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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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滅国の皇帝 4

~~~ イシュカ・ヴェルサス・イーサルネント 視点 ~~~


「それで、この国の戦力はどうだった?」


「はっ!正直に申しまして、私と模擬戦を行った少年は計り知れない実力を秘めていると推測しますが、他の騎士達については我が帝国の騎士達と大差ないと思われます」


 王国への亡命が叶った我々は、今は王城へと案内され、要人用の貴賓室に案内されていた。我が帝国の騎士達は別の大部屋へ案内されており、この国での扱いが正式に決まるまで、部屋から出るのは制限されることになった。


当然ながら我々の武装等は全て外されており、私の部屋には専属近衛騎士のエリーゼのみ滞在が許されていた。これは、他国の王城内で他勢力である我々が武装蜂起し、王族を害されないようにするための処置ということだ。


状況が落ち着いた私は、同室のエリーゼにこの王城へ案内されてからこれまで見てきた王国の騎士達の戦力を聞くと、おおよそ私と同じ印象であった。


「やはりそうか。私とて、幼い頃から魔術を学び、相応の実力を身に着けたと自負しているけど、あの少年は異常だと直感した」


「・・・剣を交えた私の感想としては、実力の底が見えませんでした。ある程度の実力者であれは、その佇まいや雰囲気から大体の実力を察せられます。魔力を見ても、それほど巨大な量を有してもいなかった。にもかかわらず、あの少年は私の必殺の二連撃をあっさり避け、あまつさえ、私の剣を弾いてみせました。これは私の動きを完全に見切った上で、且つ、その速度の領域に立つ者だけが出来る芸当かと」


我が帝国の最高戦力であるエリーゼの言葉は、私の心に重くのしかかってくる。傍から見ていた立場で言えば、彼は剣術という面においてエリーゼと同格の様に思われる。その上で彼は魔術が得意だとすれば、いったいどれほど強力な魔術を操れるのかと不安に思う。


(私の『可能性知覚』は、彼と共に並び立ち、困難を乗り越えることで帝国が再建する様子が浮かび上がっていた。それを実現するには、彼からの信頼を得るのが絶対条件。その上でヴェストニア王国からの了承を貰う必要がある、か・・・)


あの王子と王女は、彼の事を飛び抜けて重要な人材だと考えているようだ。他国の王族との会談、それも今まで交流が無かった相手の上、こちら側は完全武装していた。その状況で、たった一人の学生を護衛として引き連れてくるなど、普通に考えれば正気の沙汰ではない。


(しかし彼らは、それで問題ないと考えた。我が帝国の騎士20名以上に囲まれた状況で、あの余裕の表情・・・あれは自分達の腕に自信があるというよりは、もっと別の根拠・・・彼に絶対の信頼を置いていたからと考えれば合点がいく)


そんな王族から信頼厚い彼を王国から引き抜き、帝国の為に尽力してもらうというのはかなりの困難だ。破格の報酬を提示すると言っても、現状の帝国は強大な魔物がぼっこする魔境へと変わりつつあり、命からがら脱出してきた我々に、金銭的なものは約束できない。


ならば、帝国再建後の地位ということになるが、仮に帝国の領土を奪還出来たとしても、復興には莫大な労力が長期間必要不可欠になる。苦労するだけでしか無い地位に彼が興味を示すとも思えない。


(そうなると、残る手段はこの身体を差し出すしか無い、か・・・)


私は自分の身体を見下ろすと、顎に手を当てながら他者から見た自分の容姿の価値を吟味する。そして、これまで周囲から向けられていた自身への評価を思い起こす。


私はどちらかというと同性からの人気が高かった。異性からは、『性別を越えた存在だ』なんて言われる事が多かったが、それは好意を抱かれるというよりは、崇拝されているような、畏怖されているような感じだった。


(これまでの経験を踏まえて考えると、私は彼にとって魅力的ではないか・・・しかし、あの年頃の男の子ならあるいは・・・それに、今の私が彼に提供できる魅力ある報酬など無い・・・)


結論の出ない思考に嵌まっていく私は、考えを整理すべく、エリーゼに確認する。


「エリーゼ」


「はい、何でしょうか?」


