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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
箍の外れた世界
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鍾乳洞と地下神殿2


[アキ。そこの角を曲がった先に二体]


 シキがモンスターの存在を秋斗に伝える。同時に彼の視界に俯瞰図が表示され、そこに赤いドットが二つ点灯した。


 秋斗は一つ頷くと、左手でバスタードソードの柄を押え、右手に魔石を握った。そして息を殺して角へ近づく。そっと角を覗くと、そこにはリザードマンが二体。隱行のポンチョのおかげもあってか、リザードマンが彼に気付いた様子はない。


 秋斗は息を殺したまま魔石に思念を込める。そして角から手だけ出して、その魔石をリザードマンへ投げつけた。次の瞬間、けたたましい放電音と共に雷魔法が発動する。これまでに散々多用してきた、雷魔法による奇襲戦法だ。


「ジャジャァ!?」


 リザードマンが悲鳴を上げる。秋斗は角から飛び出し、バスタードソードを抜いた。そして一気に間合いを詰め、一体目のリザードマンの喉元へ剣をねじ込む。刃は喉を貫通して向こう側へ突き抜けた。致命傷である。


 彼はそのリザードマンを蹴り飛ばして剣を抜き、視線を二体目へ向けた。二体目のリザードマンはまだしびれている様子だったが、それでも牙をむいて彼へ襲いかかる。彼はその噛みつき攻撃を回避したが、リザードマンの姿勢は低くなっていて、しかも背中を彼のほうへ見せている。


 普通なら反撃のチャンスだ。だがリザードマンの背中はびっしりと鱗に覆われていて、つまり防御力が高い。普通に斬りつけただけでは致命傷にはならないだろう。秋斗は少しだけ顔をしかめ、しかし躊躇なくバスタードソードを振り下ろした。


 狙ったのはリザードマンの首筋。だが鱗に阻まれ、首を刎ねるにはいたらない。しかしリザードマンは地面に倒れて絶息した。浸透斬撃である。黒い光の粒子になって消えていくリザードマンの骸を見下ろし、秋斗は「ふう」と息を吐く。そして戦闘を振り返ってこう呟いた。


「雷魔法は効く。だけどゴブリンと比べると効きが悪い感じかな」


[鱗で弾かれるのかもしれないな]


 シキの推論に秋斗も頷く。まだ一回しか試していないので確たることは言えない。だが彼はシキの言うことが正しいような気がしていた。何にしてもこの先、雷魔法をくらわせたからと言って油断はできない。


「浸透攻撃はよく効いたけど……」


 秋斗はそう呟いて苦笑を浮かべる。逆を言えば、浸透攻撃以外はいまいち効きが悪いということだ。そして浸透攻撃は実戦で使えるレベルに仕上げてあるとは言え、決して気軽に使えるものではない。難易度が高い技であることに変わりはないのだ。


「今回のクエストも、一筋縄ではいかなそうだなぁ」


[スコップ一本を頼りにゾンビの群れに突っ込んだ時と比べれば、幾分はマシだろう]


「なるほど。そりゃ、確かに」


 地下墳墓に初めて足を踏み入れた時のことを思い出し、秋斗は思わず真顔になって頷いた。あの頃と比べれば、確かに装備も手札も充実している。そこは安心材料というか、自信を持っても良いところだろう。


 秋斗はバスタードソードを鞘に収めると、二体分の戦利品を回収する。魔石が二つと、あとは鱗が数枚。鱗は二センチほどの大きさで、これでスケイルメイルを作るのは難しそうだ。ただ枚数を集めて盾の表面に貼り付けるなどすれば、防御力を上げるのには役立ちそうである。


 戦利品の回収を終えると、秋斗はさらに奥へ進んだ。奥へ進むほど、鍾乳洞の中はひんやりとしていて肌寒い。なおかつ湿度が高いように感じる。あまり快適な環境とは言えなかった。秋斗はストレージからミリタリーコートを出して羽織った。


 地下墳墓のリッチを倒した時に手に入れたコートで、「環境対応能力」がついている。そのコートを羽織ると肌寒さが和らぎ、さらに空気も軽くなったように感じた。


 秋斗は腕をグルグルと回してみるが、動かしにくさは感じない。剣帯をミリタリーコートの上から巻き直した。一方で隱行のポンチョは、少し迷ってからストレージに片付ける。コートの上にポンチョでは、それこそ動きにくいだろうと思ったのだ。


[気配を隠しにくくなるぞ。いいのか?]


「まあそうなんだけど……。やっぱり寒いと動きが鈍るから、コートかな」


 シキの懸念に秋斗はそう答える。鍾乳洞がどれだけの規模なのかは分からない。寒い寒いと凍えていては、攻略はままならないだろう。まずはコンディションを優先するべき、というのが彼の考えだった。


 それに環境対応能力というのは、効果を及ぼす範囲が広いらしい。鍾乳洞の中は足下が湿っていて滑りやすいのだが、このミリタリーコートを装備しているとそれが明らかに軽減されている。リザードマンと戦う上では、ポンチョよりもこのコートの方が有用だろう。秋斗はそう思った。


 さて、鍾乳洞の奥へと進んでいた秋斗は広々とした空間に出た。彼の通う高校のグラウンドよりもさらに広いように思える。天井も高く、数十メートルはあるだろう。地下の巨大空間を前にして、秋斗は圧倒されたかのように「はぁ」と息を吐いた。


[アキ、ここなら長物が使えるぞ]


