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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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神樹 7

 騎士団を中心に、学院の生徒まで動員して王国の安全域周辺の魔物の討伐を始めて2ケ月が過ぎた。


国内の上層部ではその間、様々な衝突があったらしい。第一王子を中心とする派閥が万が一の危険性を主張して、安全域消失に備えるべきとしているのだが、第二王子を中心とした派閥は神樹の絶対性を盲信する為政者達が多く所属しており、やること為すことに対して「無駄骨になる」「帝国に騙されている」と批判されるほどだった。


国王としても最悪を想定した備えをしたいところだったが、国が二分することを防ぐために消極的なやり方での準備しかとれなかった。

 

その為、魔物の掃討に関しては国王が想定した予定よりも進んでおらず、この状況で安全域が消失しようものなら、安全域の境界近くの居住区に住む平民を中心とした甚大な被害が想定される。ただしこれは、現状考えられうる最小の被害想定だ。


本当の最悪を考えるなら、安全域消失と時を同じくして例の強大な魔物が襲来し、神樹の実を更に取り込み、手のつけようもない圧倒的な存在となってしまえば、最早人間に打つ手はないだろう。



「もう時間はあまり無いか・・・早いとこ、こいつを完成させないと」


 学院図書室の一室。


俺はこの2ヶ月間、実地演習の合間に新たな魔術を開発する研究を行っている。基礎理論は既に出来上がりつつあるのだが、実現可能性がほぼ皆無となってしまっているので、どうにかして現実的な魔術に落とし込むしかない。


「六属性全てを同時発動しても、それらを融合することは出来なかった・・・やはり聖属性と闇属性は相容れないか・・・しかし、この特異属性をそれぞれで融合した聖剣と魔剣は破格の性能・・・何とかこの2属性を融合できないものか・・・」


覚え書きのノートを何冊も机の上に開きながら、俺はブツブツと独り言を呟きながら新たな魔術の創作に耽っていた。最大の障害は、圧倒的な性能を有する『聖』と『闇』の属性を融合できないことにある。


相反する属性を無理矢理融合しようとしても、魔術として発現せずに霧散してしまう。他の属性の割合を大きくし、極小さい規模での融合を試みても結果は同様で、まったく上手くいかない。


「考え方を変えて、既存の魔剣の性能を向上することに重きを置くか?いや、その程度であの化け物をどうにか出来るか?あのとんでもない強度の外皮を突発するには、生半可な強化では無理だ・・・」


答えの出ない思考の坩堝(るつぼ)に嵌まってしまい頭を抱えていると、人がこちらに近づいて来る気配を感じ取った。


「アル君!こんなところに居たんですね!」


やって来たのはロベリアだった。俺の姿を見つけると切羽詰まった様子から一転して、安堵したような表情を浮かべた。


「ロベリア?何か焦った様子だけど、どうかしたのか?」


「それが大変なんだよアル君!来週から武術大会が開催されるらしいの!!」


ロベリアは興奮しているためか、図書館内では少々眉を潜められる音量で話す彼女に対し、俺は諭すようにゆっくりとした口調で声を掛ける。


「まぁ、落ち着いて。座ったらどうだ?」


「あ、うん・・・」


俺の言葉に、彼女はこの場にそぐわない言動だったと認識したのか、少し落ち着いた様子で俺の隣の席に腰を下ろした。そんな彼女を見ながら、机の上に散らばっていた資料やノートを片付ける。


「それで、武術大会って何の事だ?」


「それがね、さっき先生から周知があったんだけど、来週から全学年合同の武術大会が開催されるって」


「来週って・・・もう明後日じゃないか。学院の予定ではしばらく実地訓練が続くと聞いているが、何がどうなってそうなったんだ?」


ロベリアの話に、俺は首を捻りながら疑問を口にする。


「私にも良くわからないけど、先生が言うには実地訓練での成果の確認らしいの。でも、私達がやってきた訓練は魔物に対してなのに、何で対人の大会をするんだって、しかも突然・・・みんな混乱してたよ」


(今の状況で急な武術大会の開催?学院長は何を考えてるんだ?)


