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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
Alice in the No Man's Wonderland
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トレント・キング1


 季節は秋を過ぎて冬になった。風がめっきり寒くなり、環境対応能力のついたミリタリーコートが毎日の登下校で活躍している。まあコートを着ても寒いものは寒いのだが。やはりリアルワールドでは環境対応能力も十全に発揮されるわけではないらしい。


「アキ君、はいコレ。プレゼント」


 そう言って少し恥ずかしそうにはにかみながら秋斗に紙袋を手渡したのは、同級生の早瀬紗希だった。紙袋の中身はモスグリーンのマフラー。それを見た秋斗は少し驚きながら彼女にこう礼を言った。


「おお、ありがとう。でも、またどうして?」


「ほら、前に髪飾りを買ってもらったでしょ? そのお返しにね。本当は手編みにしたかったんだけど、勉強時間確保のために既製品にしちゃった」


「そんなに高いモノでもなかったし、別に良いのに……」


「いや、プレゼントなのにこんなこと言っちゃ悪いんだけどね。そのマフラーはちょうど安くなっていたヤツだし、支払いも貯まってたポイントを使っただけだから。あんまり気にしないで」


 紗希がそう言うので、秋斗はもう一度礼を言ってプレゼントを受け取った。現在、そのモスグリーンのマフラーは登下校を含めた外出時に使わせてもらっている。


 なお、事情を聞いた友人の一人に「早瀬と付き合ってんの?」と聞かれたが、秋斗は「付き合ってない」と答えた。実際、告白したわけでもされたわけでもないので、付き合っているという事実はどこにもない。


 ちなみに、「バイクの免許を取ったら後ろに乗せてね」という約束はまだ果たされていない。免許を取ってから一定期間は、二人乗りはしてはいけないのだ。またあれこれしている内に季節が冬になってしまい、バイクでツーリングをするには少々寒くなってしまった。それで「暖かくなったらね」と話している。


 なお、その話を聞いていた友人の一人に「やっぱりお前ら付き合ってるんじゃね?」と言われたが、秋斗は「だから付き合ってない」と答えている。


 さてでは、肝心のアナザーワールドの探索はどうなっていたのか。まず鍾乳洞のクエストをクリアしてから満月が二回あり、遺跡エリアにはそれぞれウェアウルフが出現したので、秋斗はそれを討伐している。


 ドロップしたのは、二回とも魔石と宝箱(白)のセット。一回目の宝箱(白)には赤ポーションと青ポーションがそれぞれ二つずつ入っていた。赤ポーションは回復魔法で代用が利くが、今のところ魔力を回復させる手段は青ポーション以外にない。身体強化で魔力の使用量が格段に増えていることを考えると、青ポーションのストックが増えるのは心強かった。


 二回目の宝箱(白)から手に入れたのは、鉛色のインゴット(20kg)だった。鑑定して判明させたその金属の種類を鉱物辞典で調べてみたところ、なかなかのレアメタルであることが判明。シキが喜んでいた。


[竜の骨があっただろう? これはな、竜の骨と合わせて錬金合鋼れんきんごうきんを作るための素材だ。他にも必要な素材はあるが、それは手持ちがある。頼まれていた竜の骨を使った武器、何とかなりそうだぞ]


「おお、そいつは良かった。ところで今更なんだけどさ、錬金合鋼ってなに?」


[ざっくり説明すると、錬金術を用いて精製された合金のことだ。基本的には魔力を用いて使用することが前提になる]


「ふぅん……。錬金術ってのは?」


[これもざっくりとした説明になるが、魔力や魔素を含む、もしくはその影響を受けやすい素材を加工するための技術、だな。これはわたしの私見だが、かなり範囲が広そうだし、例えば鍛冶や裁縫などと被っている部分もあるのだろう]


「へぇぇ……。ってかシキさんてば、どこからそんな情報を仕入れたん?」


[地下墳墓のガーゴイルが居たところで、いろいろと生産道具を手に入れただろう? その中に、用語集的なモノが入っていたのだ]


「なるほどねぇ。あの時は周回プレイに忙しくて結構バタバタしてたからなぁ」


 本筋から逸れてしまった会話はこのくらいで良かろう。ともかく竜の骨を用いた武器を作成する、その目途が立ったのは朗報だった。


 シキはまず竜の骨を用いた錬金合鋼を作成した。その名を【ロア・ダイト】という。そしてそのロア・ダイトを用いて、シキが秋斗のためにまず作ったのは六角棒だった。


「おお、良いな。手に馴染む」


 ロア・ダイト製の新たな六角棒を手にして、秋斗は顔をほころばせた。長さや太さは、以前の六角棒とほぼ同じ。竜の骨が入っているからなのか、それでいて以前のモノよりも手に馴染む。色は黒だが、墨汁を塗りたくったような黒ではなく、どことなく透明感がある。


 何よりの違いは、魔力の通り方である。以前の六角棒と比べると、魔力の通りやすさは段違いである。普通のスニーカーとカーボンプレートの入った高反発シューズくらい違う。まるで武器が自分で魔力を吸い上げているかのようだった。


[鍛える際にも、魔力を込めて鍛えたからな。しかもアキ自身の魔力だ。二重の意味で相性は良いだろう]


「へぇ、そんなことまでやったのか。それもどこかに書いてあったのか?」


[いや、これは独自の工夫だ。だがサブカルチャー界隈ではありがちだろう?]


