109.本館でシエスタ*
甲斐がいしくレイニ様が支えてくれ、ボクはベッドに寝転ぶ。
「レイニ様、もう大丈夫です。ハノリ様のお相手をなさってください」
「心配なさらずとも殿下なら分かってくれます」
「そ、そうですか?……」
枕元で見つめられていると、こちらが恐縮するんですけど。
「連れて参りました」
しばらくすると、戸隠さんが子供たちを連れて寝室に現れる。
「ちょっと、キョウ。大丈夫なの?」
「なんか弱ってる」
「……心配」
恐る恐る入ってきたタンポポちゃんたち。レイニ様におどろいたようだけど、駆けよってきてくれる。
レイニ様をよけてくるのがコミカルで笑ってしまう。噛みついたりしないよw
「大丈夫だよ。ちょっと疲れたみたい……」
「そう……なら良かった」
「だいじょうぶ……」
「よかった~」
ああ、心地いい。子供たちの情緒に触れおしっこもれそう。
「ありがとう、みんな。また、こっちで寝ようか?」
「わ、分かったわ」
「うん。ねる」
「しょうがない」
みんな一斉に脱ぎだす。いや、脱がなくても──もう、いまさらか。
「そなたら……なにを……」
脱ぐのは許すけど投げ捨てないで。レイニ様がおどろいてるよ?
まとわりついてくるみんなの体温でボクは意識を手放す。
「あ~~すっきり。って、なんでレイニ様やミヤビ様まで……」
目覚めたらタンポポちゃんたちのみならず大人までボクにしがみついて眠ってる。どういう状況?
それにまた脱がされてるよ……。
「子供たちに倣って脱がれたようで」
「はあ、なるほど?」
意味分からん。寝室ドア近くの戸隠さんが教えてくれるけど。レイニ様やミヤビ様が肌襦袢姿になってる。
「みんな~、起きようか?」
「う~、もうちょっと~」
「そう……」
「ちょっと~……」
「それから、携帯端末に通知が着ていたようですよ?」
「え? ほんと」
加えて角師さんが教えてくれる。
みんなの山から脱け出してワンピースをたぐりベッド縁に座って確認する。
「あ~、タマちゃんたち蒼湖に着いたか~」
迎えに行きたいけど……サキちゃん、車出してくれるかな~? その報告に返信する。
〔キョウ:みんな、連絡ありがとー。こっちに来れそう?〕
〔水無:助けてキョウちゃん。喜多村って言ったら、みんな逃げてく。送っても麓までってひどくない?〕
〔タマ:ひどいよキョウちゃん喜多村のお山はクワバラクワバラって雷様でも居るのキョウちゃん! 乗車拒否ハンパないタクシーは滅べ爆破してやる〕
〔キョウ:タマちゃん爆破はやめようね? また毒舌──毒述してるよ。今、駅前とか?〕
またタマちゃんが毒吐いてる……。顔合わせてる時はしゅっとしてるのに。
〔ミナ:そうそう。駅前のタクシー乗り場〕
〔タマ:なんとかしてキョウちゃん女がいっぱい女がいっぱい犯される舌なめずりして凝視してくる犯される~〕
〔キョウ:落ち着いて。女おんな言ってるともっと危ない。車を出してくれるか確認するから〕
〔ミナ:な、なる早でお願い〕
〔タマ:キョウちゃ~ん早く~早く~──〕
「だー! ちょっと、サキちゃんに話してくる。えっと……奥の部屋がサキちゃんの部屋かな?」
「は、はい……おそらく……」
戸隠さんが自信なさげに答える。
警護たちなら知ってるよね。ボクは寝室を出て待機部屋に急ぐ。
「気更来さんか誰かいる──いるね? サキ──お館様ってどの部屋にいるの?」
「は?──お、奥へ行って突き当たりです」
「ありがと」
居場所を聞くや、待機部屋から廊下に出て奥へ進む。
「サキちゃん、いる~?」
重厚なドアをノックして返事も待たず開けて入る。
「なんじゃ、騒々しい。どうした?」
サキちゃんが奥から迷惑そうに現れる。
「友達が蒼湖の駅まで来てるんだけどタクシーが送ってくれないって。車、出せない?」
「藪から棒に。構わんが、何台じゃ?」
「ええ~っと、五人だから二台かな?」
「ほぅ、良くそこまで分かったものよの~?」
サキちゃんが疑わしげに目を細める。
「ギクッ──は、早くしないと犯される~って叫んでるんだよ。お願い、車二台、出して?」
「仕方ないのぉ~。しばし待て。……わしじゃ。車二台、いや三台を館の前へ。うむ、ただちに──」
サキちゃんが部屋のインターホンを取り連絡してくれる。
「──蒼湖の駅といえば中央駅に決まっておろう。早うせい」
話し終わるとインターホンの受話器を置く。
「行けそう?」
「手配した。それで……そなたも行くであろう? 服を着ぬのか?」
「そ、そうだった~。すぐ着てくる」
ボク、肌着に剥かれてたんだった~……。自分の姿を確認して思い出す。
身支度するのに、慌てて自室に引き返す。