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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
箍の外れた世界
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鍾乳洞と地下神殿3


 鍾乳洞の中にあった、地下の巨大な窪地。鍾乳洞はそこから幾つかの方向へ枝分かれしていた。中には三次元的に交錯しているルートもあり、どのルートがどこへ通じているのかは行ってみなければ分からない。


 もっとも秋斗としては調べられる限りは調べるつもりでいる。だからどれが正解のルートなのかは特に気にせず、適当に分かれ道を一つ選んで探索を再開した。ただし全くの空振りでも良いと思っているわけでは決してない。


「セーフティエリアが見つかると良いんだけど……」


 秋斗はそう呟く。地下墳墓にはセーフティエリアがあり、そのおかげでずいぶんと攻略が助かったことを覚えている。この鍾乳洞は、たぶん地下墳墓よりもずっと広い。恐らくは泊まりこみで攻略することになるだろう。その時、セーフティエリアが有るのと無いのとでは攻略の難易度が大きく違ってくる。


 さて秋斗が進んでいくと、左側に地底湖が現われた。地底湖と言っても、それほど大きなものではない。楕円形で、10m×4mといったところか。もっともこれは目に見えている部分だから、本当はもっと大きいのかもしれない。水の中にも例の淡い光を放つ結晶があって、その光景は幻想的だった。


 のぞき込んでみると、水は恐ろしく透明で透き通っている。地底湖の水が綺麗なのは、濾過された水に埃が混じらないからだとか、溶け込んだ石灰成分が汚れなどに付着して底へ落としてしまうからだとか、聞いたことがある。アナザーワールドでもそうなのだろうかと、秋斗はちょっと考えてしまった。


「飲めるのかな……?」


[リアルワールドなら飲める場合もあるらしいが。試してみるか?]


「……止めとく」


 秋斗はそう答えて一歩後ずさった。水は十分な量をストレージにストックしてある。幾ら綺麗に見えても、何が混じっているのか分からないアナザーワールドの水を飲む気にはなれなかった。


 さて秋斗が進んでいくと、落石があったのか、通路が塞がれている。ただ隙間があって身をかがめれば通れそうだったので、秋斗は身体を小さくしてその隙間を通り抜けた。通り抜けた先は行き止まりになっていて、そこはまるで小部屋のよう。そしてその小部屋に宝箱が一つ置かれていた。


 秋斗は顔をほころばせてその宝箱を開ける。だがその中身を見ると、一転して彼は表情を険しくした。宝箱の中一杯に入っていたのは、ただの石ころだった。少なくとも彼の目にはそう見えた。


「なんだコレ?」


[鑑定してみないことには何とも言えないが。わざわざ宝箱の中に入っているということは、何かの鉱石ではないのか?]


「ああ、なるほど」


 秋斗が納得の表情を浮かべる。試してみたら宝箱ごと持ち上げられたので、彼は鉱石と思しきアイテムを宝箱ごとストレージにしまった。それから彼はふとこんなことを呟いた。


「アレが鉱石だったとして、この鍾乳洞は鉱石がとれるのかな?」


[試してみるか? 一応、ツルハシはあるぞ]


「止めとく。鉱石なのかただの石ころなのか、見分けがつかねぇわ」


 秋斗は肩をすくめてそう答え、再び身をかがめて隙間を抜け、元の通路に戻った。そして来た道を戻っていると、突然シキが「後ろだ!」と叫ぶ。同時に水しぶきの音が聞こえた。


「っ!」


 秋斗が後ろを振り返ると、そこには二体のリザードマンの姿があった。二体とも水に濡れている。地底湖から上がってきたのだ。水中を接近してきたために、直前までシキの索敵に引っ掛からなかったらしい。


「さすがリザードマン。泳ぎは得意ってか」


[地底湖に近づくときは、注意しないとだな]


 シキの言葉に頷きながら、秋斗はバスタードソードを構える。二体のリザードマンは何か骨のような武器を持っていた。水中を泳いでくるには、そういう武器の方が軽くて良いのかも知れない。彼はふとそんなやくたいもないことを考えた。


「ジャァァ……!」


「ジャア! ジャア!」


 二体のリザードマンも臨戦態勢を取り、牙をむいて秋斗のことを威嚇する。だが彼が怯まないのを見て苛立たしげに地面を足でかくと、二手に分かれて彼に襲いかかった。


 何もせずに突っ立っていれば挟み撃ちにされるだろう。それを避けるために秋斗も動いた。向かって左側のリザードマンに対して鋭く間合いを詰め、バスタードソードを水平に突き出す。


