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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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神樹 14


~~~ ティル・グランドヒル 視点 ~~~



(何なんだよこいつ!平民の癖にふざけるなよっ!!)


 私の名前はティル・グランドヒル。グランドヒル子爵家の次男で、今年栄えある騎士となり、第七騎士団へと所属を果たしたが、あくまでもそれは学院の教師になるための通過点に他ならない。


本来は2年程騎士団へ所属することで、学院教師選任試験の受験資格を取得し、高倍率の試験の合格をもって教師へとなれるのだが、幸運にも学院の副学院長から声が掛かり、ある任務を達成することができれば選任試験を免除し、特別推薦枠で来年にも教師へと転用されるように約束をしてくれた。


(平民一人を再起不能にする程度の簡単な事だったのに!私の出世への道を、こんな平民の小僧ごときに邪魔されてたまるか!!)


ある程度実力があるとは聞いていた。その為、直接正面から対峙する事なく、学院の生徒を隠れ蓑に隙を伺う立ち回りを選択した。あくまで戦術的な判断で、小僧を恐れてのことではない。


しかし、あろうことか標的の小僧は歴戦の猛者のような殺気を発し、奴を取り囲んでいたほとんどの学生を一瞬で気絶させてしまった。現役の騎士である私に、殺気一つで片膝を着かせたのには驚いたが、同時に怒りが沸いてきた。貴族で騎士である私が、平民の小僧に嘲笑われ、あまつさえ土を付けられたのだ。もはや許すことはできない。何としてでもあの小僧をなぶり殺さなければ、私自身の矜持が許さない。


奴に対して増悪を抱いていたレンドールとセルシュという1年生も、せっかく望外の力を得ることが出来るという霊薬を飲んだというのに、呆気なく倒されてしまった。


所詮は学院の1年生ということだ。いくら素晴らしい効果を持った薬と言えど、そもそも使い手の実力が無ければ、効果はその程度ということだ。


(残るは私と・・・ん?あの女は・・・)


自分以外に立っていたのは、副学院長の報告書で見た覚えのある女生徒だった。


(確かあの小僧とチームを組んでいたな。それに、仲良く一緒に食堂にいる姿を何度も目撃されているらしい。なら・・・)


私の頭の中にあるのは、あの忌々しい小僧を完膚なきまでに叩きのめし、学院の教師になるという栄光の姿だけだった。その為に取れる手段が目の前にあるのなら何でもする。それが簡単な事で実現出来るのなら尚更だ。


「動くな小僧!」


「きゃっ!」


私はその女生徒の首を後ろから左腕で締め上げ、手に持っていた木剣を槍で叩き落とした。身体強化を施した私であれば、学生、しかも相手が女であれば、このまま窒息させるのも造作もない。


「おいおい、女性を人質に取るとは・・・大会の意義を聞いていなかったのか?」


小僧から私を小馬鹿にしたような呆れ声で糾弾の言葉を吐いてくる。どうせこの場で私が何をしようが、全て副学院長が揉み消してくれるのだ。何の心配することもなく私は事を成せる。


ただ、その言動の全てが憎らしかった私は、目を見開き、怒りに任せて声を上げた。


「うるさいっ!!平民の癖に貴族である私に何という口の利き方だ!貴様がこの学院で学ぶべきは、高貴な貴族に対する礼儀作法だったな!しかしもう遅い!この私を怒らせたのだ!その身体に自身の愚かさを刻み込んでやる!!」


「女性を盾にしている奴が何を言ってるんだか・・・」


ため息を吐きながら、呆れと軽蔑を隠そうともしない小僧の態度に、私の怒りは頂点へと達する。


「黙れ!!その減らず口、すぐに叩けなくしてやる!いいか、この女の命惜しくば動くなよ!」


「アル!私の事は気にするな!」


「・・・・・・」


私の言葉に、女は自身の身を省みない発言をしている。なんと健気な言動だが、貴族の令嬢が平民の身を案じるなど、自分の立場を分かっていない発言だ。ただ、これも一つの余興だと考え、奴の様子を伺ったのだが、奴は冷たい視線を向けてくるだけだった。


相変わらずの不遜な態度だが、私の言葉通り奴が動く気配はない。その様子を確認し、私は地面に木槍を突き刺すと、懐から小瓶を取り出して一気に(あお)った。


『パリンッ!!』


「ふぅ・・・」


小瓶を投げ捨てると、小気味良い音と共に割れて散った。そしてすぐに身体に熱が帯びていくのを感じる。


(ふふふ・・・力が漲ってくるのが分かる!これだけの力があれば、あの糞生意気な小僧も簡単に殺せる!)


