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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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神樹 20


~ ロズウェル・ストーク・ヴェストニア 視点 ~



 王位簒奪。


神樹の安全域が消失してしまうという、あり得ない事態に直面した状況下での最善の行動だった。


その目論みは今のところ成功しており、第一段階として父上である現国王を亡き者にするところまで成功した。本来はそのまま王位継承権を有する第一王子の異母兄と、第二王女である異母妹(いぼまい)も同様に始末すれば権力の完全掌握が成ったというのに、ここで邪魔が入ったのだ。


突如として謁見の間に帝国の皇帝を名乗っている者の騎士達が押し入り、異母兄と異母妹を守るようにして我々と交戦に入った。


神樹の実を利用して作成した薬の効果は非常に高く、武力という面では全くと言っていいほど力を持たない文官連中であっても、謁見の間に居た王国の騎士達を一掃する力を簡単に所持することができたのだが、その効果時間は精々30分程度で、偶々だろうが効果切れの嫌らしいタイミングで現れ、異母兄と異母妹を謁見の間から連れ出してしまった。


更に忌々しいことに、妹は得意としている氷の魔術を使用して、我々を謁見の間に閉じ込めたのだ。文官達は再度神樹の薬を使用して氷の壁を破壊しようと試みたが中々にしぶとく、時間だけが無為に過ぎていった。


そしてここで異変が起こる。薬を複数回使用した文官達の様子が徐々におかしくなり、私の命令に耳を傾けなくなる者が出てきたのだ。そうなってしまった者は非常に暴力的になり、私と妹は彼らから距離をとるようにして様子を見守った。


「おい大臣!どうなっている!?薬は安全ではなかったのか!?」


「そうよ!言うことを聞かない兵なんて危険なだけだわ!」


「い、いや、これは・・・私は薬の情報を聞いただけでして、直接聞いたわけでも確認したわけでもなく・・・」


私と妹が国務大臣を問い詰めると、彼は冷や汗を流しながら目を泳がせて言い訳を並べた。


「今はあの氷の壁を壊すことに集中しているが、その力がこちらに向くようなことがあれば・・・大臣、分かっているな?」


「こ、この命に代えましても、殿下達をお守り致します」


私が苛立ちながら言うと、大臣は懐にある薬の瓶を確かめるようにしながら、恭しく頭を下げて返答した。


「まったく、だから私は暴力的手段は嫌なのよ。財政面を牛耳ってしまえば、もっと簡単に王位の継承が済んだのに」


「今更だぞ。状況が大きく変わったんだ。今必要なのは、金や権力よりも単純な武力だ。とりあえず、複数回薬を飲用しなければ理性的に動けるということは分かった。なら、魔物が攻め込んでこようとも、平民達に一回分の薬を与えて討伐させればいい。あとは帝国の皇帝と名乗る女に安全域復活の方法を吐かせるだけだ。それで私はこの王国の窮地を救った英雄として、何の問題もなく王位に就ける」


妹の愚痴を窘め、これからの行動方針を告げる。大事なのは過去の失敗にいつまでも囚われることではなく、そこから何を学んでどう活かすかだ。王となる以上、その程度の能力がなければ国を導くことなど到底出来はしない。



 今後の行動方針を決めると、後はこの謁見の間から出て邪魔な異母兄と異母妹を始末するだけとなる。氷の壁も、薬を飲んだ文官達が絶えず攻撃をしているお陰で、その維持に大量の魔力を消費している異母妹の表情は脂汗を流して歪んでいた。


(あと少しで突破できそうだな。薬の効果もまだ残っているし、何とか予定通りに行きそうだ)


内心で安堵していた私だが、氷の壁の向こう側にある人物が現れたことで、一転して焦燥に駆られる。


(あれはっ!アルバート!?何故王城に居る?魔物の相手をさせているんじゃなかったのか!?)


ここに居るはずの無い人物の登場に動揺するが、それを表に出すわけにはいかない。


「ねぇ、お兄様。あそこに居るのって、パラディン序列1位のアルバートじゃないの?」


妹も目敏く奴の姿を認めたのか、少し不安そうな声音で私に聞いてきた。


「そのようだな。だが、何も問題ない。王国の騎士を容易く退けた我らの兵士達がいるのだ。いくら人外の力を持つという奴でも、本当の人外の力を手に入れている彼らに敵うものか!」


「そ、そうよね。こっちには10人もいるし、彼らが何とかしてくれるわよね」


そうあって欲しい。いや、そうでなければ困る。既に父上である国王をこの手で亡き者にしているのだ。引き返すことなど不可能。失敗しようものなら、私達は国家反逆の大罪人として後世に汚名が残ってしまう。


だが私の願いとは裏腹に、事態は最悪の展開を見せる。


「第一騎士団団長、アルバート・フィグラムだ!貴様らを国家反逆罪の罪人として処罰する!」


氷の壁を吹き飛ばして乗り込んできた奴は、冷気を放ちながら声高に宣言してみせた。次期国王である私に対しての不敬な言動に不快感を覚えるも、次の瞬間にはそんな考えすら消し飛ぶ。


(はっ?バカなっ!)


