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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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神樹 8


~~~ 副学院長 マローナ・フェブリス 視点 ~~~


「文部大臣。今回の大会運営にかかるご尽力に感謝いたします」


「いや、学院運営を担う者として当然だ」


 副学院長室。


応接用のソファーセットで私の対面に腰掛けているのは、この王国の文部大臣、サジール・ウォルマン侯爵だ。今回の大会における強硬日程での開催の裏で暗躍していただいた人物でもある。


「学院長を王城へ召集する手筈を整え、更には第一王子殿下と第二王女殿下の動きを抑えるのは大変だったのではないでしょうか?」


「軍務大臣を始めとした武官どもは何やら騒いでいるが、神樹の寿命が尽きようとしているなどと言う世迷い言を信じるとは、彼らは本当に脳味噌まで筋肉が詰まっているようだ。何より、我々第二王子派閥の力をもってすれば、この程度は造作もない。そうだろう?」


「ええ。それは勿論ですね」


文部大臣の言葉に、私は自然と笑みが溢れた。今回の大会開催に当たって、大きな目的は2つある。


1つは大会を利用し、アル・ストラウスという平民でありながら魔術コース1位に居座っている目障りな小僧を再起不能にすることだ。バトルロワイヤルという形式上、たまたま出場生徒達が結託して一人の人物に攻撃が集中するということはあり得る話です。


更に偶然にも、負傷者が出た場合に備える医療班の手が空いておらず、彼の治療まで時間がかかり、重度の障害が残ってしまうことも無いとは言えない。


そうなってしまえば、さすがに魔術コース1位に据え置くことは出来ず、障害が残った生徒を療養という名目で自主退学を勧告できる。その際、治療費としていくらか金を握らせれば問題ないでしょう。


(彼がかなりの実力者だと言うことは理解していますが、数の暴力には勝てないでしょう。それに、万が一に備えてレンドール君達には、例の薬を改良したものを渡していますし、問題ないでしょう)


グレイ教諭が使用したものは、人知を超えた力を得ることを重視しすぎた影響で、理性が完全に吹き飛んでしまっていた。今回はある程度その効果を低減させ、理性を残せるように改良したものを用意した。もちろん、その薬の出所はわからないようにして。

 

2つ目は、第一王子派閥の力を削ぐことだ。より具体的な標的を言えば、第二王女を失墜させること。

 

そもそも監査官を学院へ送り込んで来た事といい、学院の運営方針にやたらと首を突っ込んでくる第二王女は何かと鼻についていた。第一王子は第二王女を病的なまでに可愛がっているというのは誰しも知っている。派閥の真の支配者は第二王女と言っても良い。


勢力図で言えば、貴族との親交を積極的に図っている第二王子派閥が優勢だが、国王陛下は第一王子に目をかけていると言う噂だ。このままでは最悪、次期国王は第一王子となり、その実の妹である第二王女が幅を利かすことになってしまう。


それだけは避けねばならない。何としても第二王子に次期国王となってもらわねば、今までの献金も全て水の泡と化してしまう。


(学院長にさえ成れれば、30年掛けて構築した裏金の創出もまた自由に使えるのよ!こんなところであの小娘に台無しにされてたまるものですか!!)


