第1話【ごはん】
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上記の作品同様、こちらもとある某有名ネット小説サイトのASMRコンテストで最終選考まで残った作品です。
よろしくお願いします。
「――私たちに、いったい何をさせようというのですか、この変態!」
家に連れて帰ってくるなり、栗毛色にピンと伸びた立派なケモ耳を載せた碧眼の少女は、俺を睨みつつ罵倒した。
隣にいる頭一つ分背の小さな、同じくケモ耳の幼女は、その様子を吸い込まれそうなほど綺麗な柘榴色の瞳でキョトンと見守っている。
「奴隷紋も付けないなんて普通じゃない。召使いとしてじゃなければ何が目的なの?」
目的も何も、俺はただ君たちを家族として迎えたいだけなんだけどな。
「!? もしかして、私たちの体が目的!? このロリコン! 天使の顔をした悪魔!」
いや、だとしたら奴隷紋付けるよね? その方が自由自在にできるわけだし。
「私の体はどうなってもいいから、この子――トリーシャにだけは絶対手を出さないで! 少しでもトリーシャを汚したら、お前の急所を噛み切ってやるんだから!」
尻尾を逆立て、犬が唸るように敵意剥き出しの彼女にどうしていいか戸惑っていると、それまで我関せずだったトリーシャちゃんが口を開いた。
「......ねーねー、おにいさんこまってる。はなし、きいてあげて」
「......トリーシャがそこまで言うなら、少しは話しを聞いてあげても......いいですよ」
幼女特有の抑揚の無い声音で制止され、ようやく彼女は被害妄想から解放された。
このまま立ち話もあれだし、とりあえずゆっくり冷静に話をしたいので、二人を席に着くよう促す。
さて、ようやく本題に入るとしますか――というタイミングで。
ギュールギュルギュルギュルーーーーーーーー
と、地獄からの呻き声みたいな、低く怨念めいた叫びが室内に響いた。
「そういえばねーねー、ごはんぜんぜんたべてない」
「こら、トリーシャ! 余計なことを言うんじゃありません!」
聞くまでもなく、彼女は顔を真っ赤にしてトリーシャちゃんの口を手で塞いだ。
奴隷ということで、二人共おそらくまともな食事をしていないであろう。
これはどうやら、話し合いの前に腹ごしらえが必要なようだ。
俺は二人をその場で少しだけ待つよう言葉をかけると、急ぎキッチンへと向かった。
***
「美味しいです! こんな料理、今まで見たことも食べたこともありません!」
「とりーしゃも!」
皿の上にドーム形に盛られたチキンライスを、お互い手に持った木製のスプーンで勢いよく口に運んでいく。
子供が喜ぶ料理で簡単に作れる、といえばやっぱりコレだろうと思って作ったが、ドンピシャだった。
MPの消耗も微々たるもので済む上に、こうして凄く喜んでもらっている。嬉しい限りだ。
「この色はトマトによるものでしょうか? 酸味と香辛料が効いた、とても食欲のそそられる不思議な味がします」
「とりーしゃ、とまときらーい。でもこれはだいすきー」
「そっかー、えらいねー、トリーシャ」
尻尾を大きく横に振り、満面の笑みを浮かべている姉妹を見ているだけで、こちらのお腹も満たされてくる。
「......あのう、よろしければ、もう一杯おかわりしてもよろしいでしょうか?」
「とりーしゃもおかわりー!」
気付けば二人共あっという間にたいらげ、揃っておかわりを要求する。
余程チキンライスが美味しかったのだろう。
全然かまわないさ。
俺が『了解』と応えると、お互い手をタッチして歓喜の声をあげた。
「トリーシャ、口の周り、赤くなってますよ?」
「ねーねーの口もー」
「あら、私としたことが」
イスから立ち上がり、再びキッチンへ向かう際に後ろを振り返ると、仲睦まじく彼女はトリーシャちゃんの口の周りを拭いてあげていた。
先程まで牙を向けられていた相手とは思えないくらいの幸せそうな笑みに、こちらまで吊られて口角が上がるのを感じた。
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