114.タマ・ミナの徘徊*
「なにこれ、豪華すぎるでしょ」
「まさに個室」
トイレに入って二人はびっくりする。一人で使うには似つかわしくない〝個室〟が目の前に広がっている。
「これだけ広いと居心地悪いでしょ」
「会議できる勢い」
「あ~、本当。もしかしたら余所でしてた話合いをトイレで継続できるように大きくしたのかも」
「むう~。むかし王様の用足しの介助する役目があった」
「へ、へえ~。臭くて大変だったろうね」
「うん。その役目が側近で一番偉かった」
「くさい仲だね。それが?」
「単なる豆知識。我慢の限界だから出てって」
「え~、居ちゃだめ?」
「だめ」
「でも、もうショーツ下ろしてるじゃん」
「だからもう限界」
「早くして? 私も限界に近づいてきた」
「となりへ行け」
そして交代して用を足した二人。
「くさい仲になっちゃったね?」
「くさいのは水無ちゃん。私は、くさくない」
「ひどい。でも広いトイレいいな~。一緒にできて」
「私は願い下げ。でもこのトイレで一人は寂しい」
トイレを終えた二人は屋敷探検に脱線する……。
◇
「みんな部屋に戻ってて」
二階に上がるとタンポポちゃんたちに告げる。
「きっと夕食に来てよね?」
「うん、来る」
「待ってる」
「分かったよ。また、あとで」
案外、聞き分けよく幼女たちは解放してくれる。
「義兄上、子供たちのところに行ってはなりませぬ」
「えっ、どうして?」
二階から五階に向かうエレベーター内でレニ様が言う。
「子供の言うことなど聞く必要はありません」
「それは答えになってませんよ」
「と、兎に角、子供のそばに行くと道を踏み外します」
「外しません。一緒に遊んで慰めてあげてるんです」
なんせ遊んでると生き生きしてるもん。
「私は、サキちゃん──マサキ様に報告してきます。お部屋でお待ちください」
「余も参りますぞ」
五階に上がり部屋の前で、報告に向かうって言うとレニ様まで付いてくるって言う。
「いえ、些末ごとは私一人で充分です」
「報告のちは、すぐ部屋に戻られますか?」
「はい、もちろん」
「分かりました。待っております」
やっとレニ様が放してくれる。
「サキちゃん、ただいま戻りました」
最奥のドアをノックして部屋に入る。
「無事、回収できたようじゃな?」
サキちゃんが奥から応接室に現れる。
「回収って……まあ、そうだけど。車とかいろいろ、ありがとうございました」
「うむ、いつもそう殊勝であれ」
「ええ~? いつもボク、殊勝だと思うけど」
「まあよい。それで彼奴らはいつまで留め置くのじゃ?」
あ~、それもあるか……。
「週末だし、日曜までかな? 日曜の朝くらいに帰れば月曜に間に合うし」
ボクもマキナと一緒に帰りたいところだけど……。
「して、レイニ様はいかがであった?」
「いかが、とは?」
ソファーに座り直して紅茶をいただきながら話の続きをする。
「その、ご機嫌、じゃ」
「まあまあじゃない?」
「まあまあではいかん。決して機嫌を損ねるでないぞ」
「そんなこと言っても我儘なんだもん。四六時中まとわりつく勢いだし」
タンポポちゃんたちのことも指図するし。
「反論されず生きて来られたから仕方なかろう──」
と、突然、遠くからピーピーとアラームが鳴る。奥のリビングからかな?
「──しばし待て」
うんとうなずく。サキちゃんがリビングへ消える。
「キョウよ、友とやらが一階のシアターで悪戯しておる。止めて来よ」
「えっ、そうなの? 分かった、行ってくる」
応接室に戻ってきたサキちゃんが告げる。ボクはサキちゃんの部屋を出ると、急ぎ一階に降りてシアターを覗いてみる。
「みんな、何やってんの?」
「──ビクッ」
「キョ、キョウちゃん。どうして?」
サキちゃんに言われた通り、シアターでタマちゃん水無ちゃんが下手の装置をいじってる。
「どうして、じゃないよ。ここには怖~い人がいるから、うろちょろしない。で、何してんのよ?」
「キョ、キョウちゃん、捜してた」
「うんうん」
「ウソばっかり。この一階には部屋はないから」
「そ、そうみたいだね」
「へ、部屋が無いのを確認してた」
「なにそれ? もう、付いてきて」
二人を連れて五階に上がる。
「ちょっと、ここで待ってて」
自室に充てられた部屋の前で二人に待っててもらう。
「ただいま帰りました。レニ様?」
となりのリビングに顔を出してレニ様を確認する。
「おお、義兄上、待っておりましたぞ」
それほど、ご機嫌を損ねた感じはない、な。
「お待たせして申し訳ありません。友達を連れて来ましたので私はとなりの応接室におります」
「そんな……。余も応接室におります」
「は、はあ~? では、マサキ様に知らせてきますので、またしばしお待ちを」
「またですか~?」
「ちょっと、あれで紅茶でも頼んで待ってて。それからレニ様が来られるから相手してて。じゃ」
応接室に二人を招き入れ、メイドコールを示して、あとを委せる。
「うえ~?」
「に、逃げないでよ」
「逃げるとは何じゃ」
「「ひえええ~」」
応接室にレニ様が現れたところで脱兎のごとく、サキちゃんの部屋へ走る。いや、走ってない。小走りしたよ。
「はあはあはあ~、サキちゃん、二人回収して部屋に連れてきた……」
「そうか……悪さをせぬよう言い含めておれ」
「それだけ?」
「それだけじゃ。ほかに何がある?」
「はあ~、分かった」
「くれぐれもレイニ様のご機嫌を──」
「損ねません。努力はしますけど」
「これ、必ず、じゃぞ?」
返事しないでサキちゃんの部屋をあとにする。三方も四方も相手してられないよ……実際。