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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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神樹 23

「第一王子、オースティン・ヴェルツ・ヴェストニアが命ずる!全員動くな!」


 第二王子が亡くなった直後だった。オースティンの声が謁見の間に響き渡る。第二王子の様子が急変し、苦しみながら死んだ状況から、何者かに毒殺された可能性が高い。


その何者かは、どう考えてもこの謁見の間に居る人物で、更に言うなら第二王子達を拘束して監視のために背後に控えていた騎士達が一番の容疑者だ。先程まで完全に味方だと思っていた者達が、実は別の勢力の手先だったという状況に、さしものオースティンも動揺を隠せていない。


(まだ何も終わっていないか・・・)


第二王子の亡骸の傍らで膝を着いた状態でいる俺は、油断のならない状況に警戒を強めるが、既に魔力は空に近く、戦闘になったとしても生身の肉体で戦うしかない。しかも魔力欠乏でふらつくおまけ付きだ。仮に王国の騎士が全員別勢力側だったとしたら、苦戦は避けられないだろう。


「嘘でしょ・・・兄さま・・・」


異様な雰囲気が支配する謁見の間。顔を青くして、両手で口元を押さえた第一王女が悲痛な叫びを漏らす。彼女は第二王子と結託して動いていたはずなので、彼が黒幕の思惑によって始末されたとなれば、次は自分の番かもしれないという危機感を持っているのかもしれない。


「動くなよ?これより全員の所持品検査を私が行う!許可無く動いたものは、第一王子の名の元に処罰する!」


そう宣言したオースティンが、警戒感も露に騎士達の方へ近寄っていくと、扉付近がざわついた。


「殿下!ご無事でございますか!?」


「っ!?アンドリュー軍務大臣!?」


突如、謁見の間の入り口の方からオースティンの名を呼ぶ声が聞こえた。視線を向けると、そこには腰に剣を提げ、漆黒に塗装された軽鎧で完全武装をしている軍務大臣のおっさんが、息を切らしながら心配した様子でこちら見ていた。そんなおっさんの姿を認めたオースティンが、驚きの声をあげた。


謁見の間に入ってきていないのは、室外を警戒していた帝国の騎士達が入室を押し止めていたからのようだ。ただ、他国の大臣をぞんざいに扱うわけにはいかないので、彼らは困った様子で何とか身体で制止している。


「イシュカ皇帝陛下、あの方は大丈夫です。帝国の騎士の方に入室を許可してくださいますか?」


「・・・・・・」


第一王女と言い争っていたクリスティーナが皇帝に対し、軍務大臣のおっさんを入室させるように伝えたが、何故か彼女は難しい表情をしながらおっさんのことを静かに見つめ続け、クリスティーナの言葉に反応しなかった。その様子に、クリスティーナは怪訝な表情を浮かべながら再度呼び掛けた。


「イシュカ陛下?」


「・・・アンドリュー軍務大臣。そうですか、あなたが・・・エリーゼ!」


「はっ!」


「なっ!?イシュカ陛下?何を!?」


皇帝はクリスティーナの呼び掛けに反応せず、それどころか何かを納得するような表情を見せると、自らの近衛騎士であるエリーゼさんの名を呼んだ。すると、エリーゼさんは皇帝の思惑を即座に理解したのか、何故か軍務大臣のおっさんの居る方へ向かって駆け出した。その状況に、オースティンは困惑した声をあげる。


「むっ!帝国の!乱心したか!?」


エリーゼさんから殺意は感じられない。両腕を若干広げつつ、体当たりをするような姿勢でおっさんに向かっている。その様子に、おっさんは困惑した表情を浮かべながらも腰の剣を抜き放ち、迎撃する構えを見せた。


「エリーゼさん!」


そんな状況に、魔力欠乏でふらつく俺は直ぐに行動を起こせず、彼女の名前を呼ぶことしかできなかった。突然の奇行。理解のできない状況の変化。更に今は現役を退いたとは言え、おっさんは元々第二騎士団団長を任されていた程の実力もある。素手で迫る彼女では、武装しているおっさんに斬り捨てられると心配してのことだった。


「ーーーーっ!」


「むぅぅん!!」


無言でおっさんを取り押さえようとするエリーゼさんに対し、おっさんは間合いに入ったのだろう、構えた剣を横に薙ぐ。その攻撃に一切の躊躇はない。迫る相手を確実に殺すために繰り出す威力だった。


「はぁっ!」


「ぬう!?」


エリーゼさんは横薙ぎの剣の軌道の更に下、スライディングしながらおっさんの攻撃を紙一重で躱し、勢いそのままに足を刈り取るようにして蹴りを繰り出すが、その攻撃を剣を振りきった不利な体勢ながらも、おっさんは横っ飛びに逃れ、エリーゼさんから距離をとるようにして転がると、瞬時に立ち上がりながら再度剣を構えた。


「ま、待て!二人とも動くな!!皇帝陛下!説明を願いたい!!」


何とかこの場を収めようと焦るオースティンは、声を大にしながら交戦する2人を制止し、続いて皇帝に説明を求めた。


「殿下。()の者は、今回の一連の騒動の首謀者です。ここで拘束せねばなりません!」


「な、何を言っている!?アンドリュー軍務大臣は我が派閥の一番の支持者なのだぞ?第二王子派閥内の情報収集も行う、最大の功労者だ!」


皇帝の言葉に、オースティンは怒りを含んだ声をあげる。その気持ちも理解できる。おっさんはオースティンを幼い頃から政治的に支えており、これまでの関係性を考えれば、その信頼は絶大と言っても良い。いくら帝国の皇帝の発言だったとしても、数ヵ月しか付き合いのない、しかも他国の人間から、自身が信頼を寄せる人物が今回の黒幕だと言われたところで、とても信じられるものではない。