たった一歩の踏み込みで近くにいた文官の腹部を素手で貫き、奴が踏み込んできてから僅か数秒で、薬によって強化されているはずの一人が血溜まりに沈む。返り血に純白のベロアコートを染めるその様は、まさしく“戦場の赤い死神”と称されるに相応しい様相を呈していた。


「・・・きゃあぁぁぁぁ!!!」


一拍遅れて妹が悲壮な叫び声をあげる。一見すると目の前で人が無惨に殺されたことに対する反応のようにも思えるが、我が妹はそんなに繊細ではない。


(こいつ、最悪でも自分は罪に問われないように逃げ道の用意を画策したな)


人の死ぬ様を見て取り乱すような私が、自身の父親を殺してまで王位簒奪を計画するはずがない、という印象を相手に抱かせるための演技なのだろう。ただ残念ながら、妹の本性を知っている者達が大半を占めるこの場では意味はないだろう。精々が、帝国の人間の同情を引くか、あるいは・・・


そんなことを考えている間にも状況は激変していく。一人、また一人と奴は文官達を殺していく。奴だけでなく、同時になだれ込んできた王国の騎士や帝国の騎士も、連携しながら文官達を抑え込み、エリーゼという帝国の騎士が止めを刺すが、素人の私から見てもアルバートとは比べるのも烏滸がましい程の実力差があった。


ある者は心臓を貫かれ、またある者は頭を吹き飛ばされていく。およそ人が死ぬような死因とかけ離れている光景が目の前にある。しかも素手で。


(こんなことなら奴を我らの陣営に引き込んでから王位簒奪の計画を立てれば良かった・・・金や権力など、圧倒的な武力の前では何の意味も持たぬな・・・)


奴によって繰り広げられた惨状を前に、達観した思いを浮かべる私は、最後まで王族としての矜持までは捨てまいと、気丈に様子を眺めていた。



「さて、大人しく投降すれば身の安全は保証しよう。戦力差は歴然だ。賢明な判断を願う」


 全身を真っ赤な血に染めた奴は、不敵な笑みを浮かべながら血の滴っている手を差し向け、こちらに勧告してきた。返り血が無ければ、幼い男の子が精一杯大人びた演技をしている様な状況なのだが、彼の実力も相まって、不気味な悪魔のように感じてしまう。


「まったく・・・君の実力は聞いてはいたが、所詮報告書だけでは実態は掴めぬということか。神樹の実から作成した薬を使い、人外の力を手にしたはずの者達を鎧袖一触とは恐れ入る。この王国にとって、いや、この世界にとっての一番の脅威というのは君の存在なのではないか?アルバート・フィグラム?」


「口を慎みなさい!大罪人ロズウェル!」


私の言葉に不快げに口を挟んできたのは、異母妹のクリスティーナだった。彼女の言葉には私に対する敬意は微塵も無くなっており、まさに罪人と接しているかのような言葉遣いだった。


そんな異母妹の言動に、私の妹が声を荒げる。


「あなた!妹の分際で不敬ですわよ!!頭を下げなさい!」


「何を言っているの?あなた達は王位簒奪を目論み、あまつさえ自身の父親である国王陛下を殺害したのです。自分達は罪人である事を自覚なさい!」


「なっ!私が罪人ですって!?私はこの王国の第一王女よ!罪人になるわけ無いじゃない!!それに、私はただここに居ただけ!陛下を殺害したのはそこに転がっている文官達がやっただけで、私は何もしていない!つまり、私に罪は微塵もないわ!!」


妹は、騒動に巻き込まれただけの悲劇の王女として立ち居振る舞おうとしているようだが、それを許す異母妹ではないだろうし、その兄である異母兄もこちらを許すつもりはないだろう。



 そうして妹同士が言い合いをしている内に、私は隣の国務大臣へ目配せをし、奥の手を命じる。すると彼は悲壮な表情を一瞬浮かべるも、重々しく頷くと、懐に手を伸ばした


「待てっ!何をしている!!」


大臣の行動に目敏く反応したのは異母兄だった。その言葉に帝国のエリーゼという騎士が動きを見せるが、それを遮るように私が大臣と彼女の間に入る。さすがに他国の王族を害するのに抵抗があったのか、彼女に一瞬の隙が生まれる。ただ、すぐに私を押し退けて大臣に駆け寄るが、既に遅い。


その間に大臣は薬を取り出し、中身を飲み干していた。


「ぐっ。うぅぅぅ・・・」


瓶を投げ捨てると、大臣は苦しそうに胸を押さえて踞った。その様子に、駆け寄ろうとしていた彼女は立ち止まり、様子を伺うようにして見下ろしている。


「ちっ!何を飲んだ!?」


「くくく、この状況を打破できる薬だよ。良い意味でも、悪い意味でもな」


異母兄が不快げに問いかけてくるので、こちらも不敵に笑って見せた。そして、大臣の変化はすぐに始まる。


「っ!エリーゼさん、下がれ!」


「くっ!」


アルバートの言葉で帝国の騎士が飛び退く。すると先程まで彼女の居た場所には、大臣の腕のようなものが床にめり込んでいた。


『グルぅぅぅ・・・』


「神樹の実の力、これ程のものか・・・」


そこには肉体が倍以上膨れ上がり、背中から六本の腕のような奇妙な管が生えている存在がいた。もはや大臣であった時の面影などなく、異形の存在に成り果てた何かに成り下がっている。


「さぁ、始めようか。王国の未来を手にする戦いを!」


私は両腕を広げ、この状況を楽しむように(わら)った。

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