決戦 4
王国からの学院に対する協力要請を伝えていくが、生徒の中にはどこか上の空のような反応を示す者達がいた。といのもそれは、学院の生徒達を安心させるために安全域を復活させることが出来ると伝えてからだ。
話に集中していないのは非現実的過ぎて頭の理解が追い付かない程度ならいいのだが、例えば安全域が復活されることが分かり、それならばと家の権力を使って要請を拒否しようと考えているから聞くまでもないと考えている、あるいは全く別の事に意識を囚われているために集中していない等だったら問題だ。
事はこの王国の存亡に関わる重要な内容だ。王族だろうが貴族だろうが平民だろうが、身分の上下に関係なく一丸となって事態に当たらねばならない。未成年で学院の生徒だからという甘えもあるかもしれないが、少なくともロベリアとライトを除く生徒は全て貴族の子息なのだ。国家に対する責任を背負うはずの貴族の家庭に生まれ、相応の教育を施されているはずが、これではあまりにも当事者意識が薄すぎる。
(数百年という長きに渡る安寧とした日々が、貴族をこれだけ腐らせたということか・・・)
何となく考え深げにしていると、講堂のある一角が急に騒がしくなった。ある程度の事は見過ごそうかと思っていたが、第一騎士団団長としてだけでなく、臨時軍務大臣として言葉を伝えている最中にも関わらず、眉を潜めるような音量での騒ぎには、さすがに注意せざるを得ないだろう。
(ん?あれは、ロベリアとライト?)
視線を騒ぎの方へ向けると、1年生の列の最後尾付近でロベリアとライトが近くの同級生に絡まれていた。所々漏れ聞こえてくる内容は、「知っていたんだろ?」とか、「紹介しろ」、「側近にさせろ」等と喚いているようだ。中には、「おまえ達はどうせ要請を免除してもらうんだろ?」や、「上手いことやったな」、「卑しい平民は本当に汚いぜ」等といった誹謗中傷まで様々だ。
ロベリア達は俺と一緒に行動していたことが多かったし、友人と言っても差し支えない関係性だろう。2人に対しては身分や年齢を隠して学院へ潜入していたことに罪悪感はあるが、後でしっかりとしたフォローをすれば良いだろうと考えていた。
しかしーーー
(2人への嫉妬か、それとも我が身可愛さの保身ゆえか・・・よくないな)
1年生の数人はロベリア達を取り囲むようにして、声も段々と大きくなり、興奮してきているのが分かる。おそらく2人が何も言えないことをいいことに、言いたい放題しているのだろう。そういった状況が彼らの興奮状態に拍車をかけ、周りが見えなくなっているようだった。
そしてーーー
「お前らのせいでアルバート様と敵対するような状況になったんだから、ちゃんと責任とれよな?」
「「「そうだ!そうだ!」」」
全く謂れの無い責任論まで飛び出し、ついに一人の男子生徒が、何も言えずに俯いているライトの胸ぐらを掴みながら声を荒げていた。それに周りの生徒までもが同調し、集団心理なのか更に興奮状態となっている。近くの教師はその対象が平民だからなのか動こうとせず、俺の様子と騒ぎを起こしている生徒を見ながらおどおどしているだけだった。
(はぁ・・・今の俺は軍務大臣としてもここに立っている。騒ぐ生徒を注意しないということは、あの教師は俺の事を軽く見ていると言っているようなものだぞ?)
内心ため息を吐きながら壇上の袖にいる学院長をチラリと見やると、頭を抱えながら袖から出てこようとしたので、俺がそれを手で制すると、壇上の床を蹴り、音もなく騒動の中心地へと駆け寄った。
◆
~~~ ライト・アルフォース 視点 ~~~
ボクにとても良くしてくれたアルさんが、実はこの国で凄い実力者の第一騎士団の団長さんだったと聞いて、とても嬉しい気持ちになった。
立場や年齢に違いはあったけど、ただの平民でしかないボクやロベリアさんの味方になってくれ、色んな騒動を収めてくれた。
(凄いなぁ・・・こんな人が友達のように接してくれていたなんて、嬉しいなぁ)
壇上で精悍な表情をしながら語り掛けるアルさんに、ボクは何だか誇らしく、心を温かくしながら言葉を聞き入っていたのだが、突然近くの同級生に怒気も露に声を荒げられて困惑してしまった。
矢継ぎ早にかけられる心ない言葉に、どうして良いか分からないボクとロベリアさんは、周囲の同級生達に圧倒され、何も言えずに俯き、ただただ嵐が過ぎ去るのを我慢していたけど、ついに一人がボクの胸ぐらを掴んできた。
「ひっ!」
「おい、聞いてんのか?何とか言えよ!力もない平民の役立たずの癖に!せめて俺らの役にくらい立ったらどうなんだ?」
「そうよ!女みたいな顔して、本当に気色悪いんだから」