 シキにそう言われ、秋斗はハッと我に返った。そしてストレージから六角棒を取り出す。槍にしなかったのは、リザードマンの防御力を考えての事だ。浸透攻撃がメインになるなら、打撃武器のほうが何かと都合が良い。


 巨大空間は窪地になっていて、まばらだがあちこちに淡い光を放つ結晶がある。そしてリザードマンの姿も。秋斗は六角棒を握りしめて窪地へ降りていった。石の転がる音がして、一番近くにいたリザードマンが顔を上げる。そして赤々とした目を秋斗の方へ向けた。


「ジャァア!」


 リザードマンが雄叫びを上げて威嚇する。秋斗は半ば飛び降りるようにして間合いを詰めた。ミリタリーコートの裾が翻る。さっきの雄叫びはこの広い窪地に響き渡った。すぐに他のリザードマンが押し寄せてくるだろう。目の前の敵はさっさと潰すに限る。


「はああああ!」


 秋斗は六角棒を大きく振りかぶる。そして高い位置からリザードマンの頭へ全力で叩きつけた。リザードマンは腕を交差させて防ごうとしたが、押し込まれて六角棒を額にくらう。その瞬間、秋斗は浸透打撃を叩き込んだ。


「ジャァ!?」


 リザードマンが悲鳴を上げる。目と鼻と口からは血が流れた。赤々とした目からは輝きが失せ、リザードマンは崩れ落ちて地面に転がった。だが秋斗は険しい表情を緩めない。周囲を見渡しつつ、シキにこう求めた。


「俯瞰図!」


 返事はない。だが次の瞬間、秋斗の視界に俯瞰図が表示された。敵を表す赤いドットがわらわらと寄ってくるのが分かる。彼は敵と距離を取るようにしながら窪地を斜めに駆け上る。同時に魔石を握りしめて思念を込めた。


 秋斗は俯瞰図を見ながら走るスピードを調節する。そして頃合いを見て、思念を込めた魔石を投げた。雷魔法が発動し、けたたましい放電音にリザードマンの悲鳴が多数混じる。秋斗は踵を返してリザードマンの群れへ突貫した。


 リザードマンの動きは鈍い。だがまったく動けなくなっているわけではない。やはり雷魔法の効きが悪いのだ。秋斗は反撃をいなしたりかわしたりしながら六角棒を振り回し、リザードマンを突き飛ばしたり叩き伏せたりした。


 一見すれば、秋斗が優勢だ。だが彼の表情は険しい。浸透打撃が思うように使えないのだ。そのせいでダメージは入るものの、なかなか倒すまでにはいたらない。苛立ちと焦りが募った。


[落ち着け、アキ。一体ずつだ]


 シキの声が頭の中に響き、秋斗が冷静さを取り戻す。斬りかかってきたリザードマンの攻撃を回避し、すれ違いざまに六角棒でその足を払う。転倒したリザードマンの背中に六角棒の先端を押しつけ、グッと押し込むと同時に浸透打撃を放つ。リザードマンは「ガァ!?」と血を吐いてそのまま力を失った。


 秋斗は次のリザードマンを狙う。他のリザードマンが邪魔してくるが、その場合は突き飛ばすか転ばせるかして対処した。浸透攻撃でなくても、一撃入れればその分だけ動きは鈍る。そう考えれば焦ることはない。そして狙ったリザードマンは浸透打撃で確実に倒した。


「ふう」


 全てのリザードマンを倒すと、秋斗は一つ息を吐いた。視界に映る俯瞰図にも、赤いドットは表示されていない。秋斗は散らばる戦利品を回収した。そしてそれを終えると、彼はこの巨大な窪地の底へ向かった。


 窪地の底には幾つかの巨岩が折り重なっていて、その間には人が通れそうな隙間があいている。シキにモンスターがいないことを確認してから、秋斗はその隙間へ身体を入れる。首だけ動かして周囲を見渡すと、外からは見えない位置に石版があった。彼は「おっ」と呟いて手を伸ばし、その石版に触れた。得られた情報は次の通りだ。


【魔素は時空を歪める】


「おお、なんか一気にSFだな。ワープとかできちゃいそう」


[だが今更だぞ、これは]


 シキが呆れたような声でそう呟く。例えばアナザーワールドへのダイブインやダイブアウトは、明らかに別の空間への瞬間移動だ。つまり空間が歪んでいるといえる。


 またアナザーワールドでどれだけ活動してもリアルワールドでは一秒しか経過しないことは、時間が歪められていると言える。二つ合わせれば時空が歪んでいるわけで、その原因を魔素に求めるのはごく自然なことだ、とシキは言う。


「なるほど。そう言われればそうだな」


[とはいえこうして明示的に情報が出てきた。であればできるのかもしれないな、ワープ]


「お、マジで?」


[その界隈では鉄板ネタだろう、転移魔法は]


「だいたいは超難易度が高いか、ロストマジック扱いだけどね、転移魔法。……で、本当にできそう?」


[現状では百年かけても無理だな]


「ダメじゃん」


 そう言ってひとしきり笑ってから、秋斗は巨岩同士の隙間からはいだした。それから窪地のマッピングを完了させる。するとこの窪地から幾つかルートが枝分かれしていることが分かった。


[どうする?]


「全部調べる」


 秋斗はそう即答した。そして早速、分かれ道の一つを選んで進んでいく。道は狭かったので、六角棒はストレージに片付けた。


秋斗「ワープ!」

シキ[……した先でもダイブアウトできるのかは別問題だぞ」

秋斗「……」

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