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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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神樹 9

「お待たせいたしました!それではこれより、国立ヴェストニア騎士学院、武術大会を開催いたします!!」


 舞台の中央。3年の学年主任らしい中年の男性教師が観客席に向かって声を張り上げていた。俺はその様子を、舞台袖に設置されている選手控えのテントから眺めていた。


円形の舞台をぐるりと取り囲むように設置された客席は、2、300人は座れそうな規模だが、ほぼ満席となっている。更にそこに座る招待客達の服装や、付き従えている護衛や侍女を見るに、おそらく全員が名家と呼ばれる貴族の者達であることが伺えた。


(今は神樹の事で上の方は忙しく動き回っていると聞いていたが、これだけの数の貴族をわざわざ招待するとは、あの副学院長・・・マジで良からぬことを考えてそうだな)


これだけの貴族を呼んだ催し物を開催するには、会場設置費用や警備等に莫大な金が必要となるはずだ。学院長不在にも関わらず、どこからその予算を捻出したのか怪しいものだが、いよいよもってキナ臭さが増している。


(貴族の多くは第二王子派閥のようだが、そこそこ第一王子派閥の貴族も居るな・・・何が狙いなんだ?)


疑問を浮かべながら観客席に座る貴族達の顔を確認していると、開催の挨拶として副学院長が舞台中央へ歩み寄っていた。


「皆様!本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます!今大会では、未来を担う本学院の生徒達の日頃の鍛練の成果をご覧いただきます!生徒達は将来騎士として魔物を討伐し、資源として活用する為の任務に従事するでしょう。それは国防の面からも、食料補給の面からも重要な仕事であり、誇りある素晴らしい職務です。その輝かしい職業に就くに当たって、昨今国からは学生の質を疑うようなお言葉を残念ながら頂いております。その為、生徒同士がお互いの実力を切磋琢磨できる場を設けるべきだと考え、今回の武術大会の開催となりました!この大会趣旨に賛同し、お集まりいただきました各貴族家の方々に今一同感謝を申し上げると共に、実りある素晴らしい大会となることをお約束いたします!!」


「「「おぉ~~~!!!」」」


長ったらしい副学院長の演説に、観客席からは歓声と拍手が沸き起こっていた。


「また、今大会の上位30名の学生達には、騎士団への優先推薦状を発行します。七つある騎士団にはそれぞれに特色がありますが、希望する騎士団へ配属されることは少ないのが実情です。ですが、この優先推薦状を使用すれば、自身の希望する騎士団への配属が叶うのです!!」


副学院長の言葉から、七つある騎士団の特色を思い起こす。


第七騎士団の特色は『警護』だ。王族の移動の際の警備を任されたり、安全域内における住民達のトラブルの処理等を主な任務としている。


第六騎士団の特色は『調達』だ。一番生息数の多い難度5以下の魔物の討伐及び食糧の確保を主に行い、魔物の解体や輸送などの任務が多い。


第五騎士団の特色は『討伐』だ。難度8以下の魔物への討伐任務を主としており、世間一般の騎士のイメージ通りの任務となるのが第五騎士団より上となる。


第四騎士団の特色は『対空』だ。第五と同じく難度8以下の魔物の討伐が主体だが、主に飛行型の魔物に対する討伐に特化している。遠距離魔法を得意とする者や、槍のような大きさの矢を飛ばす武器、重弓の担い手が多く在籍している。


第三騎士団の特色は『鉄壁』だ。土魔法による防壁の構築や、大盾により魔物の攻撃を防いだり、動きを阻害するのに特化している。


第二騎士団の特色は『遊撃』だ。個々の能力が非常に高い者達が集結しており、単独で難度8以下の魔物の討伐も可能とする騎士団だ。その特色から、個体数が増えすぎた大きな魔物の群れに対処することが多い。


そして、俺の所属していた第一騎士団の特色は『殲滅』だ。どんな難度の魔物だろうが、とんでもない規模の魔物の群れだろうが、一匹残らず全滅させることを任務としている。


師匠が団長だった頃は1000人規模の集団だったが、俺がそこまで人数は必要ないと削っていった結果、今の4人だけという異例の規模になった。今はまた組織改編の真っ最中らしく、いずれ人的規模は元に戻るだろう。


ちなみに、数字の小さい騎士団に所属するのが名誉とされ、給金も段違いとなる。俺の第一騎士団だけは特殊が過ぎる為、一般的に騎士学院の生徒が目指すのは第二騎士団とされているようだ。


(それを上位30人が希望する騎士団へ配属できるようにするとは・・・軍務大臣と話はついているのか?)


