表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/286

日帰り遠征7


 部屋の中には、事前に確認したとおり四体のドールがいた。一体が重装備で、他の三体は軽装備。得物は四体全てが剣と盾。ただし重装備のドールの装備は、他と比べて一回り以上も大きいように見える。


 秋斗が部屋の中へ殴り込んでも、四体のドールの反応は弱々しい。雷魔法のダメージがしっかりと残っているのだ。もしかしたら、ドールらの金属製の装備品と雷魔法は相性が良かったのかも知れない。


 ともかく、敵の動きが鈍いのなら絶好の好機である。ただ今の秋斗に四体のドールを一度に全て攻撃する手段はない。最初に狙うターゲットを選ぶ必要がある。弱い敵から狙うのか、それとも強い敵から倒すのか。その判断は即座に下さなければならなかった。


「……っ」


 険しい顔をしながら、それでも秋斗は思い切り六角棒を振るった。狙ったのは軽装備のドールの内の一体。腹部に六角棒を叩き込み、そのまま大きく弾き飛ばして、部屋の壁に叩きつける。


 そのドールを倒したのかを確認しないまま、秋斗は二体目のドールの仮面に六角棒をねじ込んだ。そのドールが崩れ落ちるのと同時に、彼は六角棒を振りかぶり三体目のドールの兜へ叩きつける。兜が脱げたが、そのせいで衝撃が殺がれている。彼は小さく舌打ちして今度は下から六角棒を振り上げ、アッパー気味にドールの仮面を割った。


 盾を使う暇も与えずに軽装備のドールを二体倒すと、そこで重装備のドールが動いた。盾を前面に構え、体当たり気味に秋斗へ突っ込んでくる。シールドバッシュだ。彼はそれを大きくサイドステップしてかわした。


[アキ、後ろだ!]


「おっとぉ!」


 シキの警告を受け、秋斗は声を上げながら、しかし余裕を持ってその場から飛び退く。次の瞬間、ドールの白刃が空を切った。最初に壁に叩きつけたドールだ。どうやら倒せていなかったらしい。


 秋斗は舌打ちしたが、動きは止めない。そのままドールの側面へ回り込み、まるでバットを振るかのようにして、六角棒をドールの腰のあたりへ叩き込む。そして六角棒を振り抜いた。


 軽装備のドールは、踏み込んだ勢いも相まって、そのまま前方へつんのめった。そして重装備のドールにぶつかって絡まる。重装備のドールは疎ましげに軽装備のドールを引き剥がそうとするが、それより早く秋斗は六角棒を投げつけて追撃した。


 重装備のドールが尻餅をつくようにして床の上に倒れる。その好機を見逃さず、秋斗は一気に間合いを詰めた。ストレージに手を突っ込み、大きなハンマーを取り出す。両手で高々と振りかぶり、ドールが苦し紛れに突き出した剣をかわして、フルフェイスの兜をかち割る勢いで振り下ろした。


 兜が陥没し、重装備のドールは力を失って床の上で大の字になる。秋斗はもう一度ハンマーを振りかぶると、起き上がろうともがく軽装備のドールへそれを叩きつける。それで最後のドールも力を失った。


「ふう」


 全てのドールが黒い光の粒子になって消えたのを見て、秋斗は一つ息を吐いた。シキはそんな彼に「お疲れ」と告げ、ストレージを操ってドロップを回収している。最後に得物を六角棒に戻してから、天守キープ三階の探索を再開した。


 三階ではほとんどの場合、モンスターは部屋の中にいた。一方で廊下は出現率が低い。そのおかげで秋斗は「廊下で雷魔法の準備をしてから奇襲する」というパターンで戦うことができた。一カ所、重装備のドールばかり三体もいた部屋があって、雷魔法による奇襲ができなければ、その部屋の探索は諦めなければならなかっただろう。


 ただそうやって全ての部屋を調べて見ても、三階で何かの資料やアイテムを見つけることはできなかった。代わりに、ドールからは色々とドロップが得られている。ただそれらを使うかどうかは微妙なところだ。


「ドールのパーツなんて使い道ないし、武器もなぁ……。ブラックスケルトンがドロップしたヤツの方が良さげだし」


[防具は使わないのか?]


「なんか動きにくくなりそうでなぁ」


[全て装備する必要もあるまい。胸当てや籠手、脛当てなど、一部でも装備してはどうだ?]


「う~ん、まあ、考えとく」


 秋斗はそう答えて、ひとまず返答を保留した。彼の頭にあったのは、これからいよいよ吹き抜けに面したバルコニーにいる弓兵ドールを排除する、ということだった。バルコニーに通じている廊下は三つ。彼はその内、正門から見て右側の廊下を選んだ。


 敵の侵入を防ぐためなのか、バルコニーに通じる廊下は狭い。長さは十メートルほどだろうか。秋斗は角に身を隠しながら、そっとバルコニーの方を窺った。配置されている弓兵ドールは一体しか見えなかったが、微動だにしないソレはまるで置物のようにも見えた。


 秋斗はポケットから魔石を取り出し、シキに周囲の警戒を頼んでから、そこへ思念を込め始めた。使うのは雷魔法。そしてじんわりと熱くなった魔石をバルコニーの弓兵目掛けて投げる。それから彼はすぐに通路の角へ身を隠した。