「ふん。何を言い出すかと思えば・・・帝国の皇帝陛下は、どうやら今回の騒動で心を病んでしまったようだ。状況のまともな判断もつかないようであれば、部屋で休んでいた方が良いのでは?今起こったことについては・・・王国の現状が現状だけに、不問にしても良いですがな」


おっさんは呆れたような表情を浮かべながら、慇懃な態度で皇帝を諭す。その様子に動揺や困惑は見られず、皇帝の発言が虚偽なのではないかと思うほどだ。ただ、皇帝の真意を即座に理解して行動に移したエリーゼさんのこともある。彼女は皇帝に最も近い人物であり、専属近衛騎士という荒事も担う立場だ。


その上、帝国から来た人達は実際に国が崩壊した経験もしていることもあり、今さらこの騒動で心が病むということは考え難い。


そんな事を考察していると、皇帝が不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。


「不問にしていただかなくて結構ですよ。これは私の持つ能力によってもたらされた未来視のようなものですから」


「・・・未来視だと?世迷い言を」


皇帝の突拍子もない言葉に、おっさんも呆れていた。


「正確には『可能性知覚』という能力ですね。より良い未来を実現するために、今をどう行動すべきかというのが直感として理解できるのです。皇帝の家系には代々こういった特殊な能力に目覚める存在が居るのですよ」


「皇帝陛下のお言葉に、嘘偽りはありません。陛下の能力があったからこそ、正確な場所も知らぬこのヴェストニア王国へたったの20数人で辿り着いたのですから。アルバート殿であれば、その困難さがお分かりでしょう?」


皇帝の言葉を引き継いエリーゼさんの言葉に、俺はあの時の旅路を思い出しながら口を開いた。


「・・・エリーゼさんの道案内があったから比較的短期間で帝国に到着しましたが、確かに場所も知らずに当てずっぽうで亡命が成功したのだとすれば、幸運の一言では良い現せられない程の天文学的確率を掻い潜ったことになります。移動だけでもそう表することが出来ますので、そこに魔物の危険性を併せて考え、帝国の騎士の方達の実力を加味すれば・・・正直に言って、この王国まで亡命するのは不可能だったはずと言わざるを得ません」


俺がそう評すると、エリーゼさんは苦笑いを浮かべた。常識的に考えて無謀だったと指摘しているので、その表現に思うところがあったのかもしれない。


「仰る通りですね。ヴェストニア王国最高峰の騎士であるアルバート殿の考察を念頭に置いていただき、その上で我々が亡命を願い出た際の服装や装備は覚えておいででしょうか?」


皇帝の言葉に返答したのはクリスティーナだった。


「なるほど。今にして考えれば、それほど危険な旅路をしてきたはずのあなた方には、目立つような激戦の跡も装備の損傷もありませんでしたね。騎士の方々も連日夜営をしていたはずですのに、疲労困憊しているような印象もありませんでした」


「・・・確かに」


オースティンがクリスティーナの言葉に納得するように頷く。言われてみれば、確かにあり得ない事だらけだ。その能力でもって王国の位置を察知し、安全なルートを予め知っていなければ全滅していてもおかしくない。俺の持つ経験と常識に照らし合わせて考えても、多数の死者が出た上で、騎士達は疲労困憊し、這々(ほうほう)(てい)でようやく王国に辿り着いた、となっているのが普通だ。


「ま、待て!何を言いくるめられているんだ!そんなものは偶然の産物だ!絶対にあり得ない事ではないだろう!偶発的な状況を利用し、あたかも自分には特殊な能力が備わっていると思わせているだけだろう!」


「・・・何のためにだ?」


オースティン達の様子に焦りを感じたのか、おっさんが反論を口にしたのだが、俺はその言葉に疑問が浮かんだ。皇帝がおっさんを陥れる理由が見出だせなかったからだ。


「ア、アルバート。それは王国の中で主導的な地位を手に入れようと考えているからだろう。私を冤罪で処罰し、それをもって王子殿下からの信頼を得ることで、今後の発言権を大きくしようとしているのだ。陛下が崩御なされ、第二王子殿下が毒殺されたとなれば、玉座に最も近しいのは第一王子のオースティン殿下ですからな!」


「いや、皇帝陛下達はまだ帝国の復興を諦めてはないはずだろ?王国での発言権云々なんてそれほど重要か?それに、こんな状況でおっさんと対立しようとする意味が分からない。静観してても良かったはずだ。皇帝陛下はまだ神樹に関する重要な情報を握っているようだしな」


「だ、だからな・・・」


おっさんは呆れるような物言いで俺を諭そうとするが、やはりこの状況に納得いかない。別に事を荒立てなくとも、皇帝が持つ情報を利用すれば発言権は普通に大きくなりそうだ。特に王国の今の現状では。


そう思っての俺の発言だったが、おっさんは尚も言い募るようにして話を続けようとしたのだが・・・


「待ってください!アンドリュー軍務大臣・・・あなた何故ロズウェル第二王子が毒殺されたと?」


クリスティーナの指摘に、謁見の間の空気が一変した。

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