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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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神樹 1

 ヴェストニア王国王家直轄敷地内に、この国の神樹はある。


幹の太さだけでこの国の王城の大きさを優に超え、その尋常ならざる存在感に誰もが圧倒されるほどの大木だ。その神々しさの前に、この大木を御神体と崇める宗教が発足するのも頷けるほどの。


そんな神樹の側には、この大木を研究するための施設が置かれており、日々十数人が常駐している。その研究者達は王国でも信頼のおける者達が選抜されており、中には神樹神話を崇拝する信者もいる。


そんな研究者達に激震が走ったのは、つい一月ほど前の事。


国交の無い帝国の皇帝を名乗る者達が王国へと亡命し、神樹についての情報が提供されたのだ。その内容に、研究者達は大きく2つの反応に別れた。


1つは、全く信じない者達。これは神樹神話を深く信仰する信者達に見受けられた。


もう一つは、その情報が正しいと仮定して研究を進めるべきだとする者達だ。これは神樹を信仰してはいるが、もたらされた情報が現在の神樹の状況と酷似しており、最悪を想定して研究すべきだというものだが、こちらは研究者達の中で少数派となっている。


そんな研究者達は、今日も神樹の状態を確認するため、神聖とされる真っ白なローブに身を包みながら神樹の様子を観察していた。


「・・・主任?今日の神樹の様子ですが、おかしくありませんか?」


下級研究員である女性が、年嵩の上級研究員の男性に話しかけると、彼は眉間に皺を寄せながら口を開く。


「う、うむ・・・神樹の幹の皮が大部分の場所で剥がれているな・・・それに、青々としていた葉がこんなに落ちているなんて、今まで見たことがない・・・」


「主任。これって、帝国からもたらされた情報と一致していませんか?」


「バカなっ!まさか神樹に寿命があるなど・・・そんなこと・・・あってはならない!!」


熱心な神樹神話の信者である彼は、目の前の事実を必死に否定しようとしているが、今もなお神樹の枝から絶え間なく落ちてくる葉に、現実を突きつけられていた。


「主任・・・とにかく報告をしましょう」


「そ、そうだな・・・何かの間違いかもしれんしな・・・」


一縷の望みを懸けた彼の言葉は、しかしその数日後に否定されるものとなった。




~~~ 王国評議会 ~~~


 王国の会議室の一室、以前に帝国の一行の扱いについて議論した場所に、同じ面々が集まっている。


そしてそこに、王国としては客人扱いで保護している帝国の皇帝、イシュカ・ヴェルサス・イーサルネントが、王家の一族と対面する場所に腰を落ち着け、更にその後ろに皇帝直属近衛騎士であるエリーゼが控え、会議は始まった。


(みな)、忙しい中よく集まってくれてた。既に研究所からの報告書には目を通してくれているものと思う。この会議は、これからの王国の行方を決める重要なものとなる。それを踏まえ、建設的な話し合いになることを期待する」


会議の冒頭、国王陛下が豪奢な椅子から立ち上がると、厳しい表情を浮かべながら重々しい声音でこの会議の趣旨を説明した。


「恐れながら陛下。その様な王国の大事を決める会議において、部外者の臨席を許しているのは、如何様な理由によるものでしょうか?」


王族の席にもっとも近い席に座っている宰相が、この会議に出席している皇帝を揶揄するようにして、部外者の存在を指摘した。その言葉に同調するような表情を見せるのは、文官職の大臣達だった。


そんな宰相の疑問の声に反応したのは、長机の対面に座る軍務大臣だった。 

 

「宰相殿、貴殿は報告書を読んでおらぬのか?帝国からもたらされた神樹の情報について、我が国の神樹にも類似する様子が見られたのだぞ!しかも、それは神樹の寿命についてのものだ!つまり事は王国の存亡にも関わるということなのだぞ!!情報を持つ人物をこの場に呼ぶのは当然のことだろう!」


椅子から立ち上がり、鼻息を荒くする軍務大臣に対して、宰相は冷めた視線を送る。


「しかしですな、軍務大臣。この世には偶然というものがありましょう?神樹の様子が普段と異なる状況であるとは理解できますが、それが寿命であると決めつけるのは危険でしょう?帝国の情報を鵜呑みにするなど愚の骨頂。ここは慎重に様子を見てから判断するのが得策でしょう?」


