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World End をもう一度  作者: 新月 乙夜
箍の外れた世界
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クエスト探し


 ウェアウルフとの二度目の対決は、やはり満月の夜のことだった。前回と同じくやはりこの夜も、遺跡エリアからはスライムの姿が消えていた。そしてオオカミの遠吠えがこだまする。秋斗は焦らずに槍を構えた。


[アキ、後ろだ!]


 頭の中にシキの声が響くのと同時に秋斗はその場から飛び退いた。その直後、大きな影がその場所を通り過ぎていく。そして崩れかけたレンガの壁を破壊した。ウェアウルフである。ウェアウルフは秋斗へ赤々とした目を向け、鋭い爪をベロリとなめた。


「今日はポンチョを着てきたんだけどなぁ」


 そうぼやきながら、秋斗はウェアウルフに向けて槍を構え直す。彼は今、隱行のポンチョを装備している。だが後ろから先制攻撃されてしまった。ウェアウルフは彼のことをしっかり認識しているのだ。つまり隱行のポンチョはその効果を発揮していない。


[鼻が利くのだろう。オオカミ面をしているからな]


「納得だ!」


 ヤケクソ気味に叫びながら、秋斗はまたその場を飛び退いてウェアウルフの攻撃を回避する。そして槍の穂先をきらめかせて反撃する。縦横無尽に振るわれた槍は確かにウェアウルフの身体を捉えたが、しかしその毛皮を切り裂くことはできなかった。


「相変わらず、どういう毛皮してんだろうなぁ!?」


 嘆きつつも、秋斗の表情は好戦的だ。そもそも彼は一度ウェアウルフを倒している。普通の攻撃が通じないのは承知の上で、それでもこうして仕掛けたのは別のことを確認するためだった。


「よし、コイツはまっさらなウェアウルフだな」


 一度距離を取ってから、秋斗はそう呟いて一つ頷いた。まっさらというのはつまり、前回の戦闘の経験を引き継いでいない、ということである。そしてそうであるならば話は簡単だった。急所へ一撃、浸透攻撃を入れてやればいい。


 秋斗はときどき意味のない攻撃を挟みながら、ウェアウルフの鋭い爪と凶悪な牙を避け続けた。そうやって彼は好機を待つ。そして彼が槍を突き出したとき、ウェアウルフはむしろ胸を張ってそれを受け止めようとした。


 防御力を誇示する、威嚇行動だったのだろう。だが秋斗にとってそれはまたとない好機だった。彼は槍の穂先がウェアウルフに届くのと同時に、浸透刺撃を叩き込んだ。


「グヴァバァァ!?」


 ウェアウルフは血を吐きながらくぐもった悲鳴を上げた。赤々とした目から輝きが失せる。秋斗が槍を引くと、ウェアウルフは前のめりに倒れた。そして黒い光の粒子になって消えていく。後には魔石と宝箱(白)が残った。


「ふう。初見殺しが通用すると楽だな」


 秋斗は笑顔を見せながら呟き、戦利品を回収した。今回でウェアウルフの攻略法はだいたい確立できたように思う。そして今回も宝箱がドロップした。彼は今から次の満月の夜が楽しみだった。


 魔石をストレージに片付けてから、秋斗は宝箱(白)を開封する。実はウェアウルフとの戦闘を想定し、今日はダイブインする前に幸運のペンデュラムを使用してある。そして今はまだその有効時間内。期待が募った。


 宝箱(白)の中から出てきたのは、一枚の黒いカード。彼は【鑑定の石版】のところへ移動し、その黒いカードを鑑定した。結果は次の通りである。


 名称:セキュリティカード

 トラップを解除する。


「おお! ってことは、黒箱を開けられるのか?」


 秋斗は歓声を上げ、ウキウキしつつストレージから宝箱(黒)を取り出す。セキュリティカードをどう使えば良いのか分からず首をかしげたが、ルービックキューブのような小さいブロック同士のその隙間にカードを差し込むと、カードはそのまま箱の中に入っていった。そして次の瞬間、変化が起こる。


