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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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神樹 25

「総員戦闘準備!作戦を予備プランへ移行!」


 俯いていたおっさんが顔をあげると、その表情に迷いは無かった。そして恐らくは謁見の間にいる騎士達への指示なのだろう、『予備プラン』という言葉を聞いた騎士達は多少の戸惑いを見せながらも、武器を構えて戦闘の意思を見せた。


「なっ!?おまえ達何を!?アンドリュー大臣!いったい騎士達に何を指示した!?」


「全てはこのウェストニア王国の繁栄の為に!国の行く末も見えぬ愚か者の専横を許すな!!」


オースティンの問いかけにおっさんは答えるでもなく、腰の鞘から剣を抜き放つと頭上に掲げ、戦闘前の口上を述べるようにして騎士達へ語り掛けていた。


「メリンダ第一王女殿下の保護を最優先事項として行動する!防御陣形を組みつつ此度の件の首魁、オースティン王子とその妹、クリスティーナ王女を討伐せよ!」


「「「はっ!!!」」」


おっさんの指示に、いよいよ騎士達は覚悟を決めたような真剣な表情で返答を返す。こうなってしまえば最早戦いは避けられようにないが、問題はこちらの戦力だ。俺は既に限界まで魔力を消費しているため、満足に戦うことができない。クリスティーナも俺が駆けつけるまでに第二王子や文官達を魔術の三重展開を使って閉じ込めていたために、大量の魔力を消費している。


満足に動けそうなのは、オースティンとエリーゼさんを始めとした帝国の騎士達ということになる。


「我らの正義を阻む者は(ことごと)く退けよ!生死は問わん!死力をもって殲滅せよっ!!」


「血迷ったかおまえ達!!」


この状況をどう打開したものかと思案する俺を他所に、おっさんの指示で騎士達は隊列を組み始め、懐から小瓶を取り出して一気に(あお)った。その様子に、オースティンは怒りも露に怒声をあげるが、騎士達は既に聞く耳を持たず、目を爛々と輝かせながら魔術師は魔術の発動を行おうとしていた。


「させるかっ!!総員、大臣を押さえろ!!」


「させません!!魔方陣三重展開・魔力継続供給・照準!発動!」


おっさん達の動きに対して、エリーゼさんが帝国の騎士達へ指示を飛ばすと同時に、クリスティーナも氷魔術を発動する。おっさんは帝国の騎士に包囲される前に謁見の間の中に駆け込み、メリンダ王女を囲む騎士と合流した。さすがに元第二騎士団団長だけあって、身体強化されたその速度には目を見張るものがあった。


クリスティーナは氷の壁を出現させて騎士達の放つ火・土魔術を防いでいたが、その表情は苦しげで、やはり魔力が枯渇寸前だというのが伺えた。


数秒、魔術は拮抗するようにぶつかり続けるが、さすがに4人からなる相手の魔術攻撃を一人で防ぐのは限界があるため、すぐに氷の壁が崩れ始める。しかしその間に帝国の騎士達も謁見の間に駆け込み、王国の騎士達と相対し、皇帝と帝国の騎士2人がこちらへと駆け寄り、俺を護るような陣形をとる。


「イシュカ皇帝陛下?」


「アルバート殿。あなたをこんなところで死なせる訳にはいかない!」


俺の問いかけに皇帝は真剣な表情を浮かべて返答すると、すぐに俺に背を向け、他2人の騎士同様に剣を構えて周囲を警戒した。その構えや重心から、一般的な騎士と同程度の実力はあるようだった。


人数的にはこちらが有利。しかし、俺自身はもうほとんど動けない事と、相手には例の薬の効果があることを考えると、戦力的には互角か劣性である可能性がある。その場合乱戦となり、多くの犠牲が出る泥沼の展開になるかもしれない。


「「「おぉぉぉぉぉ!!!」」」」


クリスティーナの氷の壁が崩れた瞬間、剣士である騎士達が正面から激突する。互いに身体強化を施しているが、薬を使用している分だけ向こう側が優勢だ。数的優位を活用して互いが隙を見せぬように連携した戦いを帝国の騎士が展開しているが、状況は芳しくない。


「自らの君主をその手にかけるとは、騎士でありながら権力に溺れたか!!」


「貴様のような小娘には分かるまい!常に二番手に甘んじていた私が、王城内でどのような目で見られていたかなどなっ!」


エリーゼさんは二刀流を自在に操り、おっさんと激しい戦いを繰り広げている。彼女の流れるような連続攻撃に対し、おっさんは間合いを完全に掌握するようにして時に躱し、時に剣でいなし、隙あらば鋭い反撃を繰り出していた。老獪な戦い方をしているようで、俺の目で見る限り、おっさんの実力の方がやや上だった。


