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騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
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滅国の皇帝 3

〜〜〜 エリーゼ・ステラー 視点 〜〜〜


(ばかな・・・)


 二刀流による必勝の二連撃。左で間合いを計りつつ相手にその剣を受けさせ、その隙に右からの神速の突きを放つ。これまで騎士団内の模擬戦闘や試合でも、私のこの連撃を受けきれた者は居なかった。とりわけ、二撃目の突きを綺麗に避けられるなど考えたこともなかった。


(飛び退いたり、左右に転げるようにして逃れた者は居た。しかしこの少年・・・私の技を完璧に見切って躱してみせた!こんな年端もいかない少年が、何故これほどの実力を?これで魔術を主に学んでいるなんて、信じられないわね・・・)


無様な姿で逃れたものは今までも居たが、当然ながらその直後は隙だらけとなり、次の瞬間にはその眼前へ剣先を突きつけて勝負ありとなっていた。


しかしこの少年、左膝を僅かに内側にずらすと、突き込んだ私の剣の腹をその膝で弾くようにして躱したのだ。寸止めのつもりだったが、当たらないことを確信したのでそのまま突き込んだのだが、驚くべき行動だった。こんな芸当が出来るのは、私の剣技を完璧に見切り、それに対応する反射神経、動体視力等の身体能力が備わった上で、更に一瞬で行動を決める判断力も必要だ。


いくらこれが模擬戦とはいえ、少しでも誤った行動を取れば大怪我を負ってしまう可能性がある。にもかかわらず、全く躊躇せずに行動を選択し、見事に私の二連撃を凌いでみせた。


(素晴らしい。が、同時に恐ろしくもあるな・・・)


本気を出していないとはいえ、ここまで私の動きに着いてくる上、彼にはまだ魔術もある。もし彼の力が我々に向けられる日が来るとしたら、私は彼を抑えられる自信がない。


何故ならーーー


(くっ!私には無理だ!こんなに可愛らしい男の子に本気で剣を向けるなど・・・出来るわけがない!!)


もし亡命先の王国内で万が一皇帝陛下に剣が向けられるような事態に直面した場合、兵力差を考えれば決死の覚悟で王国の騎士達に相対する必要がある。ありえないかもしれないが、その中にこの可愛らしい少年が居た場合、確実に戦意を削がれるだろう。そんな私の弱みとなる感情を、この模擬戦中に王国側に悟られるわけにはいかない。そんなことを危惧すると、私は唇を噛み締めながら彼の顔を見る。


(あの綺麗な銀髪の頭をナデナデしたら、どんなに幸せだろうか・・・ん?待てよ。あるじゃないか!周囲から変に思われず、彼の頭を自然な形で撫でられる方法が!)


段々と模擬戦とは全く関係ない感情が渦巻いてきている私は名案を思い付くと、彼から少し距離を取って口を開いた。


「今の攻撃を躱すとは、あなたの実力には脱帽です」


「ありがとうございます」


私の称賛の言葉に彼は、微笑を浮べて感謝の言葉を返してきた。その姿たるや、私の愛でたくて仕方ない欲求をこれでもかと刺激してくる。


「それに、どうやらあなたはまだ力の底を見せていないようね?」


「いえ、そんなことは・・ないのですが・・・」


歯切れの悪い彼の返答に、私は訳知り顔で指摘する。


「いくら模擬戦とはいえ、獲物が真剣では万が一の心配をするのも分かります。しかし、それは無用というもの。一切の遠慮なく、全力でその力を見せてみなさい!もし私の衣服にその刃が僅かでも届くなら、あなたの望みを何でも聞いてあげましょう」


「・・・えぇ?」


私の提案に、彼は困惑の表情を浮かべていた。いきなりだったのが悪かったのか、少し配慮が欠けていたようだと反省した。


(この年頃の男の子なら、女性の身体には興味津々だと思ったんだけど、こんな場では言い辛かったかしら?ちょっと短慮だったわね)


そう考え、私は言い方を変えることにした。


「何事も、()()()があった方がやる気が出るでしょ?とはいえ、それも私に攻撃が僅かにでも触れたらですよ?」


「・・・わ、分かりました」


ご褒美の部分を強調して告げる私に、彼は困惑の色を残しつつも、剣を構え直していた。どうやらやる気が出たようだ。


(ふふふ。これで私に攻撃が当てられなかったとしても、頑張った彼の頭を撫でるのは不自然ではなくなった。それとも、わざと服を斬らせて、彼の願望を聞いてみるのも悪くないわね。人気ひとけの無い部屋で二人っきりの状態にしてから望みを聞けば、とんでもない要求がくるかもしれないわ!ウフフフ・・・)


彼との妄想に涎が垂れるのを抑えながら、私も二本の剣を握りなおす。すると、鋭い視線を感じた。


(ん?王女殿下からの視線?って、なんかメチャクチャ睨まれてない?何か王女の気に障るようなことでもしたかしら?)


その視線が持つ意味が分からず内心首を傾げるが、今はそんなことより彼との時間を楽しむ方が先決だ。


(さてさて、どうやって彼との一時を楽しもうかしら?)