 シキが得意げにそう言うので、秋斗は思わず笑ってしまった。魔力の通りが良くなったその差は、武技の威力に直結する。ロア・ダイト製の新たな六角棒を使えば、スライムを一度の浸透打撃で倒せるようになったのだ。


「コレは、スゴいな……」


 魔石も含めて跡形もなく吹き飛んだスライムを見て、秋斗は苦笑気味にそう呟いた。むしろスライム相手には威力がありすぎる。魔石まで粉々になっていては、オーバーキル過ぎるというものだ。


 まさに「過ぎたるは及ばざるが如し」というヤツだ。力は制御されて初めて有用なのだ。それで秋斗はむしろ威力を抑えるために苦心しなければならなかった。まあ、それはそれで良い訓練になったが。


「やっぱりスライム相手にはスコップが一番だな」


 それを再確認して、秋斗は大きく頷く。それから「ところで」と言葉を続けて、さらにこう尋ねる。


「剣の方もロア・ダイト製にするのか?」


[いや、剣は竜の牙を使えないかと考えている。もっともまだ模索段階で、完成の目途は立っていないが……]


「そっか……。いや、でも無いとちょっと困るぞ」


 竜の牙を使った剣。なんとも心躍る武器だ。秋斗も是非実現して欲しいと思う。だがその一方で、その間ずっと剣が使えないのも困る。いや、予備の剣はあるのだが、どれもメインで使っていたバスタードソードと比べると一段も二段も劣るのだ。できれば以前と比べて遜色のない剣が欲しかった。


 そこで折れてしまったバスタードソードと曲がってしまった六角棒を鋳つぶして、新たなバスタードソードを二本作ることにした。竜の牙を使った剣ができるまでのつなぎとしては、これで十分だろう。ちなみにもう一本作れそうなくらいの素材が余ったが、さすがに三本目はいらないだろうということで、インゴットの状態で保管されている。


 さてここまでの話は遺跡エリアでのことが中心だったが、当然ながら秋斗はそのほかの場所でも探索を行っている。城砦エリアにも一度行っていて、前回探索しきれなかった範囲のマッピングを完了していた。めぼしい成果はなかったものの、ドールのパーツを補充できたのは良かった。


 さらに秋斗は城砦エリアの外に広がる森も探索していた。多数のトレントが潜む、あの森だ。トレントは一見して他の樹木と見分けがつかない。本来であれば、この森の探索は非常に難易度が高くなるだろう。


 だが秋斗にとってはむしろ楽な狩り場だった。シキがトレントの存在を教えてくれるからだ。しかもトレントが多数いるためなのか、他のモンスターは数が少ない。奇襲されたり先手を取られたりすることはほとんど無かった。


 森は広大で鬱蒼としている。普通ならあっという間に迷子になってしまうのだろうが、シキがマッピングをしているし、いざとなればダイブアウトすれば良い。新たな発見を求めて、秋斗は森の中をズンズンと進んだ。


 ただ彼は森の中を漫然と、彷徨うように進んだわけではない。幸運のペンデュラムを使い、その上で棒倒しをして進むべき方向を定めたのだ。


 そしてそのおかげか、成果はそれなりにあった。新たなクエストや石版を見つける事はできなかったものの、新しいアイテムを幾つか手に入れることができたのだ。それらのアイテムは後日鑑定したのだが、秋斗が気になったのは次のアイテムだった。


 名称:トレントの実

 トレント0.2体分の経験値を得る。


「0.2体分とはまた微妙な……」


 秋斗は苦笑気味にそう呟いた。ちなみにトレントの実には個体差があり、得られる経験値は一つにつき0.1~0.3体分程。味はリンゴに似ていた。


 はっきり言って、アテにするほどの経験値量ではない。その上、数十個ほども確保してしまった。経験値確保のためにこれを食べ尽くす気にはなれず、結局半分ほどは東京の勲へ送ることにした。


 まあそれはそれとして。トレントの森の探索を初めて76時間が経過した頃、秋斗はこの時の探索で最大のイベントに到達した。


 彼がまず見つけたのは、一本の大樹である。その大樹は威風堂々とそこにあった。高さはもちろん、幹の太さも、周りの木々と比べて一回り以上大きい。そしてシキの判定によれば、その大樹はモンスターだった。


「トレント・キング、か……?」


 秋斗はそう呟いた。本当にキングなのかは分からないが、少なくともそれに相応しいだけの風格はある。彼はゴクリと唾を飲み込み、かつてブラックスケルトンがドロップした斧をギュッと握りしめた。


 とはいえ彼は萎縮したりはしない。何しろここまで、トレント相手にほぼ無双状態なのだ。さらに彼は身体強化も使える。同系列のモンスターであれば、例え上位種であっても遅れはとらない。彼にはその自負があった。


 ふう、と息を吐く。そうやって集中力を高めてから、秋斗はトレント・キングへ向かって突撃した。だがあと5メートルほどで間合いに入ろうかというところで、思ってもみなかった異変が起こる。地面が揺れたのだ。


「な、なんだ!?」


 秋斗は思わず片膝をついた。足を止めた彼の目の前で木の根が蠢く。そして何と寄り合わさって次々に人の形になる。その姿はまるで棒人間だった。


「王を守る兵士、ってことか?」


 表情を険しくして秋斗がそう呟く。木の根でできた棒人間たちはみな赤い目をしている。つまり全てモンスターだ。どうやらトレント・キングが召喚したらしい。楽に勝たせてはもらえないな、と彼は呟いた。


紗希「ちなみにボーナスポイントが付くタイミングで買いました」

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― 新着の感想 ―
[良い点] トレントの実はどれくらいの大きさなんだろうか…… ナッツくらいの大きさなら食べやすそうだけどリンゴくらいの大きさなら持て余しそう。
[一言] >だがサブカルチャー界隈ではありがちだろう? なろう小説を無限に読ませようw
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