 次の瞬間、けたたましい放電音が鳴り響く。それが収まってから、秋斗は六角棒を握りしめてバルコニーへ突撃した。


 まず目に入った弓兵ドールは二体。どちらも雷魔法を受けて動きが鈍っている。秋斗は素早く六角棒を振るい、その二体の仮面をかち割った。


 その二体が崩れ落ちるのと同時に、秋斗は次のドールに視線を移す。三体目のドールも、雷魔法の影響を受けたのか動きがぎこちない。ただその後ろで、別のドールが弓に矢をつがえようとしている。


 秋斗は低く踏み込むと、六角棒を思い切り繰り出して三体目のドールを後ろへ突き飛ばし、四体目のドールと激突させる。二体のドールはまとめて後ろへ倒れ込み、秋斗は一体目は仮面を踏みつけてこれを割り、もう一体は六角棒で頭部を破壊した。


 秋斗が視線を上げると、五体目のドールが弓で彼を狙っている。しかし彼は臆せずに前へ出た。彼が踏み込むのと同時に矢が放たれる。彼は身体をひねってそれを回避し、さらに六角棒をドールの仮面にねじ込んでこれを倒した。


「残りは!?」


[十!]


 頭の中で響くシキの声を聞きながら、秋斗は走る。立ち止まっていては的になるだけだからだ。そしてバルコニーの角を曲がろうとしたところで、彼は頬を引きつらせる。三体の弓兵ドールが横に並び、それぞれ弓を構えていたからだ。


 普通に角を曲がれば、一斉射を受けるだろう。そう思い、秋斗は角を曲がったところで大きく跳躍した。そして壁を二歩駆けて放たれた矢を回避する。さらに六角棒を大きく振りかぶり、横に並んだ三体の内の真ん中のドールへ振り下ろした。


 兜と一緒に、六角棒をくらったドールの頭部が破壊される。振り下ろした六角棒を、今度は跳ね上げて二体目のドールを壁に叩きつける。さらにその反動を利用して三体目のドールの仮面をかち割った。


[二体目! まだ生きてるぞ!]


「おっと!」


 別のドールが射た矢をかわしながら、秋斗は二体目のドールに止めをさす。それから彼は姿勢を低くして、通算九体目のドールへと間合いを詰める。そのドールが次の矢をつがえるより早く、秋斗の繰り出した六角棒がそのドールの胸を突いて、後ろへ大きく突き飛ばした。


[アキ、廊下に入れ!]


 シキの指示に従い、秋斗は右に折れて廊下に入り、走ってバルコニーから遠ざかる。そして角でまた折れて身を隠し、ポケットから魔石を取り出して左手で握った。そして思念を込める。


 秋斗の耳はガシャガシャという足音を捉えている。どうやらバルコニーにいた弓兵ドールたちが追ってきたらしい。彼は身体を隠したまま、左手だけ伸ばし手首のスナップを使って思念を込めた魔石を廊下に放り込む。次の瞬間、けたたましい放電音が響いた。


[全部で四体だ]


「……っ」


 シキから敵の数を聞き、秋斗は六角棒を握りしめてバルコニーへ続く廊下に突撃する。そこには聞いたとおり四体の弓兵ドールがいて、それぞれ動きを鈍らせている。彼は六角棒で突いたり叩いたりしてそれらのドールを倒した。


[残り、三]


 シキの声が秋斗の頭の中に響く。彼は小さく頷き、残りのドールが弓を構えるのを見てまた廊下へ引っ込んだ。ドールらの姿は見えなくなるが、追ってきていることをシキが教えてくれる。彼はもう一度小さく頷いてから、先ほどと同じように通路の角に身を隠して魔石を握った。


 残りのドールが細い廊下へ入ってくると、秋斗は雷魔法を発動させてそれを迎え撃つ。そして先制攻撃が決まってしまえば、後はワンサイドゲームだった。十五体の弓兵ドールを全て倒しきり、秋斗は大きく息を吐いた。


 ドロップを回収し終えたあと、秋斗は広めの廊下で休憩を取った。前述した通り、三階の廊下はモンスターの出現率が低いからだ。ストレージからから炊き込みご飯のおにぎりが入ったタッパーを取り出し、それを二つ頬張る。お茶を飲んで一息つくと、シキが彼にこう尋ねた。


[それでアキ。次は二階に行くのか?]


「いや、このまま四階に行こう」


 二階へ戻り、またバルコニーにいる弓兵ドールを倒せば、一階のエントランスにいるナイトと戦う準備が整うことになる。ナイトを倒せば一階の探索だ。そこまではいいが、一階の探索が終わった後、また四階まで上るのも面倒である。


 なら五階建てのこの建物の三階まで来たのだ。四階と五階を探索してから一階へ戻った方が、階段の上り下りは少なくて済むだろう。そして下へ降りるときに、もう一度三階のバルコニーで弓兵ドールがリポップしていないか確認すればちょうど良い。


 秋斗がそう説明すると、シキは「なるほど」と言って同意した。方針が決まったところで、彼は休憩を切り上げる。そして階段を上り、彼は四階へ向かうのだった。


エントランス在住のナイトさん(なんか上が騒がしい……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] なんかめちゃくちゃ強くなってきましたね [一言] 各地で別マップ?いけるの旅行が楽しそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