決戦 5
「ん?どうした?何もおかしな話ではないだろう?学院の生徒が最前線へ立つというのなら、その指導役である教師も同じく最前線へ立ち、生徒に万が一が起こらないように補助するのは当然だろう?」
「あっ、その、それはそうかもしれませんが・・・」
「わ、私どもは住民の避難の誘導に尽力しようかと・・・」
「そ、そうです。住民の避難誘導も重要な任務です。その指示は適切な能力のある者でなければなりません。日々生徒達と向き合っている、私たち教師であれば適任です」
教師達は苦笑いを浮かべながら、なんとか最前線に配置されないように言い訳を並べ立てようとしているが、もし本当に生徒が最前線へ立つというなら、それを許す気はない。
そもそもこの学院の教師連中は、剣士と魔術師の派閥争いを積極的に引き起こしていた。その内情をよく聞けば、王国から学院へ振り分けられる予算配分の奪い合いの結果、生徒をも巻き込んだ醜い争いだった。
つまり、この学院に蔓延る剣士と魔術師の確執の根幹は、教師連中のせいだともいえる。その空気が生徒まで波及した影響で、精神的に未熟な生徒達は教師がそうしているなら自分も相手をバカにしていいと考えるようになり、それが長年学院中に蔓延ってしまったのだ。
しかもこの学院の教師達はろくに戦場に出たこともない、実戦経験に乏しい連中だ。講義も机上の空論によるものが多く実戦的とは言い難い。
(この学院の教師達は、安全で給料も良い教師になるために一時的に騎士になっただけに過ぎないからな。危険な前線に配置される可能性を聞けば、これほど拒絶感も抱くか。まぁ、本当にコイツらを前線に立たせるつもりはないがな)
教師達の反応に呆れた視線を投げ掛ける。俺の表情から心情を察したのか、教師達はひきつった笑みを浮かべながら顔を逸らした。
言いたいことは山ほどあるが、コイツらの為にそれほど時間を割くわけにはいかない。俺は不満を露にしながら口を開く。
「なるほど。お前らの考えは分かった」
「っ!で、では?」
俺の言葉の意味をどう解釈したのか知らないが、彼らは喜色を浮かべた顔をこちらへ向けてきた。その中の一人が問いかけてきた。大方、自分達の言い分に理解を示してくれて、前線への配置を取り止めてくれるかもと踏んだのだろう。
(結果としてはその通りかもしれないが、意味合いは全く違うがな)
前線での戦いにおいて必要なのは連携だ。今回は特に、史上類を見ないほどの大規模な魔物討伐となる。当然、各人が全体の状況を把握し、部隊の継戦能力を鑑みて、適時人員を入れ換えて休憩をさせないといけない。
そういった高度な戦略が要求される中で、未だ魔術師だ剣士だという理由でいがみ合っているような者達は、部隊の士気に関わるどころか連携さえも崩しかねない。そんな不確定要素満載の彼らを、重要な任務に就かせるわけがない。
「ああ。お前達は予定通り、住民の避難に当たってもらうとしよう。まぁ、希望があれば別だが」
「い、いえ。私たちの能力を十全に活かすには、住民の避難誘導にあたる生徒達の指揮を執らせるのが最善でしょう。賢明なご判断だとーーー」
「はぁ?」
「「「っ!!?」」」
得意顔で能弁を垂れる教師に向かい、俺は言葉を遮りながら怒気も露に声を上げる。そんな俺の様子に、周りの教師達は萎縮して顔を青くしていた。
「お前らに指揮能力なんてある訳無いだろ!?学院の生徒もまともに指導・教育も出来ない奴らが、何を偉そうなことを口走っている?」
「えっ?いや、その・・・」
「そ、それはあんまりな言葉ではないでしょうか?」
「そ、そうです。私達は教師として、きちんと生徒達を教えてきました」
反論してくる教師達に対し、盛大な溜め息を吐きながら、周りの生徒達にも良く聞こえるように大きめの声で口を開く。
