104.レイニ様の変質*
「ハノリ様、キョウ義兄──キョウ殿を見つけてきましたぞ?」
「お? そうか?……」
「おはようございます、ミヤビ様。もうハノリ殿下、とお呼びする方が?……」
「そう言えば、昨夜よりミヤビとか呼ばれていたのは?」
「いや、それは──」
「世を忍ぶ仮の名前、ですね?」
ハノリ殿下が立てた人さし指を唇に当てシーシーって言ってる。
「──そうですか……聖殿を脱け出し市井で遊び呆けていたと?」
「いや、違う。下々の生活を見分し見識を深めておって……だな?」
「そんな方便は通用しませぬ。なぜ余も連れて行ってくれませなんだ?」
えっ? この人も遊びたかったのか?
「それは……それ、キョウ、なんとかせよ」
そんな無茶ぶりはご勘弁くだされ~。
「外は女がいっぱいでして、ね? 昨日も襲われて大変だったのですよ」
「──女など、どうとでもなる」
あんたもか~。義曽祖父ユキ様たちみたいに言わないで。
「……ま、まあ、洗顔して着替えてから考えましょう」
「そ、そうじゃ、そうしよう」
「……そうですか? 何か誤魔化しておりませぬか?」
「「全然」」
ミヤビ様と声をそろえて返答する。
洗顔して着替えてリビングで寛ぐ。よく見ると応接室やリビングに荷物が増えてるね。
「それで今日の予定はどうされるのです?」
まあ、主にボクの予定がどうなるか知りたいんだけど。
「そうじゃの~」
「余も見識を深めとうございます」
「それはダメじゃ」
「──ダメです」
「もう携帯でお買い物すれば宜しいのでは?」
「つまらぬ。ずらずら~っと並んだものを選ぶだけではないですか」
「まあ、確かに」
「これ、キョウ。……そ、そうじゃ、買ったもので御披露目をしてはどうか?」
「それはダメです」
即座に否定する。そんなことしたら、ますます買い物に行きたくなっちゃうでしょう?
「余も少し見てみたいです、義兄上」
「──兄上?」
レイニ様の言でミヤビ様が怪訝な面差しになる。
「あ、いや、なんかレイニ様が今朝から兄呼びされるので」
「……あ~~、なるほど」とミヤビ様が納得する。
「義兄上、どうかレニと呼んでくだされ」
「なるほど? とは、どー言うことですか?」
レイニ様は取りあえず無視してミヤビ様の得心の理由を訊いてみる。
「それはな、そなたの体に見合わぬ──」
「やっぱりいいです」
「──な、なぜじゃ」
そりゃ……ろくでもない情報だと、キョウ・アンテナがビンビン感じたからです。
朝食になり、メイドさんたちがリビングに配膳してくれる。朝からお肉ですよ……。
ボク、お味噌汁とお漬け物がいい。
「それで、どうされます? わたくしは子供たちのお勉強の手伝いしていたいのですが?」
「あ~、昨日もそうしておったの~」
「──子供? どういうことです?」
「あ~、喜多村の子供たちのお世話が今のところ、わたくしのお仕事なのです」
「キョウ義兄上の子供かと思ってしまいましたぞ」
レイニ様「キョウ義兄上なら、ぽこぽこ子供を作っておられて不思議ないです」なんて呟いてる。
「わたくし、婚姻したばかりですので、子供はまだです」
「では余もお手伝いいたしましょうぞ」
「それはやめよ」
「──やめてください」
勉強の手伝いだよね? 子作り──いや、よそう。
「どうしてです?」
「子供たちが恐縮するので……」
「そう、ですか?」
タンポポちゃんたち、ちゃんと食べてるかな~?
食事のあと、覗きに来ない護衛・警護が気になり待機部屋を見に行く。
「みんな~、どうしたの?」
「「「おはようございます!」」」
「「おはようございます!」」
「あ、うん。おはようございます。今朝はどうしたの?」
「今朝は、とは?」
「いつもなら呼びもしなくても居るのに」
「し、辛辣、ですね」
「昨晩、ちょっとショックだったので」
「そう……なかなか眠れず……」
「つい、励んでしまって……」
「へ、へえ~」
「まさか身近に、あんな……。さすが、キョウ様です」
「そうです。殿下のみならずレイニ様まで──」
「ちょっと、それってどう言う──いや、やっぱりいい」
レイニ様の応対の変質はソコら辺にあると見た。しかし……それを確認する勇気はない。
「御用はそれだけですか?」
「うん。ミヤビ様レイニ様は部屋に居座──いらっしゃるので、そちらに応対します。でも今は何も決まってないのでボク、子供たちの相手してるから」
「承りました」
「あとで、顔を出します」
「うん、分かった」
さて、タンポポちゃんたちはどうしてるかな?
「──キョウ。これ、キョウよ!」
「あ、サキちゃん。おはようございます」
タンポポちゃんたちのところへ向かってると慌てたサキちゃんが呼び止める。