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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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帝国への誘い 5

(まったく、まだ返り血も落としていないってのに・・・)


 上空の巨大な物体を見上げながら、内心で自分の状態にため息を吐く。そんな事を考えている間も謎の物体をつぶさに観察しているが、あれが何なのか見当もつかない。


(生物・・・なのか?にしてはデカすぎだろ?翼はあるみたいだが、魔術で飛んでるようだな。それに腕が・・・6本?こんな生き物見たことも聞いたこともないぞ!)


取り敢えず目から見える情報から判断するに、得体の知れない魔物なのだろうということしか判断できなかった。今まで読んだ魔物に関する文献の中にも、あんな存在の情報は載っていなかった。


「団長・・・あれ、ヤバくないですかね?」


震える声でレックが俺に問いかけてくると、他の皆も口々に不安の言葉を漏らしてきた。


「あ、あんなの見たことないですよ。生物として大き過ぎます」


「目測で・・・大体500メートル位はありそうだが、そもそも本当に生き物か?天変地異で地面が抉れて空に吹き飛んだと考えた方が現実的な光景だな・・・」


ダニエルの天変地異説に頷きたくなるが、そんな中、エリーゼさんが深刻な表情で口を開いた。


「おそらくあれが・・・神樹の果実を口にした魔物です!」


「「「っ!!??」」」


エリーゼさんの言葉に、皆言葉を失ったように驚きも露わにした。確かに神樹の安全域もなく、あんな巨大な魔物が国を襲ったとしたら、まともな対抗手段など存在しないだろう。


(なにせあの巨体で空を飛んでるんだ。魔術を併用した飛行手段から察するに、少なくとも風魔術は使用できる。あんな高度から一方的に魔術で蹂躙されるとなればどうしようもないぞ・・・)


あの魔物に対し、如何にして討伐するかを考えていると、ミッシェルがエリーゼさんに質問を投げかけた。


「エリーゼ殿。あの魔物に関する更に詳しい情報はありますか?」


「・・・申し訳ありません。以前王国に提出した報告書以上の事は分からないのです。我々にとっても未知の魔物で、どのようにして対処すれば良いかなど・・・」


ミッシェルの問いかけに、エリーゼさんは申し訳なさそうな表情で俯いた。帝国側からもたらされたあの魔物の情報は、『山の様に巨大で、魔術を扱える』これだけだった。


報告によれば、彼女達は遠目から神樹の果実を取り込んだという魔物を見ただけであり、直接対峙したりはしていないらしい。その為、詳細な姿は定かではなかった。


しかしこうして実物を前にすると、なるほど、確かに巨大で魔術を扱える魔物だ。ここから先は、実際に相対しての情報収集戦が必要だろう。


「・・・団長。どうしますか?」


「そうだな。とりあえずーーー」


ミッシェルの言葉に、俺がこれからの方針を伝えようとした時だった。それまで俺達の上空で滞空しているだけだった魔物が、突如咆哮をあげた。


『ーーーーーーーーーーー!!!!』


「「「っ!!!」」」


人間が許容できる可聴域を遥かに越えたその咆哮に、俺は膝を着いた。膝を着くなど、幼い頃に師匠のしごきを受けたとき以来だった。


「みんな、大丈夫か?」


おそらくは鼓膜が片方破れたのだろう、自分の発した声が籠って聞こえる。


「だ、だい、じょうぶだ・・・」


「「「・・・・・・」」」


俺の呼び掛けに答えることが出来たのは、地面に倒れ伏し、何とか上半身だけを持ち上げているエリーゼさんだけだった。他の3人は白目を剥き、耳から血を流して仰向けに倒れ込んでいた。


(不味いな・・・胸が上下しているから死んではないようだが、みんなの回復に魔術を行使する余裕はあるか?)