「馬鹿な!我が国のパラディンが帝国へ偵察に赴き、少なくとも帝国が滅んでいたという情報は確かだった!しかも、未知の魔物の存在も確認されている!最悪を考えて行動をしない事の方が愚の骨頂でしょう!!」


軍務大臣と宰相が段々と興奮しながら言い合う中、国王は疲れた表情を浮かべながら頭を押さえていた。この状況にあって、国を導く立場にある者達の意見が対立していることを嘆いているようだ。


そんな中声を上げたのは、宰相が指摘したこの会議唯一の部外者である帝国の皇帝だった。


「皆さん!落ち着いてください!我々帝国のもたらした情報を信じられないという事は理解できますが、今は感情ではなく理性を持って話し合いをするべきです!」


「ふん、滅びた国の部外者が何を偉そうに・・・」


立ち上がって発言する皇帝の言葉に対し、誰かが小声で嫌みを呟いたのだが、その瞬間は誰も発言していなかったためか、その批判の声は部屋中に響き、何とも言えない気まずい空気が流れてしまった。


「静まれ!!・・・すまんな、帝国の皇帝よ。(みな)初めての状況に不安を感じておるのだ」


雰囲気を一喝する国王の言葉に、室内は冷静さを取り戻していった。


「いえ、差し出がましいことを申しました。しかし、先ずは事実は事実として受け入れ、それにどう対処していくかを議論すべきかと提唱します」


皇帝は軽く頭を下げると、議論の進め方に対して言葉を残し、静かに腰を下ろした。


「では、皇帝陛下からの客観的なお言葉に習い、現在報告されている事実を確認しましょうか?」


第二王女、クリスティーナが口を開くと、また部屋の雰囲気は変化した。それは、この会議における主導権を第一王子の派閥側に取られたくないという、第二王子派閥の思惑があったからだろう。


第二王子や第一王女は社交に優れてはいるが、国が抱える諸問題に対する解決策を提示するような能力はあまりない。


そしてそれは、彼らを支持している派閥の面々も同様だった。第二王子派閥の支持者は文官達が大半で、その能力は如何に権力を強化・拡大していくかや、より金銭を集める仕組みを考え出すことに特化している。


平時であれば、そちらの方が求められる能力なのだが、今回の様な国の危機に対してはあまり役に立たない。


「それではパラディン序列第一位、アルバート様が帝国に赴き、確認された情報ですが・・・」


クリスティーナは、アルバートの名前を強調するようにして彼の功績だと知らしめるように報告された事実を列挙し始めた。


一つ、帝国は確かに滅びていたが、生き残りの住民と接触。その数は3万弱。


二つ、彼らは帝国の技術である人為的に安全域を作り出す魔導具により、約半年間は安全を確保している。


三つ、王国の神樹に異変が生じていること。具体的には、幹の皮が剥がれ始め、葉が散ってきている事。


そしてーーー


「四つ目ですが、これが最大の問題でしょう・・・我が国の最大戦力であるアルバート殿を持ってしても、討伐できなかった魔物の存在の確認です。もしこのような魔物が我が国へ襲い掛かって来れば、大きな国難に直面する事は免れないでしょう」


クリスティーナは重々しい口調で重大な事だと示したつもりなのだが、財務大臣が懐疑的な声をあげる。


「ふむ。いくらパラディン序列一位とて、単独の力などたかが知れているでしょう。仮にその魔物が襲ってきたとて、我が国の騎士団で対処可能でしょう?」


「財務大臣、貴殿はアルバート殿の実力をご存じ無い様子。彼は単独で一個師団以上の結果を出している人物だ。つまり、その魔物を確実に討伐するためには、最低でも3つの騎士団を総動員しなければならない。しかしそうなると、それ以外の任務について支障が出る。その重大性を理解しているのですか?」


軍務大臣は、報告された魔物を軽視している財務大臣に対し、侮蔑の籠った表情を浮かべながら問題点を指摘した。それに対し、財務大臣は苛つきながら口を開く。


「それは騎士団を束ねるそちら側の問題でしょう?騎士団とはこういった有事の際に対応する為の組織でもあるのですから、そこはきちんと対応していただきたいところですね」


事は王国全体に波及する問題のはずが、文官職にある者達は責任を全て武官職の方へと押し付けようとしている雰囲気があった。


そんな状況に、皇帝の後ろに控えていたエリーゼが声を荒げたのだった。

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