 宝箱(黒)を構成する、黒い小さなブロックが次々に回転し始めたのだ。そして回転しながら反転していく。全てのブロックが反転し終わると、ブロックの色は黒から銀色に変わっていた。鑑定してみると、名称も宝箱(銀)に変わっている。もちろん、罠もない。


「中身的には、黒箱と銀箱はだいたい等価なのかな」


[恐らくそうなのだろうな]


 頭の中に響くシキの声に一つ頷きながら、秋斗は宝箱(銀)をひねって開封する。出てきたのは手のひらに載るサイズの、方位磁針のようなアイテム。幾何学模様で装飾されていて、素人目にも良い品物に見える。


 インテリアとして飾っておいても映えそうなアイテムだ。ただ初めて手に入れるアイテムで、何にどう使うのかはさっぱり分からない。秋斗はこのアイテムも【鑑定の石版】で鑑定してみた。結果は下記の通り。


 名称:導きの羅針盤

 使用地点から最も近いクエストを指し示す。


「クエストか……!」


 鑑定結果を見て、秋斗は目を輝かせた。【クエストの石版】をコンプリートして以来、彼はクエストを見つけていない。新たなエリアを探索したり、その中で強敵と戦ったりはしたが、それはクエストではなかった。


 だがこの導きの羅針盤を使えば、新たなクエストを見つける事ができる。秋斗は久しぶりにワクワクしてきた。これまでの探索がつまらなかったとか、まして苦痛だったとかそんなことはないのだが、それでもクエストと聞けばやっぱりテンションが上がる。


 ただ彼はすぐにこのアイテムを使用することはしなかった。この遺跡エリアの近くはすでに探索し尽くしてある。つまりこの近辺にクエストはない。「最も近いクエスト」とはいえ、そこへ行くまでに数日かかることも覚悟しなければならない。


 また地下墳墓の例もある。あのクエストは一週間の制限時間内に何度も挑戦することができた。似たようなクエストだった場合、そのクエストをやりこむためには、事実上ダイブアウトできないことになる。考えすぎかもしれないが、しっかりと準備しておくに越したことはないだろう。


 秋斗は導きの羅針盤をストレージに片付け、この夜はひとまずダイブアウトした。そして翌日は時間の許す限り、自動車学校で単元を消化する。クエストが遠くにあった場合、移動にバイクが使えた方が楽だからだ。


 そして満月の夜から数えて翌々日。秋斗は学校から帰ってくると、探索服に着替えてアナザーワールドへダイブインした。そして幸運のペンデュラムを使用する。それから導きの羅針盤を取り出し、そこへ魔力を込める。すると針が勢いよく回り始め、数秒経ってからある方向をピタリと指し示した。


「アッチか」


 秋斗は針が指し示す方向を眺める。彼の知る限り、その方向に川や大きな湖などはない。移動のために大きく迂回させられることはないだろう。もっとも、あくまで探索済みの範囲に限っての話だが。


「どんなクエストかな。できれば【クエストの石版】みたいじゃない、単発のクエストが良いんだけど……」


 秋斗はそう呟き。仮に【クエストの石版】のような形式だった場合、コンプリートするまでに何度もそこへ足を運ぶ必要がある。場所にもよるが、それは大きな手間だ。できれば避けたいと彼は思っている。


[期待しても良いのではないか? そのために幸運のペンデュラムを使ったのだしな]


 頭の中に響くシキの声に、秋斗は大きく頷いて応える。導きの羅針盤を使う前、当然ながらクエストの位置や内容は分からない。もしかしたら最初から決まっているのかも知れないが、秋斗にはそれを確認する手段がない。