(間合いの管理が上手いな。エリーゼさんの動きを予想し、先手を打って攻撃動作に入れないように間合いを潰している。あのおっさん、派手さは無いが、序列2位だっただけはある)


エリーゼさんは今一歩というところで思い描く動きが出来ないことに歯痒さを感じているのか、苛ついた表情を浮かべている。対しておっさんは、相手を煽るように時折嫌らしい笑みを浮かべていた。


(不味いな・・・段々とエリーゼさんの動きから精細さがなくなり、攻撃が単調になっている。このままだとカウンターを喰らうぞ)


彼女が危機に陥っている状況に不安を感じるが、問題はそれだけではない。帝国と王国の騎士達の戦闘も劣性に立たされつつある。オースティンは魔力欠乏になりかかっているクリスティーナを背で庇いながら、その様子に歯噛みしている。


どちらかに加勢したいのだろうが、今自分が動けばクリスティーナを危険に晒しかねないし、なにより第一王子である自分が討ち取られでもすれば、この戦いは完全におっさん達の勝利になってしまうため、動くに動けない状態だ。


(くそっ!俺に僅かでも魔力が残っていれば・・・せめてこの魔力欠乏による目眩さえなければ・・・)


今のところ、動けない俺の事は無視するように戦いは続いている。その何も出来ないという悔しさに、片膝立ちの状態のまま拳を握り締めていると、俺の周囲を警戒してくれている皇帝が真剣な表情で話し掛けてくる。


「アルバート殿。どの程度魔力が回すれば、この場を収められそうですか?」


「正直、あと一時間ほど回復に専念すれば・・・という状態です。まぁ、その時には全て終わっているでしょうが・・・」


皇帝の質問に、俺は苦笑いを浮かべながら返答するが、彼女は表情を変えることなく更に質問を重ねてくる。


「失礼ですが、アルバート殿の魔力量は一般的な騎士と比べ、どの程度保有されていますか?」


「・・・平均的な量の2、3割増し程度ですが・・・」


この状況で何故そんな質問をするのか訝しんだが、特に隠すことでもないので素直に答えた。実力を測る上で確かに魔力量は重要な要素だが、最も気にすべきは制御だ。


魔術や身体強化を発動するにも、100込めた魔力がそのまま100の効果の魔術や身体強化として発現することはまずない。必ず無駄となる部分が出てしまう。不慣れな者であれば半分程度無駄になってしまう者もいるが、騎士になるにはその無駄を2割以内に抑えることが求められている。


ちなみに俺であっても魔力の無駄がまったくの皆無というわけではない。


「そうですか・・・分かりました。何とかなるかもしれませんね」


「えっ?」


皇帝の言葉に俺は首を傾げると、彼女はそんな俺の様子を気にすることなく、微笑みを浮かべながら俺の肩に手を置いてきた。


「心を落ち着かせ、身を委ねるようにしてください」


「何を?」


「大丈夫です。すぐに分かります」


その言葉の直後、俺の身体の中に何かが入りこんで来た。いや、何かではない。これは・・・


(魔力供給!?バカなっ!?自らの魔力を他人へ渡すことが出来るなんて聞いたことないぞ!?)


魔力には人ぞれぞれに個性がある。そのため、自分の魔力を他人へ流しても身体に馴染まずに弾かれてしまう。しかし、皇帝はその常識を無視して俺の魔力を回復させてくれていた。


驚いた俺は皇帝の様子を伺うように顔を見ると、その表情は先程の微笑から一転し、苦しげに脂汗を流していた。


「なっ!?だ、大丈夫なのですか?」


「・・・平気です。ただ、私の全ての魔力を使っても、精々1割程度しか回復しないでしょう」


「・・・それだけあれば十分です。感謝します」


「後は任せます。アルバート殿・・・」


そう言い残すと皇帝は気を失い、床に倒れ込む寸前で俺が抱き止めた。どうやってとか、何故これほど消耗するのか等の疑問は浮かぶが、今はそれどころではない。一分一秒でも早くこの場を収めなければならない。


「イシュカ皇帝陛下、ありがとうございます。お陰で大事な人達を守れます」


彼女を優しく床に横たえると、俺は大きく息を吐き出し、かつて無いほど集中力を深めた。

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