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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
Alice in the No Man's Wonderland
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ギガ・スライム2


 まるで小山のようなギガ・スライム。秋斗はこの超巨大モンスターにロア・ダイト製の六角棒で浸透打撃をかました。だがその結果はノーダメージ。後を追ってくるギガ・スライムと距離を保ちながら、彼はその理由について考えていた。


(ってもまあ、要するに衝撃を吸収したんだろうな)


[うむ。それ以外には考えられん]


 シキも秋斗の予想に同意する。浸透打撃は確かに発動した。それは手応えで分かる。浸透打撃は要するに内部へ衝撃波を叩き込む技。ギガ・スライムはその巨体で衝撃波を全て吸収、無力化してしまったのだ。ということはつまり、浸透系の攻撃は全て用を為さないことになる。


「どうするかなぁ……」


[スコップを使えば、ダメージは入ると思うぞ]


 ぼやく秋斗にシキがそう答える。だが彼はますます顔をしかめた。ギガ・スライムの身体をスコップでいわば“掘って”いけば、いずれは身体の容積が小さくなって倒せるだろう。その攻略法は理論的には正しい。実質的に小山をスコップ一本で掘り返すのと同義だという点に目をつぶれば、だが。つまり実質的には不可能だ。


 ではどうやってダメージを与えるのか。実質的に秋斗が持つカードはあと一枚しかない。雷魔法だ。これまで彼はスライム相手に雷魔法を使った事がない。その必要がなかったからだ。だがまったく効かないということはないだろう。


 それで、どれだけ効くのかを確かめるのもかねて、秋斗は魔石に思念を込めてから後ろを振り返り、それをギガ・スライムの体内へ投げ込む。一拍遅れていつもよりくぐもった放電音が響き、ギガ・スライムの身体が大きくえぐれた。


「よしっ。効くな!」


 手応えを感じて、秋斗は笑みを浮かべる。えぐれたのはギガ・スライムの身体のほんの一部で、しかもすぐに塞がってしまった。だが黒い光の粒子がその周囲に放出されている。つまりダメージはちゃんと入ったのだ。


「シキ、魔石のストックは?」


[十分にある。好きなだけ使え]


 秋斗は方針を決めた。同時にギガ・スライムがまた岩石の雨を降らせる。秋斗はそれをかいくぐって間合いを詰めた。そして六角棒をストレージに片付け、ギガ・スライムの周囲を走りながら、その体内へ思念を込めた魔石を投げ込んでいく。くぐもった放電音が断続的に響いた。


 魔石は、どうやらしっかりと投げ込んでやった方が良いらしい。ある程度深い位置じゃないと、紫電がギガ・スライムの身体を突き破って外へ出てしまうのだ。つまりその分のエネルギーが無駄になる。とはいえ足を止めるわけにはいかない。秋斗は腕の振りと手首のスナップを利かせて魔石を投げ続けた。


 とはいえ何度も言うが、ギガ・スライムはデカい。「雷魔法で焼き尽くす」というのが秋斗の方針だが、使うべき雷魔法の回数は当然多くなる。またギガ・スライムの反撃も警戒しなければならない。つまり秋斗はずっと走り続けなければならないのだ。


 ゴブリンをトレインしたときもずいぶん走ったが、今回はその比ではないだろう。魔石のストックより先に彼の体力が尽きそうである。「バイクがあればなぁ」と弱音を吐きたくなるのも、仕方のないことだろう。


[頑張れ、アキ。ギガ・スライムはちゃんと縮んでいるぞ]


「おお!」


 あえて声に出して答え、秋斗は自分を鼓舞した。そしてまた一つ、思念を込めた魔石をギガ・スライムの体内へ投げ込む。そうやって彼は少しずつギガ・スライムの体積を削っていった。


 そして87回目の雷魔法を発動させた後、秋斗は足を止めてギガ・スライムの様子を窺った。呼吸が苦しくて喉の奥が痛い。汗が滝のように流れる。だが一時間以上も走り続けた甲斐はあった。


