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第5話【......下着みたいで恥ずかしいです】

「おおー! これがうみー!」

「噂には聞いていましたが......本当にまるで大きな水溜りみたいですね」


 眼前に展開される初遭遇の広大な海に、半獣のオオカミ姉妹は歓喜と驚きの声をあげ眺めている。

 昨日の晩、トリーシャがどうしても海が見てみたいと騒ぎだしたのをきっかけに、今日こうして移動魔法を使って三人で海水浴にやってきた。

 ここなら彼女たちにも理解のある国だし、変な目で見られる心配もないだろう。


「皆さんが着ている物は何でしょうか? お洋服にしては随分と生地の面積が少ない――というか、ほぼ裸に近いと思われますが」


 海岸を水着姿で楽しむ人間を含めた多種多様な種族たちに視線を向け、疑問を口にした。

 無理もない、海の存在を話に聞いた程度にしか知らない彼女が、水着という物を知るはずもないわけで。


「なるほど、あれは水に耐性のあるお洋服なのですね。合点がいきました」


 関心したようにリーシアは頷く。


「ねーねー、とりーしゃたちもうみはいろー」

「でも私たち、水着とやらを持っていませんし」


 その心配はご無用!

 海に行くのに水着の用意をしない保護者がどこにいる!

 そうなることを想定して、俺は夜なべして姉妹専用の水着を創作スキルで作っておいたのだ!


「さすがはご主人様。それでは私たち、今からあちらの方で着替えてきますね」

「ごしゅじんまっててー」


 リーシアは水着の入った袋を受け取り、トリーシャと手を繋ぎながら近くの小屋へと向かった。

 ――数分後。


「どーどーごしゅじーん? とりーしゃ、みずぎかわいい?」


 紺色のスクール水着を着たトリーシャが俺の元へ駆け寄ってくるなり、感想を尋ねる。

 サイズもぴったりのようで、不安だったシッポ穴も窮屈そうでなくなにより。


「えへへ、ほめられちゃった」


 胸元に大きくひらがなで『とりーしゃ』と自分の名前が書かれた幼女は、天真爛漫な笑顔を俺に魅せ喜んだ。

 ところで、リーシアの姿はどこに?



「......お待たせしました」


 トリーシャから少し遅れてやってきたリーシアが瞳に映るなり、俺は思わず息をのんだ。

 ネイビーのビキニは思った以上に彼女の乳白色の肌を引き立たせ、家での清楚系な雰囲気とは全く違う色気を醸し出していて直視できない。

 腰に巻かれた、白地に蝶の羽のような模様が描かれたパレオがいいアクセントになっていて、作り出した本人も美しすぎて言葉を失う完成度の高さ。


「......なにかおっしゃってください」


 頬を朱に染めながら腕を後ろに組んでもじもじと、主の反応を上目遣いで待っている。

 妹同様いつもは下ろしている髪を、このために姉妹揃って頭の後ろで結びポニーテールにしたのだろう。

 語彙力が仕事してくれないが――控えめに言って綺麗だった。

 

「......ありがとうございます。最初は下着みたいでちょっと恥ずかしかったのですが、せっかくご主人様がご用意してくれたものですから。日頃の感謝を込めて、そのご厚意に応えるのもメイドの役目です」


 はにかみ、シッポを大きく横に振って喜びを表現してくれている姿に、無理に着てくれたわけではないようで安心した。


「ねーねー! ごしゅじーん! はやくうみはいろー」

「こらトリーシャ、さっきご主人様がおっしゃっていたことをもう忘れたの? 海に入る前は必ず準備運動をすること、わかった?」

「はーい」


 興奮して我先われさきにと海に突入しようとするトリーシャの首根っこをリーシアが捕まえ、俺たち三人はその場で準備運動を開始した。

 最悪何があっても俺が助ける自身はあるが、やっておいて損はないからな。


 ***


「きゃ! やったわねトリーシャ、それ!」

「ぷはっ! ねーねーつよーい!」


 浅瀬でお互い海水をかけあってたわむれるケモ耳シッポ姉妹。

 俺はその仲睦まじい光景を見守りつつ、少し離れた浜辺のビーチパラソルのもとで休憩している。

 ――歳のせいか、最近夜中まで起きているのがホント辛い。

 若さとは振り向かない・ためらわないことだと、俺の元いた世界ではよく言っていたが、実際は疲れを知らないことだと思う。


「ごしゅーじーん! とりーしゃひとりじゃねーねーだいまおーにかてなーい! はやくもどってきてー!」 

「誰が大魔王ですか! そんな悪い子にはもっとお仕置きしないといけないわね」

「きゃはっ! ねーねーめがこわーい」


 ――いやホント、若さって持ってるだけで太陽みたいに輝いて見える宝だわ。


「? ねぇトリーシャ、そのシッポに付いているものは何?」


 じゃれ合いがヒートアップし始めた矢先、リーシアが妹のシッポに何かが付着していることに気づき指を指す。


「!? やだやだ! しっぽになんかついてる! とって! いますぐとってー!」


 あー、それは多分サワガニだろう。

 素揚げにして塩コショウかけて食べると、ビールのおつまみによく合うんだよな――って、そんなこと言ってる場合ではない。


 得体の知れない生き物を相手に、トリーシャはみるみるうちに半泣き状態に。

 シッポを大きく振ってサワガニを振り落とそうとするも、なかなか離れず余計パニックに陥る。

 

「ちょっとトリーシャ! 取るからじっとしていて......」


 リーシアが払おうとするも、暴れる妹を前に苦戦している。

 俺は慌てて姉妹の元へ駆け寄り、トリーシャのシッポにくっついたサワガニを払ってやった。


「ほらトリーシャ、もう大丈夫よ」


 両手を前に広げ、いつも通り妹の受け入れ万端のリーシアの懐に飛び込むと思いきや、予想に反してトリーシャは俺の懐に飛び込んできた。

 

「ぐすん......ごしゅじん、とりーしゃ、たべられるかとおもってこわかったよぉ!」


 お腹に涙と鼻水まみれの顔を押し付け、余程怖かったのか、その小さな体からはぷるぷると震えが伝わる。

 自慢のシッポもすっかり力なく、しゅんと垂れてしまっている。

 俺は安心させるよう、背中を優しく、ポンポンと叩いてあげる。 


「.........」


 その様子を隣で、呆然と所在なさげに広げた両手を下げるリーシア。

 ――こいつは妹だけでなく、姉の方もあとでフォローが必要だな。


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