この現状に、瞬時に思考を巡らせる。奴は咆哮をあげてから、動き出すような様子は見られない。では何故咆哮をあげたのかが推察出来ないので、あの魔物の行動原理が分からないのだ。


通常の魔物であればその行動原理は至極単純だ。攻撃を仕掛けてくる理由は2つ。捕食か縄張り争いだ。仮にもしこの場が奴の縄張りであるなら、即座に俺達に襲いかかってこないのは不自然だし、捕食というなら近くに転がっているベヒモスの方が余程食べ応えがあるというものだ。


しかし奴は動かない。まるでその辺を散歩して、あくびが出てしまったくらいの行動に思えるほどに何もしてこないのだ。その為、俺が魔術を発動することが切っ掛けで、本格的にこちらを排除してくる可能性がある。その際、全員を守りながら対応できるか不明だ。何せ、咆哮一つで王国でも有数の騎士を戦闘不能にしてくるのだ。


(最悪は、奴に知性があることだな。もし本能によらない理知的な行動ができるのだとすると、厄介極まりないぞ・・・)


師匠が言っていたが、『人間は唯一、考えることが出来る生き物』らしい。動物や魔物もある程度学習することは出来るが、あくまで経験したことに対しての学習だ。人間のように経験していないことまで想像し、検討し、対抗策を産み出すことは不可能とされている。


それを可能とするのが知性だ。様々な状況下において考え、悩み、失敗しないように立ち回る。これが出来るからこそ、魔獣蔓延るこの世界にあって、人の文明は未だ滅んでいないと言える。


そんな人類最高の武器である知性があの魔物に宿っているとすれば、こちらへ即座に攻撃を仕掛けてこない理由は絞られる。


(奴が帝国を滅ぼした張本人だとすれば、人間の扱う魔術や剣術などは既に把握しているはず。にもかかわらず動かないのは、人間など炉端の石程度の存在だと考えているか、こちらの戦力を見極めているかだ)


もしかすると、近くに転がっているベヒモスの死体が奴を警戒させたのかもしれないが、出来れば警戒したまま何もしてこないで欲しいが、残念ながらそんな希望的観測はあっという間に潰えた。


『ーーーー』


「くっ!!」


奴がこちらに顔ごと視線を向けてくると、とてつもないプレッシャーが身体に襲いかかってきた。それは純粋な殺意。俺達を殺すという強い意思が奴から感じられた。


「ア、アルバート殿・・・」


ようやく膝立ちになるまで回復したエリーゼさんが、蒼白な表情で俺の名前を呼んできたが、その目はまだ戦いを諦めておらず、腰の双剣に手を添えている。おそらくは彼女も先の咆哮で鼓膜が破れ、三半規管が麻痺しているだろう。その上、ミッシェル達3人は完全に気を失っている。状況は絶望的だが、だからといって相手の好きにさせる訳にはいかない。


「エリーゼさん。俺がやりますから、3人をお願いします」


「っ!?む、無茶だ!2人で力をーーー」


「いえ、相手の力は未知数です。協力した結果、共倒れしてはそのまま全滅します。エリーゼさんは3人を守って下さい」


エリーゼさんの言葉を遮るようにして、リスク回避の方針を伝えた。彼女は不安な表情を浮かべるが、今から俺は全力を出すつもりだ。全力を出した時間によっては、たとえ魔物を討伐もしくは撃退できたとしても、しばらく動けなくなってしまう。その間は完全に無防備になるので、別の魔物が襲ってきた時に戦える存在を残して置かなければならない。


「し、しかし・・・」


尚も何かを言い募ろうとするエリーゼさんだったが、残念ながら既に時間がない。上空の巨大な魔物が、ゆっくりと下降してきたのだ。そして、先程よりも更に濃密な殺気が当てられる。


「魔法陣展開・魔力供給・発動。身体超強化」


聖魔術を発動し、肉体を常時回復状態にしつつ、過剰な身体強化を施す。本来、あまりにも過剰に身体強化をしてしまうと、人知を超えた力を得るかわりに、数分で筋肉が崩壊してしまうが、それを防ぐために常時回復しなければならない。


更にーーー


「魔法陣5重展開・融合・魔力供給・顕現!滅びの魔剣、虚無きょむ


俺自身の最大攻撃力を誇る虚無を生み出して水平に構え、一呼吸息を整えた。集中力を極限まで高め、目の前の魔物以外を意識から除外する。


「いくぞっ!」


それは、今まで経験したことのない強大な魔物を相手に、己を叱咤するような声だったかもしれない。俺は地面が大きく陥没するほどの衝撃を放って、巨大な魔物が迫りくる上空へ飛び出したのだった。

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