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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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帝国への誘い 18

 本来は王国に亡命してきた皇帝達の話の裏を取るため、進化した魔物によって滅んだという帝国の状況を確認して帰還するだけのはずだったのだが、気付けば何故か俺の肩に帝国の行く末が置かれようとしている。


正直、俺にはその事に対する決定権はほとんど無い。交渉自体は現皇帝と国王達のもとで行われるだろう。皇帝がどの程度の交換条件を提示してくるかにもよるが、場合によっては本当に帝国の安定化のために本格的に派遣されるかもしれない。


「まったく、それだけでも気を揉んでいるっていうのに・・・」


俺の頭を悩ませているのはそれだけではなかった。


「団長。それで、どうでしょうか?」


「ワシも残るし、そう心配せんでもいいぞ?」


俺に向かって真剣な表情で問いかけてくるのは、レックとダニエルだ。襲撃の一悶着の後、「話があります」と言われたのだ。その内容は驚くことに、この帝国に残るというものだった。


その理由は、「帝国に残される住民達が心配だから」というもっともらしい話だが、レックの事だ、気になる女性が出来たのか、住人の女性達から助けを求められて舞い上がってしまったのか・・・


ただ、意外だったのはダニエルも残ると申し出たことだ。


「話しは分かったが・・・本気なのか?」


「勿論!僕は全ての女性達の味方だ!つまり、この帝国の地で不安に押し潰されようとしている女性達も守らなければならない!」


レックの反応は予想通りだが、ダニエルは妻帯者だ。ここに残る理由が分からない。 

 

「ダニエルは、王国にいる家族をどうするんだ?下の子供はまだ10歳そこそこだったろ?」


「なぁに、ワシの妻も子供達も分かってくれるさ!レックだけでは心配だし、ここの住民達も見殺しには出来ん。それが騎士というものだ!」


そうだった。ダニエルは人一倍騎士としての矜持を持っていた。ダニエルの奥さんも騎士団に所属しており、そういった考えを理解できる人だ。


「・・・2人の考えは分かった。帝国の最新技術という安全域を人工的に作り出す技術も相まれば、半年は大丈夫だろう。問題はその後だ」


「まぁ、団長には半年経つ前に解決策を携えて戻ってきて欲しいですな!」


つまりダニエルは、王国が帝国の住民達を見捨てないようにする材料の一因になると言うのだ。それを上層部がどう判断するか不明だが、俺としても部下を見捨てることは出来ない。それをも加味しての判断なのだろう。


「・・・分かった。こちらも早期に戻れるよう全力を尽くすが、王国にとってもメリットがなければ難しいということは理解してくれ」


最悪、当初の学園意識改革の任務を放棄し、単独で救出に来ようとも考えた時だった、背後からエリーゼさんとミッシェルが現れた。


「王国側へのメリットならご心配なく。皇帝陛下はあなた方の期待に添えるだけの情報を有しております」


「エリーゼさん?それはどのような・・・」


「情報は歴代の皇帝陛下のみに代々伝えられるものであるので、私では分かりかねます。しかし、そういった情報を皇帝陛下が有しているからこそ、我々は帝国の再建を諦めていないのです。王国に亡命した今でも・・・」


確かに彼女達は最初に出会った頃から、故郷が滅亡したというのに絶望に打ちひしがれてはいないようだった。何かしらの再興するための策があるのだろうとは思っていたが、どうやら本当にそのための情報を有しているようだ。


そしてその情報は王国にとっても利益になるものなのか、エリーゼさんは自信の表情を覗かせていた。


「そうですか・・・それなら、エリーゼさんの言葉を信じよう。レック、ダニエル。必ず戻ってくるから、それまで死ぬなよ?」


「勿論ですよ、団長!」


「当然だな!死ぬつもりなど毛頭無いわい!」


俺の言葉に、レックとダニエルは笑みを浮かべながら答えた。ただ、ミッシェルは俺の判断が意外だったのか、少し驚いたような表情を浮かべていた。



 翌日早朝。


「「「アルバート様!無事のご帰還を願っております!いってらっしゃいませ!!」」」


「あ、あぁ、君達も気を付けて」


「「「はっ!お気遣い、誠に感激の極みです!!!」」」


帝国を離れるにあたって、騎士達が列をなして俺達を見送りに来ていた。しかも、主君に対するような仰々しい態度でだ。俺は片膝を着いて(こうべ)を垂れている彼らに戸惑いながらも声を掛けると、中には感激して涙を流すものさえいる状況に、内心辟易としてしまった。