私はこの学院の教職に就いた当初から、学院の予算を流用した裏金を作る仕組みの構築に勤しんでいた。社会の厳しさも知らない子供に金を掛けるより、今まさに国を支えている我々が豊かな生活を送れなくてどうするというのだ。


あの小娘が監査官など送り込んでくるせいで自由に使えなくなってしまったが、既にこの裏金で甘い蜜を啜っている者は大勢いるのだ。王家の神童だか知らないが、小娘ごときに我々の優雅な生活を潰されて良いはずがない。


「財務大臣が既に今回の帝国要人騒動から王国が使用した金額の算定を終えている。これで第一王子派閥のせいで生じた無駄な金銭の告発準備は整った。言い逃れの余地はないようにな」


「さすがですね。当初は面倒な問題を持ち込んでくれたものだと頭が痛くなりましたが、自ら追求の隙を作ってくれたと考えれば、滑稽なことです」


「来賓への根回しは問題ないな?」


「勿論です。これで第一王子派閥の貴族達から忠誠心を切り崩して瓦解させられるでしょう。その時こそ・・・」


「我々が王国の実権を握る時、ということだな」


「ええ。その通りです」


私と文部大臣はお互いを見やり、暗い笑みを浮かべながら未来を幻視する。


第二王子は社交に優れてはいるが、国家の運営となると門外漢と言っていいでしょう。お飾りの王として玉座に座ってもらっているうちに我々が実質的に国を動かし、そして予算を動かすのです。


(第一王子は国民の血税をドブに捨てるような判断をしたのです。その罪はしっかりと償っていただきましょう)


亡命してきた帝国の要人の生活支援。滅びたらしい帝国までの遠征費。安全域外周辺の魔物討伐強化の予算増。これだけでも億を超える金銭が動いているのです。その全ては帝国の皇帝だと吹聴する者に惑わされ、有りもしない神樹の安全域消失という戯言を真に受けてしまった結果。とても許せるものではありません。


「では、当日は手筈通りに」


「お任せを」


文部大臣の確認の言葉に、私は笑みを浮かべて返答する。そうしてこれからの予定を確認した我々は、目的のために動き出したのだった。



 武術大会当日ーーー


学院の演習場にはいつの間に準備されたのか、観客が座って観戦できるように舞台と客席が用意されていた。空いていた時間のほとんどは図書室に籠っていたとはいえ、これほど大規模な会場の設営に気付かなかったのは迂闊だった。


会場前には出場する生徒達の一覧が張り出されたボードが設置されており、1年からは15名、2年30名、3年15名の計60名が参加するようだ。大会要項には上位30名を騎士団へ優先的に推薦するとあったのに、思ったよりも参加人数が少ない。


1年生が少ないのは当然のことだろう。いくら実地演習で経験を積んだと言っても、上級生の経験を凌ぐほどのものではないし、生徒の年齢を考慮すれば、この時期の1年2年の差は、身体的にも技術的にも大きな差が出る年頃だ。


また、3年生もこの時期であれば既に就職先が内定していてもおかしくない。となれば、出場するのは未だ就職先の決まっていない実力不足や素行不良者、もしくは家格の低い者だろう。だからこそ2年生の出場が他学年より多いのは分かるが、それでも30人は少なく思える。


(バトルロワイヤル形式ってのが忌避されたか?自分以外周りは全員敵だからな。それに、この形式だとどう考えても魔術師は不利だ)


参加者を確認すると、各コース上位7名以外の出場者は大抵が剣士だ。それもそのはずで、今回の大会のために準備された舞台は直径200mの円形状をしている。この限られた範囲に60名を配置した場合、魔術師が魔術を発動する前に剣士が攻撃できてしまうような距離感だ。


(俺には問題にならないけど、学生達はそうもいかない。本当に何でこんな大会を開催しようと決めたんだか・・・)


俺が出場者一覧を見つめながら大会について改めて呆れていると、隣にレンドール少年とセルシュ少年が歩み寄ってきた。


「アル・ストラウス!大きな(つら)が出来るのも今日までだ!この大会で僕は貴様を完膚なきまでに下し、学院に居るのも憚れるくらいの敗北を味わわせてやる!」


俺に人差し指を差し向けながらレンドール少年が宣言してくる。バトルロワイヤルなんだから俺と確実に対戦するか分からないし、レンドール少年は魔術師なんだから、如何に魔術発動までの時間を確保するかを考えるべきだ。


「俺に対抗意識を燃やすより、自分の心配をした方がいいんじゃないか?」


俺は少しの呆れを浮かべたままレンドール少年に忠告すると、彼は嫌らしい笑みを浮かべて口を開いた。


「ふん!僕が魔術師として、バトルロワイヤルのデメリットに気付かないとでも?既に対策は完璧なんだよ!」


そう言いながらレンドール少年は、鼻息荒く俺の横を通り過ぎて舞台の方へと歩き去って行った。背後に微妙な表情を浮かべるセルシュ少年を付き従えて。


「・・・あぁ、そう言うことか」


あの二人は俺のことになると協調して行動していたが、どうやら今回はレンドール少年が主体となって動いているようで、それがセルシュ少年には気にくわないのだろう。


(俺を敵視している奴は多いからな。なんなら1年生は全員俺に攻撃を仕掛けてくるかもな・・・)


マーガレット嬢はどう動くか分からないが、なるべく怪我人を出さず、一波乱も二波乱もありそうなこの大会を上手く乗り切りたいものだと、大きなため息を漏らした。

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