俺が疑問を浮かべていると、副学院長の話は今回の大会開催についての苦労話から自画自賛するような話へ移り変わり、段々と興味が無くなってきた。暇潰しに出場選手が待機するテント内を見渡していると、少し離れた場所に居るマーガレット嬢の姿を見つけた。



「よう!緊張してないか?」


「っ!?ア、アルか!驚かすな!」


「いや、そんなつもりはなかったんだが・・・大分緊張しているようだな?」


 声を掛けようと軽く肩を叩いただけだったのだが、彼女はこちらが逆に驚くほどの反応を見せた。その様子から、緊張でかなり身体が強張っているようだ。


「・・・今までも生徒同士で模擬戦をしたことはあるが、剣士だけだったからな。魔術師も含めたバトルロワイヤルなど経験がない。この狭い範囲で剣と魔術が入り乱れるのだ。どんな状況になるか想像もつかない・・・」


彼女の懸念は最もだった。直径200mという限られた空間で60人の生徒が剣を振り、魔術を放つのだ。いくら実力のある人物といえども、一瞬の気の緩みで呆気なく敗退するだろうし、油断がなかったとしても、遇発的に負傷してもおかしくない。だからこそ、彼女の不安は理解できる。


ただーーー


「まぁ、そう緊張しなくても大丈夫だよ」


「・・・何故そんなことが言えるんだ?」


「始まれば分かるさ」


「???」


俺の言葉に、マーガレット嬢は釈然としない表情で首をかしげた。そう伝えたのには勿論理由がある。このテントに着いてから感じる周りからの視線だ。殺気を練れるほどの錬度ではないが、ほとんどの生徒から敵意を含んだ視線を感じる。それは、顔を会わせたこともない上級生からもだった。


(これは、開始と同時に集中砲火を浴びそうだな・・・)


内心でため息を吐いて呆れていると、俺があまりにも気負い無く話した影響からか、彼女は少し落ち着きを取り戻したようで、近くに置いてあった袋から小さな箱のようなものを取り出し、中身を手に塗っていた。


「ん?何を塗っているんだ?」


「あぁ、これか?最近発売された化粧品で、乳液というものだ。最近寒くなってきて乾燥しているからな。肌の保湿のために塗るんだ。とても良いぞ!」


彼女は輝く瞳で、俺に容器の中を見せながら熱弁してきた。やはり女性は美に対して並々ならぬ思いがあるようだ。


「そ、そうなのか。ちなみにそれは何で出来てるんだ?」


「なんでも、水と油が主成分らしい」


「水と油?そんなものどうやって混ぜてるんだ?」


容器の中には、乳白色のトロッとした液状のものが入れられている。普通に考えて水と油を混ぜても分離しているはずだが、見たところ完全に混ざり合っている。


「具体的な成分は企業秘密らしいが、特殊な薬品を使うことで水と油を溶け合わせ、離れ難くしているらしい」


「へ~、そんな薬品があるのか。水と油を混ぜ合わそうなんて、よくそんな発想が出てくるもんだな」


反発する2つを混ぜ合わせようと考えるのも驚きだが、混ぜ合わせる為の3つ目の素材を見つけ出したということにも目を見張る。


(聖属性と闇属性にもそんな便利なものがあればなぁ・・・)


マーガレット嬢の話を聞きながらそんなことを考えていると、舞台の方が騒がしくなり、そちらの方へ意識を向けた。


「ただ今ご紹介に預かりました、文部大臣のサジール・ウォルマンです。国家としても優秀な学院生を育てるべく、新たにこの様な大会を立ち上げることにしました。これまで学院で学んだ知識、演習で得た経験を存分に発揮して欲しいと考えています。また、今大会で芳しくない成績だったとしても、それもまた生徒にとっての貴重な経験となり、その経験を共にした生徒達は、かけがえのない絆で結ばれることでしょう!」


『『『パチパチパチ!!!』』』


いつの間にか登場していた文部大臣の挨拶に、観客達は割れんばかりの拍手を送っていた。実際に大会に出場する側として大会規定を考えると、そんな綺麗な話になるわけがけないと突っ込みたくなる。下手をすれば、これまでの経験を披露する前に不幸な偶然で敗退してしまうようなルールなのだ。


(まったく、少し考えればおかしいと分かりそうなものだが、こいつらは何を思って観戦しに来たんだか・・・)


そう思っていると文部大臣の雰囲気が変わり、真剣な表情を浮かべて重々しく口を開いた。


「実はご来席していただいてる皆様に、国家のまつりごとを担う大臣の職を任されるものとして、一つお伝えしなければならないことがあるのです」


そう前置きした文部大臣は、いやに芝居がかった様子で語り出したのだった。

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