 リザードマンは手に持った得物でその突きを逸らす。だが秋斗はそこから強引に切り返し、バスタードソードの刃をリザードマンの肩口に押し当てる。そして振り抜くと同時に浸透斬撃を放った。


「ジャァア!?」


 リザードマンが悲鳴を上げる。バスタードソードの刃自体は、鱗に阻まれ深手を負わせてはいない。だが放たれた浸透斬撃は確実にダメージを与えた。斬りつけられたリザードマンは片腕をだらりと下げたまま秋斗のことを睨み付けている。


 秋斗は一旦距離を取った。もう一体のリザードマンが横合いから仕掛けてきたからである。その彼を追って、無傷のリザードマンがさらに仕掛ける。彼はその攻撃をかいくぐって懐に入ると、まず左手でリザードマンの顎をかち上げて噛付きを封じ、そのまま右手に持ったバスタードソードの柄尻でみぞおちを突く。同時に浸透打撃を放った。


「ジャァ……!?」


 リザードマンがたたらを踏んで後ずさる。秋斗はすかさず追撃して、その首もとにバスタードソードをねじ込んだ。そして蹴り飛ばすと同時に剣を引き抜き、二体目のリザードマンに備える。


 二体目のリザードマンは秋斗の側面に回り込んでいた。片腕はだらりと垂れ下がったままだが、もう一方の腕で骨っぽい得物を振り下ろす。彼がバックステップでそれを回避すると、さらに尻尾も振り回して追撃した。


(ここっ!)


 秋斗がバスタードソードを振り下ろし、リザードマンの尻尾を弾く。同時に彼は浸透斬撃も放っていて、そのためなのだろう、リザードマンの動きは目に見えて鈍った。リザードマンの尻尾はもしかしたらバランサーの役割もあったのかも知れない。


 ともかく、動きが鈍ったのは秋斗にとって好機だ。彼は素早い動きでリザードマンを翻弄し、その背後に回り込んだ。そして背中の真ん中目掛けてバスタードソードを突き出す。その切っ先が触れた瞬間、彼は浸透刺撃を放った。


「ジャァア!」


 リザードマンが悲鳴を上げ、そのまま前のめりに倒れる。秋斗はリザードマンが黒い光の粒子になって消え始めるのを見てから構えを解いた。そして一つ息を吐いてからバスタードソードを鞘に収め、二体分のドロップを回収する。


 ドロップの中には、リザードマンが使っていた骨っぽい武器も含まれていた。手に持ってみると、やはり何かの骨のように思える。意外とずっしりしていて、どうやらしっかりとカルシウムを取っていたらしい。


「何の骨かな?」


[骨だとすれば、かなり大型の獣だろうな]


 そんなふうにシキと言葉を交わしながら、秋斗はそれをストレージにしまった。ドロップを回収し終えると、彼は地底湖に近づきその水面をのぞき込む。


 二体のリザードマンは確かにこの地底湖から上がってきた。リザードマンが地底湖の中で出現したのなら、話はそれほど複雑ではない。だがそうではなかった場合、話は複雑になる。リザードマンは水中の水路を通って、別の場所からやって来たことになるからだ。それはつまり今後、水路を泳いで探索しなければならない可能性を示唆している。


 だが実際問題としてそれが可能かというと、はっきり言って不可能だ。水中でリザードマンと戦っても勝てないだろうし、もっと根本的な話として息が続かない。秋斗は潜水用の装備など持っていないのだ。


「仮に……」


 仮に水路を使わなければ地下神殿へたどり着けないとして、その場合、クエストのクリアは事実上不可能と言わなければなるまい。「どうするかな」と思い、秋斗は無意識に顔をしかめた。


[今あれこれ考える必要はないだろう。ひとまずできる限りのマッピングをして、それでも地下神殿が見つからなかった時に考えればいい]


「ま、それもそうだな」


 秋斗は肩をすくめてそう答える。そんな彼にシキはさらにこう言った。


[それに、だ。導きの羅針盤を使ったときには、同時に幸運のペンデュラムも使っていた。そうやって見つけたクエストなのだから、攻略不可能な難易度ということはないと思うぞ]


 それを聞いて、秋斗は大きく頷いた。その通りだと思ったのだ。いずれにしても今は探索範囲を広げていくしかない。彼は踵を返して来た道を戻るのだった。


秋斗「地底湖って幻想的だよね」

シキ[見とれて奇襲されないようにな]

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ストレージに空きがあるなら、少しくらい鉱石や水を回収してもいいかな。
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