「男性というものは少年時代は年上に、青年になってくると年下に劣情を抱きやすいと聞く。あの少年の正確な年齢は不明だが、おおよそ15歳前後と推定した場合、年上である私は彼にとって魅力的だろうか?」


「っ!?へ、陛下?何を仰っているのですか?」


私の質問にエリーゼは目を見開きながら、驚きも露に聞き返してくる。少々唐突な質問だったと反省しながら、私は自分の考えをエリーゼに聞かせる。


「私の能力で見た帝国復権の鍵を握るのは、あの少年だ。彼の協力はどうしても取り付けたい。王国の上層部の許可が得られるかという問題もあるが、彼自身が望んで我々に協力してもらう状況にした後に、王国に願い出るのが順当だろう」


「そ、それは理解できますが、何故それで陛下があの少年にとって魅力的云々の話になるのですか?」


「現状、我々があの少年に協力してもらうには、情に訴えるか魅力的な報酬を提示するしかない。情だけで動いてくれればもうけものだが、進化した魔物という強大な存在と戦う必要がある以上、やはり相応の報酬がなければ動かんだろう」


「・・・その報酬に自らを差し出そうと?いけません陛下!陛下は帝国最後の皇帝!皆の希望なのです!そのような身売りをする行動は、部下を失望させてしまいます!」


私の考えに、エリーゼは強く反対の意思を示してきた。彼女の言うことも分からないではない。主人と仰ぐ存在が、まだ年端もいかぬ少年の欲望の捌け口になろうとしているのだ。失望や軽蔑、果ては帝国に対する忠義そのものが揺らぎかねないほどに衝撃的な事だろう。


しかしーーー

 

「帝国の再建のためには、あの少年の協力がどうしても必要なのだ。この身を好きに弄ばれるくらいの事は喜んで受け入れよう。その結果、近衛騎士団の信頼が揺らごうとも、ここで希望の灯を絶やすよりは良い」


「・・・陛下。失礼を承知で申し上げるなら、陛下は帝国の騎士養成学院時代、周囲の者達からイケメン皇女と呼ばれていました。それはもう、周囲の男どもが萎縮するくらいのイケメンでした」


エリーゼは遠い目をしながら、いつかの記憶を垣間見ているような表情で唐突に語ってきた。それはまだ私が成人前の事、幼馴染みでもあるエリーゼと共に勉学や魔術を学んだ学生時代の話だった。

 

「い、いきなりなんだ?・・・いくら私の外見が男性的だとは言っても、歴とした女性だぞ?胸だって・・・無いことはないし、スタイルは良いと思うのだが?」


私はそっと自らの胸を押さえるが、そこには成長という言葉を忘れたふたつの小さな膨らみがあるだけだった。同じ年齢のはずのエリーゼのボリュームとは比べるまでもない。

 

「陛下、あの位の男の子であれば母性を求めるもの。年頃の少年の欲望を全て受け入れるだけの度量と器量が必要です。それはもう、オシメを変えてあげるがのごとく、口移しで食事をしてあげるがごとく、一緒にお風呂に入ってあげるかのごとくの母性を求めるのです!」


「そ、それほどまでなのか!?」


エリーゼの言葉に衝撃を受けた私は、しばらく固まってしまった。時に男性はまるで獣のように女性の身体を求めると聞いたことはあるが、エリーゼの言うそれは、私が予想だにしないものだった。


「驚くのも無理はありません。年頃の男の子というものは、時にこちらが驚愕するような妄想をするものです。であれば、ここは私が人柱ひとばしらとなり、この身を捧げましょう!」


「エリーゼ・・・」


決意に満ちたエリーゼの表情に、私は彼女の騎士としての矜持の高さを垣間見た気がした。私が動けば近衛騎士達の信頼に亀裂が入ることを憂い、自らの身を犠牲にすることでそれを防ぎ、且つ、あの少年の協力を取り付けようと考えたのだろう。


(帝国のためであるならば、自己犠牲も厭わぬ精神・・・私はエリーゼのような側近を持てたことを誇りに思う!)

 


 こうして私はエリーゼに、あの少年への交渉材料となることの同意を得たのだった。感謝の言葉を告げる私に対して彼女は、何故かだらしなく口元を緩め、ここではないどこかを見ているようだったが、もしかすればこれからの過酷な運命に立ち向かう前に、少しだけ現実逃避をしているのかもしれない。


(エリーゼ・・・酷なことを頼むようで申し訳ない。帝国が再建した暁には、あなたを大臣級の要職に就けることを誓うわ!!)


彼女の忠誠心の高さに敬意を払いつつ、私はこれからの行動について戦略を練るのだった。

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