表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士学院のイノベーション  作者: ハッタカ
第三章 神樹の真実
34/97

滅国の皇帝 2

 王子達と皇帝の話し合いは、いよいよ詰めの段階に差し掛かってきた。帝国側としては、神樹の知識や自国が蓄えてきたこれまでの歴史などを引き換え条件に、皇帝自身や騎士達を王国に亡命させて欲しいというものだった。


帝国は建国から3000年以上経つようで、王国とは比べ物にならないほどの長い歴史を持っているようだ。そんな帝国からは、傍目から聞いていても有用な知識があるようで、亡命させることに異論は無いだろうが、問題はどのような待遇でという面だろう。


「皇帝陛下、我々は王位継承権を持つ王族といえど、政治的な判断を独断で行うことは出来ません」


「それはそうでしょう。我が帝国でも、国の方針や重要施策を決める場合には、議会の承認が必要でした」


「お察し頂き、ありがとうございます。現状としては皇帝陛下列びに近衛騎士の方々については、他国の要人として対応させていただきます。ただ、完全武装した状態で王国内にお招きすることははばかれますので、その点についてはご容赦下さい」


「理解しています。ヴェストニア王国のご配慮に感謝申し上げます」


真剣な表情の王子と皇帝は互いに握手を交わし、一先ずは問題を先送りにしつつ、王国に迎え入れるということで決着がついた。王子と王女としては、最終的な判断は国王に任せるということだろう。



「ところで、先程から気にはなっていたのですが、お二人が同行させている方は護衛?なのですか?」


 話も一段落し、皇帝は後ろに控えて俺の事を凝視していた騎士と小声で少しやり取りすると、こちら側に不快と思わせない為の配慮か、申し訳無さそうな表情を浮かべながら俺に視線を向けつつ王子に確認してきた。


「彼のことですか?そうですね、お互いの信頼関係構築のため、お伝えしておきましょう」


王子は俺の方をチラリと見ると、そんな事を言い出した。現状、俺は学院に潜入している身であるので、ここで本当のことを話した場合、情報が漏れる危険性があると思うのだが、口を挟めるわけもなく、成り行きを見守るしかなかった。


「彼は我が王国にある、騎士を養成する学院の生徒です。先にお伝えした通り、私がこの森にいるのは学院の演習の視察なのです。彼は学院でも飛び抜けて優秀な生徒でしてね、経験を積ませようと同行させたんです」


「なるほど。そうだったのですね。さすがにお若過ぎるようでしたので、疑問に感じてしまいました。お気を悪くされたのなら、申し訳ない」


「いえいえ、そんなことは思いません。ただ・・・そうだ!よろしければ彼の今後の為、帝国の実力者の方からご指導していただけませんか?」


王子と皇帝のやり取りを聞き、その狙いを察した。要するに王子は俺の情報を伏せつつ、相手の戦力を探りたかったというわけだ。


確かに、実力不明な20数人の騎士達を王国内に招くのは危険だ。それならば、事前にその戦力を確認するのが当然だが、王子や王女が相手をするわけにもいかないので、俺の出番ということだ。


「次代の育成のためということであれば、こちらに否もありません。武器を装備していないところを見ると彼は魔術師のようですが、魔術による模擬戦闘ということでよろしいでしょうか?」


皇帝の確認する言葉に王子は少し逡巡するも、すぐに口を開いた。


「実は彼、剣術も魔術も体得しようとしてまして、学院では主に魔術を学びながら、剣術も自己研鑽に励んでいるのです。ですのでよろしければ、剣術の指南をお願いしても?」


「剣術と魔術の両立ですか?志が高いのは素晴らしいことですが、残念ながら辿り着けるか分からない程の険しい道のりですよ?」


「それは本人も承知しているところです。実際、我が国の学院も別々に教育をしていますからね。とはいえ、強くなりたいという本人の想いを無下にも出来ませんから」


「・・・なるほど。王子殿下がそこまで気に掛ける人物ですか。それならばこちらも、相応の者を選ばねば失礼というものですね」


今の会話だけで、帝国の人間も王国の人間と能力の基本は変わらないということがわかる。やはり剣術と魔術の並行使用というのは難しく、どちらかに重きを置いて鍛錬しているようだ。


