116.タマ・ミナの追及*
「気になったけど、キョウちゃんはなんで子供たちに懸想してるの?」
「それは、気になっておりました」
「そうそう」
「それは──」
タマちゃん、もう喋らないんじゃ? まあいいけど。懸想なんてしてないよ?
「お茶をお持ちしまし、た?」
ちょうどサザレさんがお茶を運んで来てくれる。都合よくインターバルができた。
「ありがとうございます、サザレさん」
「いえ……。それで、これは何の集まりで──いえ、差出口を申しました」
「いえ、いいんですよ」
ボクもなんの集まりか、まったく分からん。
「それと、レニ様? とは、ただならぬ関係みたいだけど?」
給仕が終わったとばかり水無ちゃんが切り込んでくる。
「うんうん」
「余とキョウ義兄上とは義兄弟になったと申したではないか」
部屋の入口に居残り、置物と化したサザレさんがピクッと震える。
まあ、メイドさんは控えていて普通らしいけど、メイド長ともなればそんな事してていいのかな。
「──いや、あの、レニ様?」
「義兄弟はそんなにベタベタしない」
「同意。それからアツイ夜、三人ってなに?」
タマちゃ~ん! 的確な突っ込み、ありがたくな~い。
「ハノリでん──もがっ」
「これは……その……あ、桃園の誓いって知ってる? あれあれ」
慌ててレニ様の口をふさぐ。もがもがしてるけど、しばらく辛抱してくだされ~。
「なにそれ?」
「後漢末期、黄襟の乱で乱れた世を正さんと若き英傑が桃園に集い──」
「長いよ、タマちゃん」
「──むう。要は、戦へ赴くのにご馳走食べ、酒を酌み交わし、奴を代わるがわる可愛合体して義姉妹の契りを交わしたってこと」(✳️『奴』賎しい身分の男。男のドレイ)
タマちゃん、後半のいらない知識までありがとー。
「それがどーしてキョウちゃんの義兄弟の話に?」
「水無ちゃん、ちゃんと聞いてた? 死出の旅に出るから誓いを立て義姉妹の契りをしたんだよ」
「う~、う~」と、レニ様もうなずく。
「だからって、ベタベタする必要なくない?」
「そ、それは……」
それがボクにはさっぱり分からんのだよ。
「おそらく……桃園の乱こ──仲好くしすぎたのが関係あると見た」
タマちゃん、アゴの疲れはど~したのさ?
「──その通り! 我らハノリ殿下の穴きょ──」
レニ様、黙ろうか~? 外された手を再びレニ様の口に。
「なるほど……。穴を共有した○兄弟なのは想像ついた──」
タマちゃ~ん! もうやめようか?
「──だからって、仲好くしすぎ。ハノリ殿下ってことは、やはりあなたは第一正室の山級レイニ」
「ん~ん~」って唸ってレニ様がうなずく。
「ええ?……それってハノリ殿下とキョウちゃんが、ただならぬ関係になってレイニ様は容認してる、ってこと?」
「ん~ん~」ってレニ様がまたうなずく。
「いけないよ。いくらキョウちゃんでも高貴な方を手篭めにしちゃあ。喜多村の旦那が悲しむ」
「いくらボクでも、ってなに。手篭めなんてしてない。これは喜多村の意思なの。(出なかったけど)涙を飲んで献身したの」
「──わらわがどうかしたか?」
「……え?」
「──出た」
いや、出たって、タマちゃん。ミヤビ様が奥から現れちゃった。
「ミ、ミヤビ様、どうされました」って我ながらお粗末な問いだ~。
「わらわが呼ばれた気がしてのう」
確かに呼んだけど喚んでません。
「ミヤビ様?」ってタマちゃん、頭に疑問符を浮かべ首を傾げる。
「ミヤビ様は奥でお休みください」
「キョウよ、どこでも休んでいるようなものぞ?」
ぶっちゃけないでください。今おられると、ややこしい話がもっとややこしくなりそうです。
「ミヤビ……。世を忍ぶ仮の名?」
ッ! なんて的確なんだ、タマちゃん。こちらに向けていた携帯を急いで操作し始める。
「よく分かったのう。いかにも。しかし、ハノリの名を呼んではならぬぞ?」
「は、はぁ~?」
「むう」
タマちゃん、携帯を唸って観てる。何か調べた?
ミヤビ様がレニ様の反対側に来られると手で扇ぐ。すき間を空けろと言うように。
「それで、わらわがどうした?」
ボクたちがスライドして空けたすき間にミヤビ様はお尻をねじ込む。二人に挟まれ、ボクはますます窮屈に。
「殿下とのつながりがあるのは……ご学友・喜多村槙菜」
「ほう、いかにもマキナとは愛友じゃが?」
ついに探り当てたか、タマちゃん。
「キョウちゃん……」
「な、なに?」
「旦那マキナさんと殿下は、竿──」
「ギャアアアアアァ~」
「そなた、やかましいぞ?」
「むう……。だいたい分かった。キョウちゃん、大変だったね──」
「タマちゃん……」分かってくれた?
「──それはそれで置いといて、レニ──レイニ様のべたべたを解明しないと」
ついでに、それも置いといてよ……。