決戦 10
――魔導列車内。
(奴との戦闘は長引けば不利だ・・・。短期決戦で早々に決着を着けないと、魔力が持たない)
前回の戦闘の経験から、俺は脳内であの魔物との戦いのシュミレーションを何度も行っていた。そこから導き出されたものとして、全力全開の超短期決着以外に勝利できる要素が見当たらなかった。
そもそも、魔物は人間と比べ強靭な肉体を有しているし、難度10ともなる魔物であれば、保有する魔力量は人間とは比べ物にならない。
そんな存在が更に神樹の実を取り込んで強大な力を手にしてしまったのだ。生半可な戦力や技では太刀打ちできない。恐らくだが、王国中の騎士を総動員して奴に攻撃をぶつけたとしても、その強靭な外皮で弾かれ、大したダメージにもならないだろう。
実際に、俺の通常の魔法では奴に傷一つ付かなかった。唯一効果があったのが、5つの属性魔術を融合した虚無の力だった。
ただし、その力を持ってしても奴の強靭な防御力を誇る外皮を突破することは叶わず、偶発的に奴の体内に取り込ませれた結果に過ぎない。真の意味での効果的な攻撃手段は未だ存在しないのだが・・・。
(論理的には再現可能で、武術大会のときにはその片鱗を掴むことができた。到着までには完成させなければ・・・)
”虚無”と”白夜”の融合による、新たな力の創造。理論を組み上げている段階ではどうしても融合まで辿り着けなかった最後のピースは、マーガレットの発言からヒントを得た、己の身体自体を媒介として、魔力を使っての相反する力の融合だ。
その実現にはとんでもなく繊細な集中力が要求させるため、奴との戦闘中に実現するのは不可能だろう。この魔導列車での移動中に完成させ、到着と同時に奴に先制攻撃を仕掛け、すべてを終わらせるしかない。
(身体強化・魔方陣十二重展開・・・二重融合・・・・魔力供給・・・・・・・二重顕現)
意識を集中し、まずは相反する力を持つ”虚無”と”白夜”を顕現させる。
(ここからだ。この力を、融合する)
両手に持つ漆黒の剣と純白の剣。この2つの剣を、武術大会でしたように自らの体内に取り込み、魔力を使って2つの力を混ぜ合わせる。
(ぐぅ・・・やはり難しい・・・)
まるで自分の体の中を無秩序に暴れまわる力を無理矢理に抑え込みつつ、寸分の狂いも許さぬほどの精密さで2つの力を混ぜ合わせるような感覚に、脂汗を流しながら調整を続ける。
しかし・・・
「がっ!」
僅かな調整ミスからか、力が反発するようにして体内で霧散してしまった。その反動は、内臓を直接殴られたような激痛を伴い、血を吐き出しながら座っていた座席から床へと倒れ込んでしまった。
「大丈夫ですか!?」
苦悶の声を上げてしまったからか、魔導列車に同行している騎士が別の車両から確認のために駆け込んできた。
「心配ない。大丈夫だ」
「・・・顔色が真っ青ですよ?何か飲まれますか?」
俺の返答に、騎士は心配した表情で聞いてくる。さすがに倒れ込んでいる様子を見て、問題ないと思うわけはないかと、苦笑しながら口を開く。
「それなら、水を貰えるか?」
「すぐにお持ちします!」
俺の言葉を聞いて騎士は敬礼をすると、すぐに水を取りに行った。
少しして痛みが引いた俺は、列車の座席に座り直し、今の失敗について考察する。
「2つの力を混ぜられたのは、精々1割程度の量だった。あの集中力をあと9倍の時間保つのはかなり厳しいな・・・力が混ざった瞬間、とてつもない力の奔流を感じられたが、創造したその力の制御に気を取られてしまう・・・混ぜ合わせる方法を変えないと、とてもできる気がしないな・・・」
今のやり方のままでは、2つの力の完全な融合は無理だと感じ、別のやり方について検討しようとするも、なかなか良い案は浮かばない。
(体内が無理だというなら、体外で・・・いや、それはそもそも無理だと結論した方法だ。だからこそ、マーガレットの発言から得た考え方でアプローチしたんだ。他のやり方となると・・・)
目を瞑って唸りながら、様々な方法について模索するも、これといったアイディアは浮かばなかった。
しばらくすると、水を頼んだ騎士が戻ってきた。
「アルバート団長、どうぞ」