 ギガ・スライムの身体はすっかり縮んでいる。もちろん、普通のスライムに比べればまだまだ二回り以上も大きい。だがもう終わりの見えない大きさではない。秋斗はストレージからスコップを取り出した。雷魔法や六角棒を使わないのは、ギガ・スライムの魔石が割れるといけないからだ。スライム相手だと、どうしても最後はスコップにたどり着くらしい。


「おおおおお!」


 雄叫びを上げて、秋斗は力を振り絞る。そして小さくなったギガ・スライムへ突撃した。ギガ・スライムがまた小石を発射するが、彼はそれを横に飛んで避ける。そしてスコップを水平に振るって浸透打撃を叩き込んだ。


 ギガ・スライムの身体が大きくたわみ、衝撃波が外へ抜ける。同時に薄紅色の液体がまき散らかされ、ギガ・スライムの身体がまた小さくなった。彼はさらにもう一発、浸透打撃を叩き込んだ。


 ギガ・スライムの身体がまた小さくなる。だが秋斗は思わず顔をしかめた。二度目の浸透打撃は一度目より手応えが硬くなっていたのだ。これは気のせいではない。実際、一度目より二度目の方が、ギガ・スライムの体積の減少量が少ない。


(防御力が上がってる……? だとしても!)


 秋斗は構わず、もう一度浸透打撃を喰らわせた。多少効きが悪くなっても、ダメージは入っているのだ。ならば問題はない。そしてさらに四回、浸透打撃を叩き込んだところで、いよいよギガ・スライムは普通のスライムのサイズまで縮んだ。だが魔石のサイズは普通ではない。その魔石はドラゴン・ゾンビ並に見えた。


「これで!」


 秋斗がスコップをフルスイングする。だが何と浸透打撃は弾かれた。もしかしたら、身体が小さくなったことで体内の魔力密度は上がっているのかも知れない。そしてバランスを崩した秋斗へ、ギガ・スライムは思いがけないスピードで体当たりをした。


「がっ!?」


 秋斗が押し倒される。しかも悪いことにスコップを手放してしまった。ギガ・スライムはそんな彼にのしかかり、そして体内へ呑み込んでいく。秋斗はもがいたが抗しきれず、完全に呑み込まれてしまった。シキの悲鳴が彼の頭の中で響く。


[アキ!]


「……!」


 口を覆われ、息ができない。秋斗は必死になって手足を動かしたが、しかし空回りするばかり。そうこうしている内に、徐々に息が苦しくなっていく。もう時間的な余裕はなかった。


(上下の感覚は、ある……!)


 秋斗はまず、地面に足をつけた。実際にはギガ・スライムの体内なのだが、それでもまだ下の方は踏ん張りがきく。そして彼はギガ・スライムの魔石を両手で掴んだ。抵抗するかのように反発があるが、かまわず力任せに鷲掴みにする。


 そして掴んだ瞬間、彼は思いきり膝を伸ばした。同時に両腕も伸ばしてギガ・スライムの魔石を頭上へ掲げる。高々と掲げられたギガ・スライムの魔石は、薄紅色をした身体を突き破って外へ出る。水饅頭が弾けた。


「はぁ、はぁ、はぁ……!」


 秋斗は大きく肩を上下させながら、荒い呼吸を繰り返す。薄紅色の液体のせいで彼はずぶ濡れだ。だがすぐにその液体は黒い光の粒子になって消えた。もっとも、汗でベトベトなのは変わらない。


「あぁぁ、くそ、とんだ泥仕合だ……」


 呼吸が落ち着いてくると、秋斗は思わずそうぼやいた。こんなに追い詰められたのは久しぶりだ。しかもスライム相手に二度目である。それが妙に腹立たしい。渋い顔をしている彼にシキがこう声をかけた。


[ひとまず無事で何よりだ。箱がドロップしたぞ]