「はぁ・・・この学院に蔓延っている魔術師と剣士のいがみ合い。その原因の根底にあるのは、お前達教師連中のしょーもない予算配分争いだろ?多感な時期の生徒に悪影響を与えている教師など無能もいいところだ。お前らは生徒と一緒に避難誘導をするんだ!」
「「「・・・・・・・」」」
俺の指摘に教師連中だけでなく、成り行きを見守っている周りの生徒達も黙り込んだ。俺はこの王国の騎士団長として、軍務大臣として言葉を発している。その意味を正確に理解しているのは、はたしてこの中のどの程度だろうか。
「ハッキリ言っておく!魔術師だ剣士だという理由で相手を見下すような騎士などいらん!そんな奴はこの学院の卒業生と言えど、軍務大臣である俺の権限で入団を却下する!そんな考えを植え付けた学院の教師達も不要だ!精々別の職を探すんだな!」
「「「・・・・・・」」」
俺の宣言に辺りは静まり返り、しばらく何も言えないような沈黙が支配した。そんな雰囲気を破って口を開いたのは、この学院の副学院長だった。
「失礼、アルバート殿。よろしいですか?」
「何だ?」
俺の前に進み出てきた副学院長に対し、少し威圧的な口調で相手の主張を促す。
「う、う゛ん。アルバート殿のお考えも一部理解はできますが、この学院の運営にはある程度の自治が認められています。いくら臨時で軍務大臣の権限を有しているからといって、さすがに生徒の進路や、あまつさえ学院の人事に口を出すなど、横暴が過ぎるのでは?」
副学院長は威圧に呑まれまいと、咳払いをしてから俺の言葉を批判してきた。確かに、これが以前のように平和な状況下での発言であったなら、越権行為と言っても良いだろう。無駄に権力を持っている貴族の有象無象が、この発言をもって俺を失墜させようと工作を仕掛けてくるだろう。建前としても、学院の秩序や健全性を守るためとでも言えば良い。
ただし、今は違う。
「言いたい事はそれだけか?」
「は?いえ、ですから、アルバート殿の発言は臨時の軍務大臣としての権限を逸脱した発言であり、相手を強迫するような内容です。私はこの学院の副学院長として、生徒や教師達を守らねばなりません。どうも学院長はあなたに懐柔されてしまったようですし、私が立ち上がらなければ、この学院があなたの独善的な考えに支配されてしまう」
「・・・そうか、分かった」
「分かっていただけましーーー」
「お前はクビだ。直ちにこの学院を去れ」
「・・・は?」
副学院長の言葉に少し考えると、俺は解雇を宣言した。その言葉が理解できなかったのか、脳が理解を拒んだのか、彼女は呆けた顔で動けずにいた。
「聞こえなかったか?お前の副学院長の職務の任を解く!荷物を纏めて学院から出ていけ!」
「なっ!そ、そんなこと出来るわけがーーー」
「この学院の人事権は文部大臣にあるが、最終的な判断は国王陛下が行う。現在、臨時ではあるが国の指揮を執っているのは第一王子と第二王女だ。俺はその2人より今回の王国防衛における権限の一切を委譲されている。俺の判断に異を唱えて妨害しようとする者に対しての当然の措置だ。何も問題ない」
「も、問題無い訳ないではありませんか!!私はただ生徒と教師を守ろうと発言しただけで、何故それが作戦の妨害などと言う理不尽な拡大解釈になるのですか!?」
叫び声のような副学院長の言葉に、呆れた表情を浮かべて口を開く。
「理不尽・・・お前ら貴族など理不尽の塊だろう?」
「はぁ???」
俺の指摘を心底理解できないといった様子の副学院長は、反論しようにも言葉が浮かばないようだった。
「元平民の俺から言わせてもらえば、お前ら貴族は肩書きだけで中身が空っぽだ。学習環境や生活環境が同じであったなら、平民の方が高い才能を有している者は多い。正直この学院へ潜入し、生徒達の実力を見て驚いたよ。低レベルにも程がある。これなら孤児で、生きるために試行錯誤して魔物を討伐していた子達の方が能力が高かった」
