106.奥の手*
「くっ……そればっかりはご勘弁くだされ──」
あ~、なんか本当につらそう……。
「──意に沿えず面目次第もございません。責めはこの腹かっサバいて──」
「それはやめて!」
だから、重いんだって~。あと、なびきそうな人は……いない、な。待機部屋を見回し、ため息をつく。
「仕方ない、か……」
「いったい、何をなさるのです?」
気更来さんがメガネケースを差し出してくる。
「えっ、いいの?」
「良くはありませんが、目的次第では」
「うん。友達がこちらに来るのに迷って四国にいるらしいんだけど……」
警護たちに、ことのあらましを説明する。
「だから、メガネで捜し連絡をつけて、新しい携帯で連絡できるようにする」
「そうなのですね……。しかし、四国に行ってしまうとは……これからも監視していないと、どこへ行ってしまわれるか分からない方ですね」
「そうなんだよね~。タマちゃんも水無ちゃんも確りしてそうなのに……」
「これを」
ソファーを借りて寝そべると、気更来さんがクッションをくれる。
「うん。ありがとう」
クッションを枕代わりに頭を乗せる。
「なあ、ベッドを貸した方が良かったんじゃ」
「いや、さすがにそれは……」
「キョウ様を匂いでマーキングする絶好のチャンスなのに」
「お前な~……。しかし、それはそそられる、かも……。いや、ダメだ」
「お前たち、言い付けを破って、分かっておろうな?」
「黙認したあんたらも同罪」
「いや、それは……」
も~外野がうるさい。よし、やるぞ……。
まずは……【ステータス】
【外接】で【周辺探索】をオン。
わ、わ、わ、いっぱい出た。館内には監視カメラ、いっぱいあるな~。
ま~こいつら要らない。館の周囲もいっぱいあるな~。
浮遊してるヤツ、固定されてるヤツ──これは砲塔かな? すべてカット……。
良いラインは……通信アンテナか? いや、通信ケーブルから外に行こう。そこから通信インフラにお邪魔して……。
ブロード・トラフィックを経由して……やっと四国、到着。やっぱ、シラミ潰しにやらないとダメかな~?
九州から向かったなら四国横断道かな? 四国RWかな? まあいいや。両方検索しよう。
……いない。一時下車して食事してる可能性もあるか。
……サービスエリアも駅周辺もいない。どこ行ったんだよ~?
まさか、迂回というか寄り道してないだろうな~? 何か……二人に共通した何か……。
取りあえず、西からシラミ潰しで……。
効率悪い……。四割がた捜して足取りが掴めない。
新都から通信会社のログを探ってみるか……。いや、新都で契約した携帯なら……。
──いた! なんで本州に戻ってんのよ~? ローミングしてる携帯を探ったら見つかった。
──近くの中継サーバーにパーティーラインを構築……っと。
〔京:水無ちゃん、無事? 環ちゃんも大丈夫?〕
〔ミナ:え? キョウちゃん? キョウちゃんなの?〕
〔タマ:やっと連絡きた。待ってた、キョウちゃん〕
〔キョウ:そうだよ、キョウだよ。待ってた、じゃないよ。ちゃんとアドレス書いといてよ。捜したんだから〕
〔ミナ:……え? 書いたような、書いてなかったっけ?〕
〔タマ:そう言えば盛り上がってて書いてなかった、かも?〕
〔キョウ:盛り上がらないでよ。ど~して古都に来るなんて。それに四国を渡って戻って来るんじゃなかったの?〕
〔ミナ:そ、それは……でも、よくアドレス分かったね?〕
〔タマ:案外、遠回りと気づいた。それで路線変更〕
〔キョウ:なら、始めっから四国じゃなく遡って帰ってきなよ。なぜ分かったかは秘密の伝で〕
〔ミナ:面目ない……〕
〔タマ:ミナちゃんは悪くない。睡眠不足で判断を誤った私が悪い。リニアで戻るお金が無くて……。それで秘密って何? キョウちゃん、なんかヤラしい〕
〔ミナ:ひどいんだよ、タマちゃん。任せろ任せろって、ずんずん行くけど迷うし、リニアで寝過ごして九州行っちゃうし、近道しようって四国を通ったのに、やっぱりダメって本州に戻るし……〕
〔タマ:は、初めて来たんだから仕方ない。それよりキョウちゃん、お金貸して。泊まるのは、なんとかしたけど、もう移動のお金も食事のお金も──〕
〔キョウ:分かった。十万くらいでいい?〕
送るのは、ボクのお金じゃないけどね。
〔タマ:もうひと声〕
〔ミナ:私と分散して。タマちゃん、金遣い荒いんだよ。任せてると、いつの間にか無くなってて〕
〔キョウ:分かった。十万ずつ送る。このアドレスにQ2ペイのアカウント送って?〕
まあ、黒メガネを使って一方的に送っちゃうと、いくら何でも不審すぎるからね~。
〔ミナ:助かった~〕
〔タマ:恩に着る〕
〔キョウ:それで……護衛はいいとして、どうして羽鳥来さんが居るのさ?〕
〔羽鳥来:僕? 二人が良からぬ事やろうとしてたから無理やり付いて行ったんだよ?〕
ほぅ~? これは、もしかして……。
〔キョウ:分かった。護衛の人と一緒に二人をお願い。陰ながら、護って、あげてね?〕
〔ハットリ:もちろん、です〕
〔キョウ:じゃあ、みんな気をつけてね? 連絡入れるけど、そっちもちょうだいよ?〕
〔ミナ:分かってる〕
〔タマ:任せて〕
〔ハットリ:もちろん〕
これで直接助けてあげられないけど、みんなと連絡できるし、羽鳥来さんと護衛たちもいるから大丈夫だろう。