「箱? ああ、白か……」


 シキに言われて秋斗が足下を見ると、そこには宝箱(白)がドロップしている。彼としては激戦を繰り広げたつもりなのだが、宝箱の色は白。必ずしも宝箱の色で中身のランクが決まってくるわけではないが、彼はちょっと不満だった。せめてつぎ込んだ魔石分以上のモノが出てくるのを願うばかりだ。


 クリーンの魔法を使ってさっぱりしてから、秋斗は歩いて遺跡エリアに戻る。向かう先は【鑑定の石版】がある場所だ。遺跡エリアは大部分がギガ・スライムに呑まれたはずなのだが、大きく崩れたり溶けたりした痕跡はない。復元されたのか元々無傷だったのかは分からないが、マップをそのまま使えるのはありがたかった。


 遺跡エリアにスライムの姿はない。一度ダイブアウトしない限り、再出現しないのだろう。ウェアウルフの時もそうだったので、秋斗に驚きはない。彼はのんびりと歩いて【鑑定の石版】のところへ向かった。


 宝箱(白)を開封する前に、秋斗は幸運のペンデュラムを使用する。中から出てきたのは、まるで水ようかんのようなモノ。ちなみに色は薄紅色だ。彼は若干顔を引きつらせながらソレを鑑定した。


 名称:秘薬(スライム水饅頭)

 スライム1000体分の経験値を得る。


「スゴい……。けど、なんか釈然としない……」


 秋斗は複雑そうな表情でそう呟いた。スライム1000体分の経験値は間違いなく凄い。一度に得られる経験値としては、間違いなくこれまでで最大だろう。だがなんで「スライム水饅頭」なのか。しかも括弧書きしてまで。「そんなにスライム推ししなくたっていいじゃないか」と秋斗は思うのだ。


「っていうか、これペンデュラム使った意味ないだろ」


 どう考えても、宝箱(白)の中身は最初から決まっていたとしか思えない。もしかしたら得られる経験値の量が変わったのかも知れないが。それなら幸運のペンデュラムを使った意味はある。


 秋斗は複雑そうな表情のまま、改めてスライム水饅頭をためつすがめつ眺める。魔石の代わりに使われているのはこし餡だ。ただ普通のスライムだとすると、魔石(こし餡)のサイズが大きい。ギガ・スライムが普通のスライムのサイズまで縮んだモノ、と一番近いように思えた。


(なんでやねん……)


 何を考えているのか自分でも分からなくなり、秋斗は自分で自分にツッコミを入れた。エセ大阪弁になったのは、彼の内心のバカバカしさの表れだろう。彼はため息を一つ吐いてから、スライム水饅頭を一口で食べた。


 カッと身体の中が熱くなる。一拍分だけ呼吸が止まったが、苦しさは全くない。呼吸が再開すると、全身の血液が音を立てて流れているように感じられた。細胞の一つ一つが潤っていく。


 とはいえそれも数秒のこと。まるでつぼみが花開くかのような、恍惚とした時間はすぐに終わる。秋斗は余韻を深呼吸と共に吐き出した。それから手のひらを開いたり閉じたりしてみる。


 身体の調子が大きく変わった感じはしない。考えて見れば、スライムだけで1万体以上倒しているのだ。1000体分の経験値は大きいが、全体の十分の一以下でもある。「こんなモノなのかも知れないな」と思いつつ、秋斗はダイブアウトを宣言した。


 ちなみに、スライム水饅頭は結構美味しかった。そして秋斗はそれがまた妙に釈然としないのだった。


秋斗「やはりスコップこそ対スライムリーサルウェポン……!」

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― 新着の感想 ―
[一言] スライム水饅頭・・・くっ、ふたつあればドールに以下略 それを、食べるなんて、とんでもない!
[気になる点] 10x10x10=1000 あまりにも経験値が少ない。 [一言] 火魔法作って攻撃したほうが効果あったんじゃ?
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