 つまり秋斗にとって「クエストの位置や内容」は「まだ観測されていない未来」なのだ。そして幸運のペンデュラムには「まだ観測されていない未来を使用者にとって都合の良い方向へ改変する」という能力がある。


 秋斗は幸運のペンデュラムを使ってから導きの羅針盤を使った。よってクエストの位置や内容は彼にとって都合の良い方向へ改変されている可能性がある。というより、それを狙ってペンデュラムを使ったのだ。


 ただし本当に改変されたのか、それを確認する手段はない。彼にできるのは「改変された」と信じる事だけだ。とはいえこれまでの経験則からして幸運のペンデュラムの力は本物だ。だからシキの言うように期待できると秋斗も思っていた。


 まあそれはともかくとして。秋斗は導きの羅針盤をストレージにしまう。そして装備を確認してから歩き始めた。羅針盤の針が指し示した方向へ、ではない。その方向から見て垂直に右方向へ、である。


 これは実際にクエストへ向かうための準備の一環だった。二つの地点から羅針盤の針の傾きを計測し、地図上に直線を引いて交差させることで、クエストの位置とそこまでの距離を事前に調べておくのだ。


 もちろん精密に計算するわけではないから、位置も距離も概算だ。だが大まかにでも数字が分かれば、どれくらいの準備をすれば良いのかも分かってくる。何より、「いつ到着するのか分からないまま歩き続ける」ということをしなくて良い。


 この前準備を提案したのはシキだった。説明を受けて秋斗も納得し、こうして実行に移す運びとなったのである。実際、「徒歩で十日の距離」とかだったら、いくら羅針盤があるとはいえ何も知らないでそこを目指すのは難しい。恐らく到達できずにダイブアウトする羽目になっただろう。到達できたとしても、クエストをクリアできるかは別問題だ。


 だが事前に分かっていれば、それを前提にしていろいろと考える事ができる。たくさんの食料を用意するのか、それともバイクの免許の取得を優先するのか、などである。また万が一、導きの羅針盤が失われたとしても、大まかでも位置が分かっていればクエストを探すことができる。つまりこの前準備には保険的な意味合いもあるのだ。


 さて、秋斗はこの前準備のためにおよそ十八時間歩いた。彼はだいたい五時間毎にシキがアイコンで指定する位置で羅針盤の針の傾きを測定する。彼は全部で三カ所、同じように針の傾きを測定した。一カ所ではなく三カ所にしたのは、当然ながら精度を上げるためである。ちなみにこの間に一度、彼は仮眠を挟んでいる。


「よし。これくらいで良いだろ」


[うむ。十分だ]


 シキがそう言ったので、三カ所目で秋斗は測定を切り上げた。そして彼は相棒に成果を尋ねる。


「で、クエストまではどれくらいの距離なんだ?」


[概算だが、だいたい徒歩で七日くらいの距離だな]


「七日かぁ」


 微妙だな、と秋斗は思った。徒歩で行けないことはないだろう。だが何度も通うとなるとかなり面倒な距離だ。彼はどうしようかと思い、後で考えることにした。そして彼はダイブアウトを宣言する前に、もう一度仮眠を取る。リアルワールドでの時間を有効に使うためだ。


 仮眠から目覚めると、秋斗はコーヒーで一服する。それから彼はダイブアウトした。リアルワールドに戻ってくると、彼はまずシャワーを浴びて汗と埃を落とした。季節的にシャワーは少し寒かったが、秋斗的にはまだまだいける。これもレベルアップの恩恵だろう。


 シャワーを終えて身支度を調えると、秋斗は自動車学校へ向かう。リアルワールドでもアナザーワールドでも、彼は結構忙しい。


シキ[精度については期待するな]

秋斗「大まかでいいって」

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― 新着の感想 ―
[一言] 「たくさんの食料を用意するのか、それともバイクの免許の取得を優先するのか、などである。」 バイクにこだわらなくても、自転車で十分じゃないの?
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