何となく居心地の悪さに苦笑を浮かべ、ここに残る選択をしたレックとダニエルに握手をしながら2、3言葉を交わすと、俺達は帝国を離れた。




〜〜〜 エリーゼ・ステラー 視点 〜〜〜


 ヴェストニア王国の為政者達に、皇帝陛下がお伝えした帝国の現状が真実である事を確認してもらう為の道案内を任された私は、その任の帰路についている。


また10日程の日程での移動となるが、たった3人で魔物蔓延る森の移動も、私には無事に戻れるという確信があった。


(アルバート・フィグラム殿。神樹の実を取り込み、適合した奇跡の存在。帝国の命運を委ねるのに、この方以上の人物は存在しない。出来れば是非ご自身の意思で帝国へとお越しいただきたいが、何か良い方法はないだろうか・・・)


帰路の道中、私の頭の中を埋め尽くしていたのは、如何にアルバート殿を帝国へお誘いするかということだった。


そんな中、夜営の準備中にミッシェル殿と2人っきりで話す機会があったので、私は今まで疑問に思っていたことを質問した。


「ときにミッシェル殿。アルバート殿なのだが、もしかすると、あなたと婚約をしているのですか?」


「っ!!??な、何故その様な誤解を!?」


私の質問に、彼女は咳き込むようにして焦りを浮かべていた。それは核心を突かれたからというような様子ではなく、本当に私の質問に対して驚いているようだった。


「誤解ですか?その、こう言っては何ですが、帝国までの移動中、私がアルバート殿へ近づこうとすると、決まってミッシェル殿が鋭い視線を投げ掛けてきたので、私はてっきり・・・」


「いや、それは任務の一つであって・・・」


彼女の任務という言葉に、私のアルバート殿への行動を監視するように指示した人物が居るということが分かる。騎士団の副団長である彼女へ命令できる人物となれば・・・


「もしかして、王女殿下と婚約しているのですか?」


「・・・いえ、そう言えなくもないというか・・・」


歯切れの悪い彼女の言葉に、私は首をかしげた。


「実は、団長は女性が苦手というか、そういった関係性に忌避感を抱いているというか・・・」


「そういった関係性?」


話の要点を暈すような彼女の口調に、私はオウム返しで聞き返すと、彼女は少し顔を赤らめながら口を開いた。


「その、男女の事情に対してですかね」


「っ!!?」


ミッシェル殿の話では、どうやらアルバート殿の亡くなった師匠が関係しているらしく、女性関係にだらしなかった彼の師匠のあれこれを見るうちに、女性に対して苦手意識が芽生えてしまったようだ。


「う゛、う゛んっ!アルバート殿が女性に対してどういった感情を持っているかは分かりました。しかし、王女殿下があなたに対し、彼の周囲を監視するように指示したということは、殿下はアルバート殿へ想いを寄せている様子。王女殿下であれば、彼と婚約するのも容易いのでは?」


一瞬、男女の事情について妄想してしまったが、それを悟られないように咳払いをしながら、更に疑問を口にした。王家からの命令であれば、女性が苦手という彼も断るのは難しいはずだからだ。


「まぁ、その、殿下の意向としては、自らを好いてもらった上で婚約を結びたいと・・・」

 

「な、なるほど」


ミッシェル殿は苦笑いを浮かべながら、王女の考えを口にしてくれた。王族の立場として考えるなら、力あるものを取り込む為に、王権を発動して強制するのが得策だ。それをせず、彼に自分の事を好きになってもらいたいとは、どうやら王女殿下はかなり夢見る乙女な思考をしているようだ。


(同じ女として、その考えも分からないではない。むしろ互いに愛し合った者同士で愛を育み合いたいという考えは、痛いほど理解できる!しかし、そのせいで想い人が他の女性にうつつをぬかさないか気が気でないとは・・・)


彼女の印象は、どちらかというと切れ者の王族という感じだったが、政治と恋愛は別物のようだ。こんなにも可愛らしい考え方をしているとは、少し親近感が湧いてしまう。


(あまりガツガツとアピールしなくて良かった・・・王女の不興も買ってしまうところだったし、アルバート殿を帝国に誘うには、その辺りも考慮して動かなければ)


女の武器を使って誘惑するのは悪手だと分かっただけでも貴重な情報だ。ただ、アルバート殿の能力を思うと、出来れば沢山の子を残して欲しいと考えてしまう。それは帝国のみならず、この世界の未来をも明るく照らす希望となるからだ。そして叶うなら、私も彼の子を身籠りたい。


とはいえーーー


(今はただ、彼に尽くす事だけを考えよう)


私の命の恩人でもある彼の嫌がることなどしたくはない。そう考えながら、彼との未来について想いを馳せていた。


そんな私達のことを、遥か遠くの上空から見下ろしている存在に気づかずに。

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