実際、俺が孤児として生き残るため、森の表層で魔物を狩って食料にしていたこともあった。同じ様なことをしている奴らも何人かいたが、耐体は魔物の餌食になっていた。それでも生き抜き、実力を付けていた者もいる。
そういった者達と比べ、この学院の生徒達には必死さがなく、その結果実力も伸びていない。それは教師達も同様だ。
「わ、我々貴族が平民に劣ると?」
「事実だ。言ったように俺は元平民だ。しかし、この王国において俺より実力のある者は存在しない」
「そ、それはあなたが例外なだけで・・・」
「それだけじゃない。例えばそこにいるライトは、平民でありながら現役の騎士4、50人分の魔力を保有している。今までは学べる環境になかっただけで、半年経たずに身体強化を習得した。これから剣術をしっかり学んでいけば、そこらの生徒達より確実に強くなる」
「・・・・・・」
戦闘における魔力とは燃料のようなものだ。当然多ければ多いほど継戦可能時間が長いと言うことになる。剣術の技量が劣っていたところで、身体強化のごり押しで何とでもなることは多い。ひたすら防御に徹して相手が疲れるのを待ったり、隙が出来るまでひたすら高速移動で逃げてもいい。戦いと言うのは綺麗事ではない。正々堂々などという言葉は、負け犬の遠吠えにすぎない。
「ロベリアだってそうだ。彼女は貴重な聖魔術の使い手だろう?治癒という技術で勝負させた時、彼女はこの学院でもトップクラスの実力者と言うことになる。にもかかわらず、この学院の生徒達は自分達は貴族でロベリアが平民というたったそれだけの理由で見下していたぞ?」
「そ、それは屁理屈です。人には向き不向きというものがあります。得意な部分でだけ競わせるなどおかしい!」
「当たり前だろ!だからこそ連携というものがある!自分に足りない部分を互いに補い、一個人では成し得ない強力な力を発揮する。そうして強大な魔物を討伐して、国に恩恵をもたらしているのが騎士団だ。しかし、この学院では連携の重要性を微塵も教育していなかったぞ?その理由はなんだ?」
「そ、それは・・・」
「権力闘争に明け暮れていた結果がこのざまだ。年々生徒達の実力は右肩下がり。騎士団に配属された当初は、先ず連携の重要性を教えて考えを改めさせるところから始まるという、なんとも無駄な時間が必要となる」
「・・・・・・」
俺の詰問に段々顔色を悪くしていく副学院長は、何も言えずに黙り込んだ。
「ここは次代の騎士を育てるための教育機関のはずだ。育てる能力が無い者に委ねるわけにはいかない。今回の騒動が収まれば改めて教師達の能力を確認し、実力が無ければ解雇させてもらう。これは第一王子も同意見だ。殿下はこれを期に、今までの腐敗しきっていた体制を根本から見直し、新たに国を築き上げていくと言われた。当然、これまでの貴族のあり方も見直されるそうだ」
「「「っ!!」」」
俺の言葉に周囲の教師達だけでなく、生徒達も驚愕の表情を浮かべる。貴族の出であれば既に周知の事実でもあるが、現在この王国の内政は大混乱に見舞われている。
権力を持っていた文官達の多くが、第二王子の引き起こした謀反が原因で失脚しているのだ。文官達の多くが第二王子派閥に所属していたこともあって、本来であれば国の機能維持そのものが崩壊していてもおかしくない状況だ。
しかし第一王子と第二王女はこれを好機と捉え、通常であれば高位貴族や権力を有する文官達に止められてしまう改革も今なら容易に、しかも大義名分をもって断行できると考えている。
そういった王子と王女の考えを予め周知し、今後の自身の在り方について良く考えてもらうため、語気を強くして言い放つ。これは最終勧告のようなものだ。
「この王国に蔓延る既得権益によって腐敗した貴族政治は、ここで一度清算されることになる!」