話の行末を見守っていると、皇帝は自身の後ろに控えていた騎士に視線を向けた。


「エリーゼ!彼に稽古をつけてあげなさい!」


「はっ!」


エリーゼと呼ばれた騎士は俊敏な動作で敬礼すると、そのまま前に進み出てきた。


「アル!胸を借りさせてもらいなさい」


「はい!」


王子の言葉に俺は学生らしく返事を返すと、エリーゼさんと同じ様に前に進み出た。


「彼女はエリーゼ・ステラー。私の専属近衛騎士で、今や帝国1の剣術の使い手だ。遠慮せずに挑むと良い」


「ありがとうございます、皇帝陛下。エリーゼ様。よろしくお願いします」


「よろしく」


皇帝から彼女を紹介され、俺は失礼のないように返答した。他国の騎士をどのような敬称で呼べばいいか分からなかったで、取り敢えず様付けをしたのだが、呼ばれた本人は笑みを浮かべながら応えてくれたので、これで良かったようだ。


「アル。今日は武器を携帯していないからな、私のを使うと良い」


そう言いながら王子は、腰に下げていた豪奢な剣を外し、俺に差し出してきた。恭しい態度でその剣を受け取ると自分の腰に装備し、剣を抜き放って構えた。それを見たエリーゼさんも両腰から腕を交差するようにして剣を抜き、だらんと腕を下げ、自然体の構えをとった。どうやら先手を俺に譲ってくれるようだ。


すると、帝国の騎士の一人が進み出て、俺とエリーゼさんの間に立った。おそらく手合わせの合図をしてくれるのだろう。同時に、残りの人達は俺達からある程度距離を取るために離れていった。


「では僭越ながら、私が開始の合図をさせていただきます。双方、用意はいいですか?」


騎士は俺とエリーゼさんを交互に見て、準備が出来ているかの確認をしてきた。


「いつでも良いですよ」


「大丈夫です」


彼女の返答に合わせるように、俺も問題ない旨を伝える。すると、騎士は右腕を前に差し出して少し間を置き、勢いよく持ち上げた。


「始めっ!!」


「はぁぁぁ!」


先ずは相手の実力を確認する意味も込めて実力を半分程度に抑え、意識的にゆっくり身体強化を施すと、そのまま真正面から上段に斬り掛かった。


「ふっ!」


単純な上段からの斬り下ろしは、同じく身体強化をした彼女の右の剣であっさりと防がれると、そのまま左の剣で俺の胴を薙ぎ払おうとする流れるような攻撃を見せてきた。


「くっ!」


一応苦戦している様子を演出するため、俺は焦りの表情を浮べながら瞬時に後退し、適当な距離を取った。


「学生にしては中々良い踏み込みです。魔術を主として学んでいながら、ここまで剣術の腕を磨いているとは・・・なるほど、素晴らしい才能です」


素直に俺の剣術を誉めてくる彼女の顔は、少しだけ興奮に頬を赤らめているようだった。今の攻防で分かったのは、彼女は王国の騎士と比べても、実力はかなり上位に位置するだろうということだ。ともすれば、俺の他に6人いる騎士団長にも匹敵するだろうが、もう少し様子を見る必要がある。

 

「お褒めに預かり恐縮です。二刀流の方と相対するのは初めてですが、二本の剣を操ることで、これほど流麗な攻撃になるとは感服です。続けてご指南下さい」


「良いでしょう。では、今度は私から行きますよ」


俺の言葉に彼女は表情を引き締め、足を広げて身体を低く屈めると、左の剣を大きく前に突き出し、右腕を引き絞って構える独特の姿勢を見せた。


「集中してくださいね・・・ふっ!」


彼女が警告をした一瞬の静寂の後、その姿が掻き消える速さで俺の間合いの中に踏み込んできた。 


(速いな。見慣れない超低姿勢からの攻撃・・・左の剣は間合いの把握で、右の剣が本命・・いや、おそらく状況に応じて切り替え出来るはず。それに、二刀流の真価は手数の多さ、連撃だ)


彼女の剣が迫る一瞬で、その攻撃スタイルに当たりをつけた俺は、剣を下段に構えて受けに回る。


「セアァァァ!」


「はぁぁぁ!」


彼女と俺の掛け声が交錯すると同時、間合い用の突込みと知りつつ左の剣を受ける。するとやはり、自由な右の剣でそれまで以上の速度の突込みを放ってきた。


(狙いは左膝のようだが、寸止めか?だが、その必要は無い!)


俺の為の手合わせという体になっているものの、歯応えのある相手に少しだけ楽しくなってきた俺は、ギアを上げるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