王国の現状を考えるなら、今は少しでも周辺の魔物を討伐するのが優先されるはずだ。俺としては単独で魔物の一掃をしたかったが、それは第二王女から止められてしまった。


その最大の理由として、第二王子の派閥が良からぬ企みをしている兆候があるらしく、俺とすぐに連絡がとれるようにしたいとの事だった。


その為、こうして俺は学院の中に居るか、安全域から少し離れただけの表層での活動を余儀なくされているのだ。


「具体的な大会の内容は分かるか?」


「えっとね・・・先生から資料を貰ってるよ」


そう言いながらロベリアは、また膨らみの大きくなった胸元をまさぐるようにすると、上着の内ポケットから数枚の紙を取り出して俺に渡してきた。微妙に人肌の温もりのあるその紙を受け取ると、さっそく内容に目を通す。


「何々?来週からの本学院全生徒を対象とした武術大会のお知らせ?」


そこには要約すると、こう記されてた。


【本年はこれまでに無い規模での実地演習を行っており、1年生といえども、その成果で十分な実力が身に付いてきている。また、今年度は王家から本学院生に対する更なる実力の向上の指示があった。これを鑑み、学院生同士の研鑽を図る目的で武術大会を開催する】


前半は大会の趣旨が記載されていた。内容的には理解できないこともない。王家や騎士団は、年々生徒の質が悪化している学院の現状を嘆いていた。その改善と言う名目で今の実地演習もしているのだ。


問題は後半の文章だ。

 

【大会への参加は自由。大会形式は実戦を想定した剣士・魔術師の垣根の無いバトルロワイアル方式を採用。上位30名に入賞した者には、騎士団への優先推薦状を確約。

尚、各学年・各コースの上位7名は必ず参加すること】


(剣士と魔術師が入り乱れたバトルロワイヤルだと!?いったい学院は何を想定してこんな大会を?)


学院主体の大会と言うからには、ある程度生徒の安全性が確保されているはずだ。聖魔術師を待機させていれば多少の怪我は織り込み済みだろうが、何故一対一の試合ではなくバトルロワイヤルなのかが理解できない。


確かに魔物と相対する際には、群れを相手にすることもある。だが、騎士団は集団行動を基本としている。一対多数ではなく、多数対多数が基本戦闘術だ。だからこそ、学院の意図することが見えなかった。


(しかも上位7名は強制参加。これは何かあるな・・・)


嫌な予感しかしないが、一先ず学院の真意を確かめる為、学院長に接触する必要があると考えたのだが・・・



(学院長が不在とは・・・いよいよ仕掛けてくるつもりか?)


 図書室でロベリアと別れた俺は、早々に事の真意を確かめるべく、学院長室へと赴いたのだが、来週末まで不在にしているとの事だった。


その為俺は保健室へ急ぎ、マリアから大まかな事の成り行きを聞いたのだった。


今回の件は、どうやら副学院長が学院の長が不在というタイミングを利用し、明後日という過密な予定でイベントを準備することで、余計な横槍を入れないように仕組んだようだ。


しかも建前としては、生徒達の実力の底上げとお互いの研鑽。そこに剣士と魔術師の軋轢を無くすために垣根を取り払った大会にしたという謳い文句。それらのもっともらしい言い分で、王国から派遣されている監察官をやり込めたらしい。


絶対何か企んでいるとしか思えない状況に、更に頭が痛くなる。


(国家の危機・・・いや、ともすれば人類全体の危機が迫ってるかもしれないというのに、平和に馴れ過ぎた権力者達は、未だに己の権力闘争を優先か・・・)


神樹に寿命があることを信じられない者達は、これから先もずっと平穏な日々が続くと信じて疑わない。見たくないものは見ず、臭いものには蓋をして、それで今まで通りの日常が約束されていると思っているのだ。俺から見れば滑稽でならない。


(人間の平和なんて薄氷の上を歩いていると同義なのに。安全域から出たことのない人間は、それが理解できないか・・・)


どうしたものかと頭を悩ませつつ、大会での立ち居振る舞いを考えるのだった。

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