彼との今後について期待に胸を膨らませながら、踏み込んでくる彼の姿を見つめていた。




 他国の騎士の実力を見極めるための模擬戦は、当初は順調だった。おそらくは騎士の中で一番の実力を誇るであろう皇帝専属近衛騎士のエリーゼさんと手合わせし、手を抜いているであろうことを差し引いて考えても、おおよその実力を知ることが出来た。


そこまでは良かったのだ。


あとはお互いに満足する程度に剣を交え、最後に俺が感謝の言葉を伝えれば、模擬戦は問題なく終了するはずだった。


しかし、途中でエリーゼさんが変なことを言い出してから、状況は一変する。


(くっ!王女からもの凄い鋭い視線を背中に感じる。この近衛騎士の人の様子・・・俺に対して好意を抱いてる?この短時間で?模擬戦しかしていないのに?一体何故?)


顔を合わせてまだ数十分しか経っていないにもかかわらず、彼女に好意を向けられている意味が理解できなかった。しかしあの表情や視線は、師匠のせいで幼い頃より見てきた異性に対する好意を抱く視線そのものだ。


それを王女も敏感に感じ取ったのだろう、振り向くまでもなく、俺に対してジト目を向けているのを感じる。先程までの手応えのある模擬戦への興奮は、一気に冷めてしまった。


(俺は何もしていないというのに、何でそんな視線を向けられないといけないんだよ・・・)


理不尽さを感じながらも、この模擬戦の着地点をどうするかに頭を悩ませる。


(彼女から一本取ろうものなら、俺は彼女に何かしてもらうような事を要求しなければならない。つまり、何かを要求したくて勝ったと思われる。しかし、負けたとしても目の前の彼女は何か俺にしてくるような感情が見て取れるぞ・・・励ましで抱きしめてくるか、撫でられるか・・・いずれにしても王女の機嫌が傾く・・・どうする・・・)


模擬戦とは全く関係ないところで背筋に冷や汗が流れる事態に直面するが、ここでの最良は負けることだろう。少なくとも、俺がしたくてやったのではなく、相手が勝手にやったことだからという話で落ち着けたい。


(まったく、何でこんな事に・・・)


面倒な事に巻き込まれたと思いながらも俺は剣を握り直し、模擬戦を終わらせるべく再開する。


「はぁ!!」


「ふっ!!」


俺は再度真正面から斬りかかると、彼女は何故か紙一重で躱そうとした瞬間、少し腕を近づけると、自らの服の袖が俺の打ち下ろしの剣の軌道に重なるようにした。


(バカな!あんたの実力なら簡単に躱せるだろ!?まさか、わざと負けるつもりか!!)


ここに来て、最悪の事態が起こる。2人とも負けようとしているのだ。そうなってしまえば模擬戦などただの茶番だ。最初のピリッとした雰囲気とは打って変わって、気付くと僅かに弛緩した空気が漂い始めていた。


(あぁもうメチャクチャだ!!こいつは何なんだよ!!)


内心憤慨しつつも、俺は打ち下ろす剣の軌道を無理やり変えるべく、足を滑らせたようにして盛大に背中からけてみせた。


「ぐぁ!」


「・・・だ、大丈夫か?」


彼女は一瞬悔しそうな表情を浮かべるも、すぐに転んだ俺を気遣ってきた。その隙を見逃さず、空気の読める男、王子が声を張り上げた。


「それまで!」


「「っ!?」」


王子の一声にエリーゼさんを始め、審判役の騎士や皇帝も虚を突かれたような顔をしていた。どうやらこの模擬戦の雰囲気の僅かな変化に気がついていないようだった。


「どうやらアル君は、学院の演習の疲れもあるようですね。これ以上続けて、未来ある優秀な生徒に怪我をさせるのも忍びない。申し訳ないが、模擬戦はここで終わらせてもらってもよろしいですか?」


「え、ええ、勿論です。こちらも貴国の大切な人材が怪我をするのは本意ではありません。アル殿、素晴らしい戦いでした。エリーゼ、お疲れさまです」

 

「・・はっ!」


王子の言葉に皇帝は納得したように頷くと、俺とエリーゼさんを労った。その言葉に、エリーゼさんは一瞬の間がありながらも、すぐに皇帝に敬礼をしていた。


(ふぅ・・・これで波風立たずに模擬戦を終わらせられた。さすが妹溺愛の王子。王女の機嫌が傾くのを最小限に抑えてくれたな)


そうして俺とエリーゼさんは剣を鞘に納め、あとは魔導列車の方へと移動を開始するだけだったのだが・・・


「アル君。君の才能は素晴らしい」


「あ、ありがとうございます」


満面の笑みを浮べながら歩み寄ってきたエリーゼさんは、俺のことを手放しに褒めそやしてきた。


「そこで、君の事をもっと教えて欲しい。今度2人で語らい合う時間を貰えないか?」


「え?し、しかし、皆さんは要人として王国に入国しますし、私は一介の学生なので、また会えるかは・・・」


エリーゼさんの願いに、俺はしどろもどろになりながら何とか誤魔化そうとするが、それに構わず、彼女は俺の手を両手で握ってきた。


「それは何とかしよう!私は君が気に入ったのだ!」


「っ!」


彼女の言葉に、俺の背中に向けて重圧がのし掛かる。その発生源は王女だというのは言うまでもない。


一先ず俺は愛想笑いを浮かべながら、王子に助けを求めるのだった。

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