「男娼としてなら需要は高そうだけどな」
ボク達を取り囲んで責め立てる皆の顔は、単に僕たちを見下しているだけではなく、嘲笑を含み、自分達の言うことを聞いて当たり前だと言う思いが透けて見えているようだった。
「や、やめ・・・」
「うるせえなぁ。平民は黙ってお貴族様の言う事を聞いてればいいんだ!」
「きゃっ」
ボクが何も言えないでいる様子を見て、ロベリアさんが泣きそうな表情で制止の声を上げようしてくれたのだが、近くの同級生に睨まれながら力任せに押され、バランスを崩して倒れそうになった時だった。
「大丈夫か?」
「えっ?あっ、と、アルく・・・アルバート様!」
アルさんがいつの間にかボク達を取り囲んでいる中心に現れ、ロベリアさんが倒れないように背中を支えていた。恥ずかしいのか、ロベリアさんは顔を赤らめていた。
「はえ?」
「えっ?あっ・・・」
突如として現れたアルさんに、ボク達を取り囲んでいた皆は動揺し、徐々に後ずさっていた。中には顔を覚えられないようにしようとしてか、顔を背けたり下を向いたりして遠ざかろうとする人達もいる。ボクを掴んでいた人もパッと手を離し、居心地悪そうに少しずつ離れていこうとしていた。
「お前ら、そこを動くなよ」
「「「っ!!!」」」
声を荒げたわけじゃない。大きな声を出したわけでもない。静かに告げられたその言葉に、ボク達を取り囲んでいた皆は、ビクッと身体を硬直させ、石像のように微動だにしなくなった。
「ロベリア?」
「あっ、えっと、大丈夫です。その・・・アルバート様?」
周りの同級生達を一旦無視するように、アルさんは優しい表情で再度ロベリアさんへ語りかけ、彼女はしどろもどろになりながらも問題ないことを伝えていたが、何と呼べば良いか迷っているようだった。
「色々聞きたいことはあるだろうが、今まで通りの対応で構わないよ。ライトもな?」
「う、うん!」
「は、はい!アルさん!」
アルさんの言葉に、ボク達は笑顔で答えた。そんなボク達の反応を見て笑みを浮かべたアルさんは一転、厳しい表情をしながら取り囲んでいた皆さんへと視線を向けた。
「さて、軍務大臣でもある俺が話をしていると言うのに騒ぎを起こすとは、お前ら良い度胸をしているな?」
「あ、いえ、これは、その・・・」
「こ、これは違うのです!私達はその、やむにやまれずと言うか、指導しなければならないことがあったというか・・・」
「そ、そうです!平民の2人はルールというものを理解していないようでしたので、我々がーーー」
「わざわざ俺が話している最中に?ライトの胸ぐらを掴んで、怒声を上げてまでか?」
アルさんの問い掛けに皆さんは、言葉に詰まりながらもあれやこれやと何かを言っているようでしたが、アルさんがその言葉を遮って質問を投げ掛けると、誰も何も言えなくなってしまった。そんな皆さんの様子に呆れるように、アルさんは言葉を続けた。
「お前ら何か勘違いしているようだが、お前らの実家の肩書きなど、今の状況では何の役にも立たんぞ?言っただろ?今は国家の非常事態だ。平民だろうが貴族だろうが王族だろうが、全国民が一丸とならなければならないというのに、お前達は自分の保身ばかりだな?」
「「「・・・・・・」」」
「そんなに俺の気を引きたいと思っているのなら、ちょうど良い。お前らを最前線に配置し、魔物の討伐にて功績を立てる機会を与えてやろう。そうすれば、俺のお前らに対する印象も変わるだろうよ?」
「い、いえ、それは・・・」
アルさんの提案に、皆さんは苦笑いを浮かべるばかりで明確な返答を返す人はいなかった。
「君達は将来騎士になるためにこの学院へ入学したはずだろう?ならば、魔物の討伐は日常的に行われる仕事になるし、先輩騎士とも仲良くなれる特典付きだ。いい事だらけじゃないか!」
「・・・・・・」
ボクには確かに悪い話ではないと思える内容なのに、何故か皆は何とも言えない顔をして、アルさんから顔を反らしていた。
(あれ?皆は騎士になりたいんだよね?ボクは魔力量が多かったから連れてこられたけど、入学試験の時なんか上手く出来なかった子は泣くほどだったのに、何でそんなに騎士としての仕事に消極的な感じなんだろう?)
理解できない皆の様子に、ボクは首を傾げるばかりだ。
そうしてアルさんは黙ってしまった皆を尻目に、近くに居た先生にも視線を向けると、何か悪い事を考えていそうな笑顔で口を開いた。
「当然その時には生徒の補助として、学院の教師も最前線に立ってもらうがな」
「「「なっ!!?」」」
アルさんのその言葉に、先生の皆さんは絶句したのだった。