「ああ。ありがとう」
水の入ったコップを渡され、それを一気に飲み干す。大きく息を吐き出しながら、もう一度思考の坩堝に潜ろうとする俺の目の前に、果物の乗った皿が差し出された。
「何やらお悩みの様子でしたので、良ければ甘いものをどうぞ」
「これは、メロンか。ありがとう、頂くよ」
食べやすいよう一口大にカットされたメロンには、いくつか爪楊枝が刺さっていた。一つ取り上げると、そのまま口に運ぶ。
「うん。美味いな」
「それは良かったです」
スッキリとした甘さの果汁が口いっぱいに広がり、悩んでいた思考がクリアになった気がした。そんな俺の様子を見た騎士は、笑みを浮かべて去っていった。
何も考えず、そのまま数個メロンを頬張っていると、不意に一つの考えが浮かんできた。
「力の取り込み方が間違っていたか・・・」
今までは2つの力を身体全体に溶け込ますように取り込んでいたが、一点に集中させて取り込むようにした方が良いのではないかと思いついた。
「魔力を最も集中させやすい場所・・・心臓だ」
その方法を試すには勇気のいる行為だったが、このまままでは奴に勝つことは不可能だと考え、少しの瞬巡の後、意を決して再び虚無と白夜を顕現させる。そして、大量の魔力を一ヶ所に集中させる。
「死を司る剣と生を司る剣か・・・さて、上手くいってくれよ」
そう呟くと、俺は2つの剣を逆手に持ち直し、自らの心臓目掛けて同時に突き刺す。
「くっ」
痛みはなかったが、剣を心臓に突き刺すという本来忌避すべき行為に、無意識に声が漏れた。
次の瞬間、とてつもない力の奔流が身体中を駆け巡り、反射的に声をあげてしまう。
「うおぉぉぉ!」
このままでは自分の身体が力に負けて弾け飛んでしまいそうになる感覚に、全身全霊で抗う。身体の奥底から無限に涌き続ける力の奔流を身体強化を掛けて押さえ込むも、このままでは自分が自分で失くなってしまうような感覚に恐怖すら覚える。
「暴れ馬が・・・俺の言うことを聞けっ!」
声を荒げながら、その力を支配しようと試みる。押さえつけようとしたり、受け入れようとしたり、時には身を任せてみたりと試行錯誤を繰り返し、やがてある境地へと辿り着く。
「そうだ、これは元々俺の力。押さえつける必要も、新たに受け入れる必要もない。自分の力を自分が使う・・・それは当然だ」
瞬間、操作不能の暴れ馬だった感覚が一気に凪ぎのように静まり、自分の身体に馴染む感覚を感じる。座席から立ち上がり、自分の掌を見つめながら変化を確認する。
「・・・青銀色のオーラ?」
見ると、自分の身体を青が混じった白銀色のオーラが覆っているようだ。感覚的に、そのオーラを操作することができるのを直感した。
「・・・剣を」
剣をイメージすると、そのオーラが一瞬で変化し、青色が不定形に混じる白銀の剣が右手に顕現した。
「これが全属性を混ぜ合わせた力か・・・」
剣を見つめながら感慨深く呟くと、先ほどの騎士が入ってきた。
「失礼します。大丈夫でしょうか、アルバートだん――」
先ほどの苦悶の声を聞いたからだろう、心配した表情で入ってきた騎士は、俺の姿を見ると目を丸くして、途中で言葉を失ったように立ち尽くしていた。おそらく、俺の身体を纏うオーラに驚いたのだろう。
「大丈夫だ。心配を掛けたな」
「ほ、本当に大丈夫なのですか?髪や瞳の色が変わっていますよ?」
「ん?髪?」
騎士の彼に言われ、俺は列車の窓を見ると、そこに映り込む自分の姿を確認する。
「なっ!」
そこには身体に纏うオーラ同様、不定形な青色が混じった白銀色の髪と瞳をした自分自身が映っており、驚きのあまり声をあげてしまった。
「その、体調は大丈夫なのですか?」
「あ、あぁ、問題ない。それどころかむしろ好調なのだが、さすがにこの見た目では驚くよな・・・」
「いえ。不躾な態度、失礼しました。問題ないと団長が言うのであれば、そうなのでしょう」
俺の返答に、騎士の彼は騎士礼をとると、真剣な顔つきで口を開く。
「アルバート団長、間もなく到着です。どうか、御武運を」
「分かった。任せておけ」
俺は笑みを浮かべると、騎士の彼にそう返した。




