びに行こうかと思ったら、準備が調うころに来るよう予定してくれてる。
至れり尽くせりでありがたい。ありがたいが!──
「妻の横は夫」
「そうそう」
「義兄上のとなりは義弟と決まっておる」
「ど~してこ~なるの!」
マナちゃん・アリサちゃんとレニ様は誰がボクのとなりに座るのか争ってる。順番で今回はタンポポちゃんがボクの膝を占領してる。
でもね? かな~り重い。マナちゃんアリサちゃんに比べると。重さを緩和するため膝をずらすと一々振り返ってにらんでくる。
「キョウは人気者じゃのう?」
「ミヤビ様、本当にそう思ってます?」
「もちろんじゃ。女の寵愛を受けるのは男の誉れ」
「女っても女児だし、男が交じってますよ?」
「今、女児って言った?」
「言ってません……」
耳聡く子供扱いに目くじら立てられる。
また、食事をボクの口に運んでくるのもお約束。レニ様、にらんで歯ぎしりしないでください。食欲なくなります。
「食事も終わったしお風呂か~」
食後のコーヒーを頂きながら予定を考える。
「やはり行かれるのですね、大浴場」
「まあね。でも混浴がネックなんですね」
「まあ、そうです。女の入る湯など」
ミヤビ様も女ですよ、レニ様。
「なんとかならないかな~? サザレさん」
食後の片付けも終わったけど部屋の隅に控えるメイド頭・岩居サザレさんに聞いてみる。
「そうでございますね~。皆様の周りは衝立で囲いまして部分的に男湯といたしますか……」
なんか良い構想があるらしい。
「まあ慣れない人にはそれくらいしないとダメか~。折角、広びろしてるのにな~」
「広びろと言えば露天風呂になりますが、あれは農場にありますからね~」
「えっ? あるの露天風呂?」
「えっ、ええ、ございます。風呂が農婦たちの一日の楽しみですから」
「入ってみたいな~露天」
「義兄上、野外で肌を曝すなど……」
「憧れなんだよね~。女性だけに許された娯楽だよね。各地の旅行番組でもお料理と露天風呂は鉄板だし、女は得だよね~──」
軽がるしく旅行に行けないし、男は損。男湯はないし。
「──夕日や日没を見ながら、満天の夜空を見ながら、お風呂入るって最高、だろうな~」
「分かった。旅館を貸し切って旅行じゃ」
まったく分かってないよ、ミヤビ様。それじゃ旅情を楽しめないよ。