強大な力を感じると、徐々に思考が落ち着き、どのように小僧に止めを刺そうかと思案する。観衆の耳目があると言えど、相手は平民。平民一人殺したところで咎められる謂れはない。


私は最大限まで身体強化を施す。今まで感じたことの無い大量の魔力を使用すると、本来赤く輝く身体強化が黄金へと変化していた。


「くっくっくっ!素晴らしい!!」


感じたことの無い全能感に、自然と笑みが溢れる。そして傍らに突き刺していた木槍を手にすると、そのまま投擲の構えを取った。


「いいか?動くなよ?少しでも動けば、この女の首を締め上げる!」


「アル!こいつはアルを殺す気だ!私の事は気にせず逃げるんだ!」


「ふははは!女の言う通り逃げても良いぞ?その瞬間、この女の命は儚くなるがな」


「くっ!させるものか!!ぐぅうう・・・」


女は身体強化を施し、腕の中から逃れようとしているが、今の私との実力の差は絶望的な程あるようで、その足掻きは全く意味を成さないものだった。


私が少し腕の力を強めれば、頸動脈を圧迫された女から力が抜けるのが分かる。


「分かった分かった。さっさとその槍を投げてこいよ」


すると、女の窮地に反応したように、小僧が両手を挙げながら口を開いた。この状況にあって軽口を叩く小僧に苛つくが、その顔を見るのもこれまでだ。


「その余裕面も、これで最後だっ!!」


「ア゛、ア゛ルッ!」


黄金に輝く身体強化の力で木槍を投擲すると、喉を押さえられている女がくぐもった声で奴の名前を叫ぶ。女に視線を向けると涙を流しているようで、どうやら貴族の身でありながら、平民に恋慕しているようだ。


(バカな女だ。所詮平民ごとき、貴族の思惑一つでこうして消されるというのに)


女に呆れつつ、生意気な小僧の行く末を確認する。私の今の力で顔面目掛けて全力投球したのだ、頭部が吹き飛んでしまっただろうと、笑みを浮かべながら視線を向けると・・・


「・・・はっ?」


「ん?どうした?お前の力はその程度か?」


何故か奴は、先程と変わらぬ様子でこちらを見下す言葉を吐いていた。


「な?はぁ?や、槍は・・・私の槍はどこだっ!?」


「お前の投げた槍なら、俺の足元に転がっているだろ?」


「ど、どうやって?躱した?いや、なら槍があんなところには・・・落とした?いやいや、私の全力投球だぞ?身体強化出来るといっても、魔術師ごときに見切れるわけが・・・」


訳が分からない。理解が追い付かない。私は未だかつて感じたことの無い力でもって槍を投擲したのだ。何なら背後の観客席を破壊しても構わないくらいの勢いで投げたのだ。何故何事もなかったように奴が無傷でいられるのか、意味が分からない。


「何をした?いったい・・・どうやって?」


「さて?何をしたんだろうな?」


混乱する私の問いかけに、小僧は小馬鹿にしたような表情で返答してくる。その様子に一瞬呆気にとられるが、バカにされたということが理解できると、私の思考は怒りに塗りつぶされる。


「バ、バカにしやがって!!どうせ奇跡的な偶然を、さも自分の実力のように見せただけだろう!!内心助かって安堵している癖に!!」


「何でそうなるんだよ・・・」


「うるさいっ!!ここからは本気だ!動くんじゃねえぞ!!」


今までは殺してはまずいと無意識に手を抜いていたのだ。そうでなければこの状況に説明がつかない。だからこそ投擲などではなく、直接木槍をその脳天に叩き込めばいい。


そう判断した私は拘束していた女を放り出し、奴へと迫る。その寸前、地面に落ちている木槍を足で掬い上げるようにして手に取り、両手で構えてそのまま小僧の脳天目掛け、一直線に突き込む。


この早さだ、魔術師である小僧に私の槍捌きなど見えるわけがない。


「死ねっ!!」


一閃ーーー


「・・・な、何だこれは?」


私が突き込んだ木槍の先端は、どこから現れたのか、手のひらサイズの漆黒の円盤のようなものに阻まれていた。突きの勢いは完全に殺され、しかもそれ以上全く先へ動かせない。


「”虚無”、限定展開」


驚きのあまり目を見開いてその漆黒の何かを見ていると、小僧が小声で呟いたのだった。 

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